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VIXI---蒼炎のカルナ  作者: ネコるんるん
一章 【日常との決別】編
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第1-9話 混乱 (挿絵あり)


扉がドンと開き、叶が階段から転がり落ちてきた。


アローが急いで駆け寄り、声をかけた。

「――おい お前 だい…じょ…」


アローが止まった。

別のことに目を奪われたからだ。

目を向けた先には、レンが化け物に胸を貫かれ、串刺しにされていた。


―――――


叶は落ちた衝撃でなのか、激しい頭痛に襲われる。

(――ッ頭が割れるように痛ぇ…くそ…、⁉ な…んだ⁉)


叶の頭の中で断片的に景色が見える。

誰かの声が聞こえる。その誰かが何かを訴えかけてくる。

「―――なーッやめーーなんでこんな… …」

声が段々と大きくなり叶の意識が遠のく。


―――なんだ ここは⁉――

叶が目を覚ますと街の酒場だった。

酒がまわり、床やトイレで寝だす者や、飲みすぎで体調を崩し嘔吐するものが出てきはじめた。

(宴会? 後の場面か?)


そんな時、ふらっとマスクを着けた男が入ってきた。

この騎士が蔓延る世界では、見慣れない被り物をして、黒の衣装を身にまとっていた。


マスクの男は真っすぐ、標的のモノに向かって銃を構えた。

弾丸を放ち、酒を持っていた腕ごと、ぐしゃッと吹き飛ばした。


「んぁあ…ぁぁ…」

男は酒で酔っていて意識が朦朧とする中、自分の右手があった方に目を向ける。


「―――え…ぁぁああああああああ俺の右手がなぁいなぁぁぁぁぁぁああああいいいEEeeee」


男は激しく動揺した。

周りの騎士たちも何が起こったか状況が把握できないでいる。


「こ…、この野郎がぁああ‼」

男は近くに置いてあった騎士の剣を掴み取り、すぐにそのマスクの男との間合いを詰め、刀を振り下ろす。

それが相手の首筋に当たり、そのままマスクの男を、床へと這いつくばらせる。

「――ちっッ―――三流が…くそくそくそくそ…俺の、腕がぁあぁああ」


だが切ったはずの、マスクの男は切断されることなく、地面に、うつ伏せに横たわっている。


うつ伏せの男は、慌てふためく男の眼前に、ゆっくりと起き上がりながら呟いた、


「おまえも確実に殺してやる――」

――バシュッ‼ 

と、足の肉が勢いよく吹き飛んだ。



「あ、あがっおえあああ嗚呼あ」

痛みに悶える男に

「お前を殺すのに何故、最初の一撃で殺さなかったかわかるか?」 


男は痛みで答えれる状態ではなかった。


「―――今のお前じゃわからないだろうな―――」

マスクの男は相手の顔へと銃口を向ける。


挿絵(By みてみん)


