第1-1話、2話 日常
ジリリリリンと間覚ましが鳴り響く。
「…… 朝… か?」
寝ぼけながら目を覚ますと、寝室のドアの向こう側から母の声が聞こえてきた。
「レーーーン! 起きないと遅刻するよ! 朝食も作ってあるからね」
母親の声で完全に目が覚めた。
(母さん……朝から元気だな。しかも俺今日は二限目からなのに…)
レンはぶつくさ言いながらベッドから体を起こし、一階へ向かおうとドアに手をかけた時、ひどい頭痛とめまいに襲われた。昔から体は丈夫な方だったが、ここ最近、偏頭痛に見舞われることが多くなった。
「ッ…またか…」
しばらくするとすぐに収まるので、あまり気にしてはいなかったが、頭痛は頻繫に起きるようになってきていた。
大学に行く為に着替えて一階に降り、ニュースを見ながら朝食を食べていると、何か重要なことを忘れている感覚に陥った。
(――ん? 何か忘れてる? ―――変な感じだ)
そんな感覚に陥りながら考え込んでいると、
「レン 聞いてる?」
母がニュースの話題について喋っていたようだが、あまり聞いていなかった。
「あ、そのニュース、学校の皆もよく話してるよ」
微笑みながら日常的な会話を済ませた後、カバンを持ち、靴を履いて、いつも通り家から出る。
「――あ、母さん。今日は帰るのが少し遅くなるかも」
「あら珍しい いつからホウレンソウできるようになったの? …… とりあえず気をつけていってらっしゃい」
「―――ありがと母さん」
いつもなら言わないようなことを言って、レンは学校へ向かった。
晴天の〇月□△日。
世間ではアメリカや中国、韓国との政治や経済ニュース、国際会議で海外の首脳が集まるせいで交通規制がどうとか、騒いでいたりする。
だが、若者が興味を抱くのは、芸能人の不倫や交際報道や、ユーチューブの動画である。
そんな中、大学生達の興味を引くのはイベントだ。
「ねぇねぇ、次はあのライブに参加しようよ」
「え? あのライブ? 倍率高くて中々難しくない?」
「大丈夫だって。まだ抽選まで一か月もあるし」
通学中、学生達は他愛無い話を友達と喋りながら、イベントや趣味の話題で盛り上がる。
その通学途中の浮かれる大学生達に混じって、一際目立つ男前がいた。
周りを歩く女子達が、通りかかる彼を見て、
「え…、あの人私のタイプなんだけど! 声かけたーーい」
「えーーあんたじゃムリ無理! あんたじゃ無理だって!」
「ひどくない? 二回言わなくても……」
「ひどくない。しかもあんな男前 絶対彼女いるって」
と、騒ぐ。
話題にされている彼の名前は、麻川 レン。
身長は175センチ。
少し茶髪、ヤンキーのような派手な色ではなく、綺麗な色だ。
身長も殆どの女性の理想とする枠に収まり、成績も優秀。
家にはプールやカラオケもあり、金持ちで、しかも性格も良く、周りとの人間関係も良好。それでいて運動もでき、歌もうまい。
そんな彼を世の中の女子は放ってはおかない。
(こうへいとアロー、どこだろ? 時間早かったかな?)
