第2-13話 タケミの過去〔中編〕
それからタケミとノオは来る日も稽古や狩り、家事に明け暮れた。
日が流れ、明日はタケミの八雲流伝承により、霧の洞窟に奉納され封印されている刀を受け継ぎ新たに封印するという儀式が行われる。
それによりタケミは後継者として八雲流を正式に受け継ぐ。
そして父の仕事を学び、将来的には長としてこの村を収める。
だがタケミは不満を持っていた。
(後継者になれば一人前になれる)
そう思っていたのだが、
(やはり父が言うように形だけの儀式だ)
そんなことなら外に出て見たこともない景色や光景を見てみたいと思っていた。
双子の弟ノオは後継者に選ばれた兄を誇らしく、自慢に思いつつも嫉妬していた。
昔、「僕も八雲流後継者になりたいぃいいい」と駄々をこねて泣き喚いたこともあった。
そのことを思い出したタケミはノオに
「ノオ…」
「どうしたの兄ぃ」
「明日の儀式、―――やるか?」
「―――え? どうして?」
「やりたかったんだろ? 儀式」
「そうだけど…」
「一日だけ…俺と交換してみるか? 俺はこれから長男としてずっと役目を果たさなければいけなくなる」
「うん でも―――」
「ノオには一度でいいから、ノオにも活躍できる場をあげたいんだ…まぁ俺が儀式の順を覚えたくないのもあるけど」
「兄ぃ…ありがと」
「素直に言われると照れるな、まぁ父さんや母さんにはバレないようにしないとな」
二人は儀式前に入れ替わり儀式に臨むように計画を立てた。
これが大きく二人の運命を変える。
雪が降る中、儀式当日、霧の洞窟の入り口には村の大勢の人が集まる。
「タケミちゃんもついに八雲流を受け継ぐのか」
「月日が経つのは早いねぇ」
タケミが出てくる間、ざわざわと村の皆は待ちわびる。
チリンチリン、と鈴の音が鳴る。
歩いて現れたのは村の長、ナギと白い着物に鈴をつけ、八雲伝統の髪飾りをつけてたタケミに扮したノオが現れる。
「おおおタケミちゃん」
「立派になったねぇ」
(よかった…やっぱバレてない)
ナギは不安そうなタケミ(ノオ)を少し見て、大きく息を吸い開会のあいさつを村の皆へ
「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。神が作られし伝説の刃、天神の刃を霧の洞窟から封印を解き放ち私達へ恩恵をもたらすべく願わん」
手拍子が鳴り響き太鼓や鐘の音が鳴る。
「ではタケミ…洞窟の中へ」
当のタケミは霧の洞窟へ入っていく弟を心配そうに遠目から見守る。
「…がんばれよノオ」
ノオは霧で前が見えない洞窟をひたすら進む。
この霧で天神の刃にたどり着けるものは予め行き方を知っているものだけだ。
知っているのは長であるナギ、予定していたタケミ、タケミから行き方を聞いたノオの三人だけだ。
「僕がしっかり役目を果たすんだ…」
ノオは不安になりながらも進む。
進んだ先には天神の刃が祭ってあった。
「これか…」
ノオは手に取り来た道を引き返す。
(やったよ 兄ぃ)
「この洞窟から出たら皆どんな顔するかな…へへ」
出口が見えた。村の皆の声や太鼓、鈴の音が聞こえた。
タケミからはノオが戻ってきたが影見えた。
「ふぅ…よかった…」
無事にノオが洞窟から戻って――――
何かの影が霧の中に飛び込んだ。
すぐに、ボンっと飛んで何かが転がった。
それは――
――――ノオの首だった――――
タケミには訳が分からなかった。
父のナギがすぐに霧の中に飛び込んだ。