うずくまりながら男は最後の力を振り絞りながら

「――お前―――まさか」

バッシュ、と首がはじけ飛ぶ。




首と胴体が離れ、絶命したにも関わらず、マスクの男は何度も肉体を吹き飛ばす。

元が何か分からない程ぐちゃぐちゃになり、原型が分からなくなるまで一分もかからなかった。


その光景を見ていた騎士たちは誰一人動けなかった。

酒がまわっていたこともそうだが、何より、人が呆気なく殺され無残な姿になったのを見て戦意喪失し、店から出ていくマスクの男を誰も追わなかった。


店から出た男はマスクを外す。

そこには見覚えのある顔があった。



――――――沈黙――――――


「ッ―――はっ」

頭痛により気を失っていた叶が目を覚ます。


「――目が覚めたんか」


「―ッ …ここはーー」

「ここはって、…落ちた衝撃でなんやお前、記憶喪失にでもなったんか?」


アローは続けて叶に

「よかったな~お前が助かって。おかげでなぁ、レンが…来れんかったんや」


「―――あぁ… そうか」

叶の一言にアローがぶちぎれた。


「なにがそうかや‼ お前のせいでレンが死んだんも一緒や‼ そやのにそれだけか⁉」


アローが胸倉を掴み引っ張り上げる。

「なぁ⁉ なんかほかに言うてみぃや‼」


「死んだ当の本人がいないんじゃ…言うことねぇだろ?」


アローの拳が叶の顔面を打ち付ける。

「レンはなぁああ死んでねぇえええ‼ お前に何がわかるんだよあいつの‼」

拳を何度も…何度も…何度も

「あいつはなぁっ‼ 昔から誰でも助けちまうッ お人よしなんだよ‼」


何度も何度も何度も何度も何度も…拳を叶に


「…お前の…せいや…―――ぅッ」

アローは途中で殴るのをやめ、泣き崩れる。



その時、


「アロー‼ やめろ‼」

それは今まで聞いたことがないくらい、こうへいが芯の入った言葉を放つ。


こうへいの言葉に耳を疑いながらアローは止まる。

「なんで…お前がそんなこと言うねん…お前を助ける為にあいつはどんだけ苦労したと思ってんや‼」

「お、俺はあいつに助けてと頼んだ覚えはない…それに」

「ふざけんなよ‼ こうへい…今は冗談言ってる時じゃ」


だがその言葉をこうへいは遮る。

「アロー‼ 残ると言ったのはレンだ。あいつの決心を否定するのか?」

「…ッ。違う‼ こいつのせいで…きっと俺達の助けを待ってるはずや!」


叶は血だらけになりながら笑う。

「ハハ…そう思うならさっさと引き返して行って来いよ」


アローは叶を突き飛ばし階段をかけ上げっていくが扉が出てくる気配はない。

ただそこにあったのは単なる壁。

無機質に冷たくアローの目の前に広がる壁。

もうここは出入口の役割を果たしてはいない。

「…一体なんだよ、これは…」


アローは崩れ落ちる。

「ごめんな…レン…」

助けに行っても役に立たないかもしれない。


だがレンの元へ助けにすら行けない。


それからしばらく、誰も動けずにいた。

何かに襲われ、逃げだし、この太陽の明かりも差し込まないトンネルで、何時間が過ぎたのだろう。


精神面でも体力面でも限界が来ていた。


その中で叶は立ち上がり、歩きはじめた。

(…こんなところで…死んでたまるかよ…)


叶はという人間が形成されたのは、幼いころに両親が離婚し、母親一人で叶と娘の面倒を見て育ててきた。

離婚でシングルマザーというのは今では珍しくもない家庭環境だが、女で一つで子供二人を育てるのは苦労が多く育児を放棄するもの少なくはない。


叶の母は、自分子供にはお金の面で不自由はさせまいと朝から晩まで働きづめだった。

そのため祖父や祖母が面倒を見に来てくれていた。祖父や祖母も父親がいない分、より愛情をかけ育ててきた。


だが優しかった祖父は勤め先の社長に濡れ衣を着せさせられて、会社の退職を余儀なくされた。しばらくして祖父は交通事故を起こして、この世を去り、祖母も後を追うように他界した。


それから叶は人の薄汚い部分に過剰に反応するようになった。

人の優しさに付け込む屑が許せない。

いつしか人自体のことが嫌いになっていった。

それでも今まで、人の生き方を曲げずにこうして生きてこられたのは母親への恩が大きいからだ。

恩を返す。それまで死なないと決めた。

いつからか、成長するに連れて、最初の目的が薄れていく中、何があっても絶対生きのびると思い込むようになり、今の今までなんとなく生きてきた。


実際、今の子供たちに「何故生きているのか?」と問うと、しっかりとした目標や目的を答えれるものがいるのだろうか? 

子供の頃には夢があり、それが成長するにつれ現実を突き付けられ可能性が薄れ、現実味を帯びていく。叶も今、そんな中の一人である。


だが、こういった人生の分岐点に差し掛かり、また人は選択をして成長する。


叶は諦めて進むことをやめた者達に


「引き返すことができなけりゃ、前へ進むだけだ …最後のあいつからの一言だ」


アローが顔を上げる。

「…レンの…」


叶は進む。

(まぁ 嘘だけどな)

「任せた」とレンに言われ、ここにいるやつらを動かすべく声をかけたのだ。


他の連中を気にもしなさそうに進む叶の後ろ姿にアローは

「…やけど…あいつなしじゃ俺は、俺たちはどうしたらええねん」


小学生からレンとアローの二人は一緒だった。

楽しいことだけではなくトラブルがあった時は真っ先にレンが駆けつけ解決へと導いていた。

その仲間の中心たる存在のレンを失うことはアローにとってどれほど悲しいのだろう。


アローが考える中、ゆいも立ち上がり叶の後に続く。

ゆいが

「…私たちがこんなんじゃレン君に申し訳ない。私も前へ進む ――悲しむのはッッーあと…で」涙を必死に堪えながら前へ進むゆいの姿を見て

「ゆいちゃん…だよな…俺も進まなきゃな、」ゆいの進む姿を見てアローも立ち進む。

けど、やはりレンが叶の代わりに死んだことについてアローの怒りは治まらず、先頭を歩く叶に罵声を浴びせる。


「お前みたいな、なんの価値もないクソ野郎はこの先なんの役にも立たへんし進むんやめといたら?」

「あぁ…」

「今までどんな神経して生きてきたんや? 両親も悲しんでるんちゃうか?」

「……」


罵声を無視して叶は進む。

その後に続くようにして怒りを原動力にかえたアローも進んでいく。


また険悪な前の組とは別で後ろでは、楽し気な会話が聞こえる。


レンのことはそれほど気にしていないのか、無邪気に喋りかけるこうへいとゆいも続く。


「ゆいちゃん好きな食べ物何~? 俺は~パスタかな~」

こうへいは本日のお洒落だと思った食べ物名を口にした。

ちなみに好きなものはチーズ抜きのチーズバーガーなのだ。


「…私もパスタ! 一緒だね…」

「これは、もしかして運命なのか! 今夜帰ったらパスタ作ろうか…」


そんな何気ない鬱陶しい会話を平然とこなしているゆいだが、今の彼女の心は別の方向に向いている。


叶の方を見ながらゆいは呟く。


―――許さない―――


心の声が漏れる。


「え? ゆいたん? 」

「あ! パスタは好きだけどやっぱりこうへい君の手作りはスペアリブの赤ワイン煮込みがいいな~」

赤ワイン煮込みとを聞いたこうへいは了解! と言わんばかりの了解を体で表現した。


ちなみに一日や二日は煮込む料理なので、「頭悪そうだしこいつは作れないだろう」と遠回しにバカにしながら断りを含めて、手作り! と言ったのだ。


当然、後で考えようと楽観的な脳のこうへいは、違う話題で新たに話始める。


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