友達の二人との待ち合わせに、時間よりも早く着いたレン。
彼は校門前で待ち続けた。
(中学の時は殆ど毎日一緒にいたのにな… 最近バイトや趣味でみんな会う時間が減ったな)
友達のことを考えていたら、朝に来た頭痛がぶり返した。
「―――ッ」
(朝から頭痛がひどいな)
頭痛に悩まされながらも気を紛らわすため、校門周辺の景色を眺めていた。
すると、立ち止まってびっくりした表情で、レンを見ていた女子から声がかかった。
「え⁉ レン君⁉」
びっくりしながら声をかけてきたのは中学の時に同じクラスだった女の子だ。
その子の名前は【橋本 ゆい】
中学では男子に人気があった女子の中の一人だ。
彼女の周りにはいつも、ほわほわとする癒しの雰囲気が漂い THE 男子が好きな感じの女の子なのだ。身長は152センチ程で小柄な彼女は、中学時代では男子の間で守ってあげたいランキング一位にも入っていた。
そんな彼女にレンは気さくに話しかける。
「久しぶりだね! 元気だった?」
「うん! 元気だったよ レン君もこの学校だったなんてびっくりだよ」
「俺も友達や知り合いが意外に多くてびっくりしたよ」
「そうだよね レン君はetc…」
―――省略―――
久しぶりの思いがけない再会で話は盛り上がる。
するとゆいから言いにくそうに
「あの…レン君…」
「どうしたの?」
―――ゆいは首を横に振って
「今日は最後に会えてよかった」
「え、それってどう言うー」
レンが何か聞こうとしたが、話の途中で他の女の子が割り込んできた。
「レン君じゃん! 久々! あ、ゆい~お待たせ…あ、もしかしてお邪魔だった?」
ゆいの友達が合流してきたところでレンの友達二人も到着した。
「レンおまたっせ‼ 遅くなった! ごめん、ってまた女と話して!」
「よーレン! じゃ~行っこっか~」
レンは最後のゆいの言葉が妙にひっかかりながらも友達二人とその場を後にした。
――――【1-2話】―――――
この大学は第一種中高層住居専用地域という用途地区に建てられており、校地面積259・863㎡と広く、建物自体もお洒落なことから人気が高く男女共に過ごしやすい環境が整えられている。
この学校で特に人気なのが食堂だ。
校内にはお洒落な食堂が5つあり、それはまるで高級ホテルのレストランのような雰囲気を醸し出している食堂がある。
赤ワイン等注文したくなるような雰囲気だが、生憎まだ未成年の在学生が半数のため、注文メニューに姿がない。
そんな中、レン達はガラス張りの校内の景色が見渡せる端の場所で席に着いた。
「ここは…」
(見たことがある… なんだろ、デジャヴ? 気のせいかな?)
レンは景色を見ながら何かを思い出しそうになるが、また頭痛に襲われる。
「―――ッっ」
(頭痛がひどくなってきた…… な)
レンが頭を押さえてしんどそうにしていると心配そうに友達の一人が
「レン大丈夫か? しんどいなら無理するなよ?」
「… あぁ大丈夫すぐ治まるから」
話しかけてきたのは大林 龍矢こと関西出身のドラゴン・アロー
身長175センチ。見た目は横の髪を刈り上げ、上の髪をワックスで固めてサイド方へと流す。髪形だけ見れば、いかついが奇抜な髪形なのにベビーフェイスなのがドラゴン・アローだ。
「アローありがと もう大丈夫。治まったよ」
「それならいいんやけどな」
気を取り直してアローが
「レンは最近休みの日は何してたん?」
「俺は…マ○ベルのアベン○ャーズを見返して感動してたよ」
「あれはマジ良かったな! 俺も三度は見たわ」
そんな会話を眺めているもう一人の友達、こうへい(髪をオールバックにしていて、最近はサングラスだと思って、頭に水中ゴーグルを掛けているバカ)が話に飛び入り参加する。
「え、俺まだ見てないわ~。そんなよかった~?」
ちなみに三人の中だと身長が一番高い。
かつて社会現象にまでなったエヴァ○○リオンを思い出させるようなシルエットをしている。
こうへいにレンは、まだ映画を見ていないと言うので、映画の内容を熱く語りだす。
「こうへい! あの映画は―――etc―――」
―――省略―――
「特に終盤がこうなって--------〇〇□△でこうなんだ! ホントに面白いから見てよ」
