第2-5話 タケミ
カルナのグループも移動を始めて58階の下層階へ来た。
58階だと日本では高層に当たるが、このビルでは777階までの階層があるため58階は下層にあたる。
各階にエレベーターや階段と並行して日本ではありえない体を一瞬にして別階に移動させる転送装置があり、それを使いカルナ一行は58階へ。
転送されると、その部屋には高さ縦・横八メートル程度のゲートがあった。
他には何に使用されるか分からない機材が立ち並んでいる。
次々と部屋に転送されてきた面々は、物珍しそうに辺りを見渡していると
「改めましてこんにちは、今回の研修を担当させて頂きますフウカ=ジレフールです」
がやがやとしていた雰囲気も収まり注目を集める。
「さぁ~ 研修内容ですが、異世界を体感して頂きます」
ご機嫌なのか少し鼻歌まじりに話し始める。
「異世界といえば、魔法世界! なので~まずは研修で見学から体験までがっつりやっちゃいます」
それじゃ行くよと異世界転送用ゲートを起動させ入って行った。
(((え? それだけ?)))と皆の不安を他所に担当のフウカは突き進んでいく。
過去から現在まで細かい作業は人任せにして、現場や実践での実施ではノリとテンションで今まで乗り越えて来ていた。
そのため、(なんとかなるだろう)精神で動いているのだ。
カルナはゲートを潜ると、タイヤがなく浮遊している近未来のバスのような乗り物に、前の連中に続いて順番に乗り込んでいく。
入口に入って行くと一番前のビップ? のような区切られた特注席でフウカは既に寝ていた。
中は思ったより広くコの字に椅子が配置されて中心が広々としていた。
この形状だと、どの席に座っても全員の顔がはっきりと分かる。
カルナは後ろの空いている席に座り一息つく。
髪型から服装、体型、人種様々な人間? が乗ってくる中、異質な雰囲気を漂わす連中も中にはいた。
カルナは以前に出会ったムカデの女王とは少し違った異質差を感じ取っていた。
ぞろぞろと席についていく研修メンバーを見ていると
「横いいかな?」
そう話かけてきたのは、ワインレッド色の赤髪の男子だ。年は十五~六程だろうか?
腰には刀をぶら下げていて薄いブルーの羽織を着ている。侍風だが、侍にしては髪型が今風で流行りの感じだ。
カルナは頷くと横に座って話しかけてきた。
「ありがとう、この世界に来てまだ日が浅くて分からないことも多くて心細かったんだ。タケミと言います。ぜひ仲良くしてください」
そう笑顔で話しかけてきた。
「君のことはなんて呼んだらいいかな?」
「カルナでいい」
「わかった! カルナはどんな世界から来たのかい?」
「…普通の特に変わりない世界」(グイグイ来るな…)
「それってどんな? もしかしてこんな変わった生き物とかも居るのかい?」
乗り物を生き物と間違えるタケミ。
世間知らずすぎなのか、目を輝かせながら質問のオンパレードが起こる。
話が聞こえていた近くの席に座った女子も、なんだか話したそうにウズウズしているとタケミが話しかけた。
近くにいた女子も気さくで、人懐っこいタケミの明るさに惹かれて話に乗ってきた。
するといつの間にか周りを巻き込んで話は盛り上がっていた。
事あるごとに話を振ってくるタケミにカルナは
(めんどくせぇ)
とパーソナルエリアに踏み込んでくるタケミから引き気味に話していた。
すると斜め前の二人組から飲み物が入ったコップが放り投げられた。