第1-10話 扉の先 (挿絵あり)
四人が歩き出して二時間が経つがまだ先は長そうだ。
日本での関越トンネルでも十一キロ程だがこのトンネルはそれよりも長い。
これをトンネルと認識しているのが間違いなのだろうか? と疑問に思う一同。
「無茶苦茶ながい~もう俺限界」
こうへいが根をあげはじめた。
それを聞いたアローが振り返り
「…そうやな、そろそろ休憩するか?」
「賛成!」
みんなが地面に腰を掛け座る中、先へ進む叶をゆいは呼び止めた。
それでもスルーして進む叶をゆいが、走って捕まえた。
「君も休憩しないとダメだよ! ただでさせ怪我してボロボロなのに…」
(絶対逃がさない)
手を掴むゆいの手を振りほどこうと振り返ると、
―――⁉―――
「なに? どうしたの?」
叶はゆいの顔を見て固まった。
可愛いからとかではなく知った顔だったからだ。
髪の長さや雰囲気は少し違うが、数時間前、叶が夢で見た女にそっくりなのだ。
そしてもう一つ夢で見たガスマスクの男。
マスクが吹き飛びその下の顔は
――――俺だーーー
叶、自身だったのだ。
(この女…俺を殺そうとしてた?)
叶は腕を振り払う。
「俺に…かまうな」
そんな様子を見ていたアローが
「せっかくゆいちゃんが気を聞かせて声かけてんのに。何無下にしてんねん」
このままだと叶は先へ行ってしまうと思い、ゆいは自分たちと行動を共にするよう話を持っていく。
「ね…ねぇ…これからは、みんなでね。なんとかこの変なところを乗り切らないと! だからあっちで…作戦でも考えよ⁉」
「あぁ? 進まないとどうにもならねぇだろ…」
ゆいは首を横に振る。
「とりあえず一人でいてもいいことないよ!」
こうへいもゆいの言葉に乗っかる。
「そうだぞ! お前もこっちへ来いって!」
叶は二人に無理やり引っ張られ一息付けそうな瓦礫に連れて来られる。
なんとか明るく振る舞うゆいを心配そうにアローは見守るが、親友の仇を目の前にするとやはり
「仲良くしようと気を使ってるゆいちゃんには悪いけど」
アローは怒りの感情が抑えきれない。
「お前はやっぱ先へさっさといけや。ホントはなんやかんや一人で行くんが怖いんやろ?」
争う気のない叶は、普通に返答する。
「ただの休憩だ…お前とお喋りする気はねぇ」
「ゆいちゃん、こうへい、お前らも黙ってんとなんか言えよ‼ 腹の中ではムカついてへんのか?」
二人にまで当たりだすアローに
「俺は~そんなかな」
「ドラゴン君…ここはみんなで力を合わせようよ?」
「くっ…なんでそんな風に居られんねん‼」
嫌な空気になってきたので叶は皆から少し離れてから地面へ座る。
(出口もそうだが、さっきの夢が頭から離れねぇ)
叶は考える。
(こいつらもそうだがこのまま歩き続けてもいいのか? ――ちッ何が任せただ。面倒なこと最後に押し付けやがって)
気まずい沈黙の空気が流れるが、それをぶち破るが如くこうへいが話し出す。みんな話す気分ではない。だが彼なりの気遣いなのだろうか? 無理に話を広げ自分のことを語りだす。
「お前彼女いる⁉」
とこのタイミングで分けわからない質問をぶつけ、こうへいの恋愛トークが花開く。
そしてなぜかそこから、こうへいのあだ名の理由へ発展する。
トークは人の心を繋げるのだ。
「俺さ~昔のあだ名…平井堅なんだ」
こうへいと平井堅…確かに似てなくもないが似ているまでもいかない。
ゆいが長々話すこうへいに聞く。
「なんで平井堅なの?」
「理由は…俺の胸が平らだったから…」
二人の頭に? が浮かぶ。
なんとなくわかりそうで分からない。
「もう一つあって俺、中学生の頃は細すぎて皆から宇宙人て呼ばれてたんだ~」
「…そんなムキムキなのに?」
ゆいの質問に
「ムキムキ~だけどもされどもムキムキ~」
そんな何気ないアホ話をして少しは気まずかった雰囲気も和む。
こうへいの昔話をアローが思い出したようにゆいに話す。
「思い出したんやけど中学生の時、こうへいとボーリングに行ったときに、確かに細身だったこいつは、ボーリング玉を投げた時に指が抜けなくて逆に、玉に体を投げ飛ばされてたな」
「…え、どういう状況⁉」
(そんな話どうでもいいんだけど)
「アロ~それを言うのなしだろぉ~」
こうへいは少し顔が赤くなり不貞腐れたが笑いが起こる。
その三人を見ていた叶は少しはマシになったなと状況を把握して、また一人で進み始める。
気づいたゆいが
「待ってよ! 一人でいかないで!」
「こんなところで長居はしたくねぇ、俺は先へ進む」
叶の急な出発でなごみムードは終了した。
追いかけるゆいや先へ行く叶をアローは走って追い抜かした。
「俺が先に行くわ お前に前とか絶対、任せられへん。後ろへ行くか、引き返して扉の壁でも眺めとけ」
そういうとアローが先頭を切って歩き出した。
それから一時間。
ひたすら真っすぐなトンネルは彼らの心を折っていく。
限界がきたこうへいが口を開く
「喉か沸いた~もう限界~、ビールビールビール!」
こうへいのわがままにアローは
「お前うるさいねん! そんなん俺も飲みたいわ」
こうへいだけではなくゆいにも限界が迫っていた。
「はぁ…はぁ」
みんなの疲労もピークに来ていたが、先に明かりが見えた。
薄く黄色く暖かに光る扉が見えたのだ。
今にも死にそうな顔をしていた一同は一気に走り出した。
そんな体力があるなら事前に言っておいて欲しかったものだが、そんな余裕をみせる間もなく、空元気な力を振り絞って出口までスパートをかけたのだ。
意外に走るこうへいが一番に扉に到着し扉に手をかけ開けようとするが…開けない。
「どうしようかな~あけちゃおっかな!」
嬉しすぎて焦らしてしまう。
「じゃま‼」
とゆいがこうへいをドンと押しのけて扉を開ける。
これで助かる。
一人一人が考えた。
希望を胸に抱きこの先で助かると。
だがそんな願いも目の前の光景を見て潰える。
扉を開けた先には、清々しい太陽が輝き一面に熱気の漂う灼熱の砂漠。