「俺、難しい日本語わからないんだよね~」
「じゃ… 字幕で見てくれ」
「俺、字… あんま読めないんだよね~」
「…」
その言葉を聞いてアローとレンは絶句する。
昔からバカだ阿呆だとアローは思ってはいたが、ここまでくると笑うしかない。
その言葉を真に受けてレンが言う。
「じゃ…ぁさ! こうへい。一緒に勉強しよう。なんでも好きなことから言葉を覚えて…」
「俺、字書けないんだよね~。ちなみに好きなものはおっぱ○」
薬でもしているのかと問うくらいの天然さ。ある意味才能である。
そんな会話をしていると注文したランチが運ばれてきた。
「このパスタ旨そうやな! クリームパスタではあるが、濃厚の中にあっさりとした香りがどこか漂う」
「アローはまるで解説者だな」
レンとアローは注文したパスタを食べる。
だが一人だけパスタじゃないやつがいた。
そう… こうへいだ。
「俺はそんなお洒落なラーメンはたべない。俺はチーズバーガーだ~」
本気でパスタをラーメンと言っているのか冗談なのか区別ができない。
「そういえば、こうへい。お前と昔、琵琶湖に行ったときに、インスタやツイッターに海‼到着!潮風がきもちぃ…て投稿してたよな?」
ドラゴン・アローのするどい言葉の矢に喉を詰まらせる。
「ぐふっ。…えへへへへ~。そんなこと言ってたっけ?」
誤魔化しの笑顔が際立つ。
アローはこうへいに問う
「ちなみにお前が頼んだそれ、チーズバーガーなん?」
「そうそう~天然素材使用のチーズバーガーだぜ?」
少し違和感を感じたレンがこうへいに教える
「こうへい…でも、それチーズ入ってないよ?」
「あぁ~俺チーズ嫌いだからチーズ抜きにした」
「………」
「………」
この短時間で二度も絶句させる天然のポテンシャルには恐れ入る。
そんな些細な会話をしていると、アローが
「なんや、あれ」
ガラス越しに見える屋上とその下で人が集まっている。
レンが目を向けると、人が集まる校舎の屋上には先ほど話しかけてきた女の子のゆいがいた。
飛び降りようとする光景を見て野次馬達が集まっていたのだ。
朝はそんな素振りを見せていなかったゆいだが
危機的状況をガラス越しに察知したレンは席を立って走り出す。
「おい レン!」
アローやこうへいもレンに続く。
ゆいのいる校舎へと。
ゆいは中学生の頃ひどいいじめに合っていた。
特になにかしたわけではなく、いじめグループのリーダー的存在の女の子が好意を寄せていた男子がいた。
それが、クラスでも人気者でサッカー少年の男子が、ゆいのことを可愛いと褒めていたのが耳に入っただけで始まったのだ。
いつしか周りの人間も同調し、いじめるようになっていた。
そのいじめも、あることがきっかけで解決し、楽しい学校生活が送れるようになった。
反面、いじめていたグループの主犯の数人が転校を余儀なくされた。
時が流れるも彼女達は、逆恨みに等しく、ゆいに恨みを持っていた。
そのグループのメンバーがたまたま入学した先の大学が同じ学校で、運命の再会ともいうべきか過去の仕返しをしようと動いたのだった。
レンは今にも飛び降りそうなゆいを助けるべく、校舎を最短ルートで駆け抜けながら原因を考えようとするが
(今は考えていられない。助けないと!)
その考える時間さえもなく、彼女を助けるため必死に走る。
何か弱みを握られていたのか、ゆいは覚悟を決めて、身を屋上から投げ出した。
(パパ…ママ…ごめんなさい)
ゆいの体は、重力により屋上の下へと落下する。
「やめてーーーゆい‼‼‼」
駆け付けた友達が、ゆいの手を掴もうとしたが、間に合わなかった。
その状況を見ていた野次馬の中にいるこの絵を仕組んだ女子たちが
「あぁ…逝っちゃったハハ」
「うわ~絶対下グロいことになってるね~」
「本当に飛んだんじゃん バッカじゃないの」
そんなことを話し合っていた。
ゆいの姿が屋上から消えていき、誰もが地面に打ち付けられ助からないと思った。
だが
「ふぅ… ――――間に合った‼」
校内から飛び出し最短ルートを全力で駆け抜けてゆいを受け止めた男がいた。
「レン…君?」
笑顔でレンは言う。
「こんな状況でなんだけど、お昼食べに行こうか」