第1-28話 カルナとマリル
頭の上からマリルの声が聞こえてきた。
カルナは混乱している。
(なん、だ…下? 地面?)
カルナの目の前には地面があり慌てて手を地面に付き態勢を戻す。
カルナは前を見るとマリルはまだ笑顔でゴミ箱の上に座っている。
そんなマリルに
「――、余裕ぶっこいてると痛い目にあうぞ?」
カルナの言葉に顔色すら変えず返答する。
「私が余裕をこいているから、君は痛い目にあってないんだよ?」
カルナは銃を撃つがマリルをかすめることなく空を切る。
しかもありえない方向へ撃っていた。
カルナは地面に背中が星空を見上げて上へと撃っていたのだ。
(―――はぁ?)
息つく暇も、考える暇もなく上から斧のようなモノが何個も降り注ぐ。
カルナは飛び起きて何個か回避するが避けきれない。
(っ――やべぇなクソが)
避けきれないとカルナは決心したのかマリルに銃を向ける。
「相打ちだ‼」
後ろで見ていたゆいが叫んだ
「――やめて‼――」
叫びと同時に斧が途中で止まる。
「へぇ、ゆいちゃん凄いね… 才能があるんだね」
関心して見惚れているマリルにカルナは銃を何発も撃つ。
弾丸は全てマリルに命中した―――はずだったがマリルは笑顔を絶やすことはない。
なぜなら一発も届いてないからだ。
「返すね」
マリルの返答と共に風の弾丸が跳ね返り、カルナの足と腕をかすめた。
冷や汗が出た。
「びっくりした?」
今のは、マリルがワザと外したのだ。
「言ったでしょ? わたしが余裕こいてるから君は痛い目に合ってないんだよ?ハハ」
マリルが何かの特殊な能力を使っているのは分かっているが能力自体の本質が分からない。
「お遊びも次が最後だよ。…カルナ、私が能力を使っているからフェアじゃないとか思っているでしょ?」
マリルはゴミ箱から降りてカルナに向けて歩き出す。
「そんなカルナくんにチャンス! ――私、能力は使わないよ。 男なら拳で語ってみなよ?」
やけに自身満々のマリル。
歩きながらゆっくりと笑顔で近づいてくる。
カルナは自分の間合いに入ったマリルの顔に蹴りを放つ。
マリルは右から来る蹴りを軽く交わし、カルナの顔目がけて蹴り返す。
カルナは反応し腕を上げガードをする。
だが腕のガードを内からするりと抜けるように、カルナの顔に直撃して体が横に吹っ飛び壁にぶつかる。
「っッッッ」
鼻血が噴き出し口の中が切れ血が滴り落ちる。
「拳じゃなくて蹴りとか、性格悪いね」
マリルが続けて迫る。
「じゃ追い打ち行くよ!」
(落ち着け――相手は性格ブスクソ女だ。余裕こいてるあの顔にぶちこんでやる)
カルナは息を整え、力を抜いて構える。
「諦めた? そのままだとサンドバッグになっちゃうよ?」
マリルは右、左突き、上段蹴りと打撃を繰り出す。
カルナは相手の拳や蹴りを受け流すように軽くさばくと、体を地面と平行になるように倒して回転させて捻る。
回転した遠心力で蹴りを繰り出し、下から上へとマリルの顔を蹴り上げた。
その蹴りの動作はトリッキングというアクロバットと武術を組み合わせた動きに似ている。
またこの一連の流れは、以前レンにカルナが公然でボコられたものに、カルナ独自のアレンジを加えたものだ。
油断したマリルは顔面が蹴り上げられ体ごと後ろへ吹っ飛ぶ。
咄嗟に思い付きでしたことが綺麗に入りカルナはご機嫌だ。
「はぁ、――御返しだ」
そんなカルナの嬉しそうな言葉に
――やめた
とマリルの声が聞こえた。