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それから5年が経ち学園の高等部入学を来年に控え、15歳となったレーナは父が用意した王国最強と名高い4名の護衛を連れて魔国へと旅立った。
「さぁ!!待ちに待った祭りの始まりだー!!今年も魔王になりたいやつらが大勢集まったぁ!予選で凄まじい活躍をみせ、今日開催される決勝戦に上がってきた強者たちがついに!!ついに現魔王カイン様と戦うため今まさに準備中だ!!今年もカイン様が勝つのか!?はたまた新しい魔王様が誕生するのか!?乞うご期待!!!」
魔王誕生祭当日。魔国グレイスの中心に位置する王都イレースは盛大に賑わっていた。それもそうだろう、この祭りで魔王が決まるのだ。
そこに暮らす国民達にとって、年に一度開かれるこの魔王誕生祭は一大イベントになっている。
しかしこの祭りで王が決まるというのに、国民達に緊張している様子は全くない。そこが人族との種族間の違いだろう。
もし人族の住むアスタリア王国で王が変われば多少なりともどんな人が自分の住む国を統治するのか、と不安や緊張をその国の国民は抱くだろう。
しかしここ魔国グレイスの国民達が思うことは期待、好奇心のみだ。今度の魔王様はどれだけ強いのか、今日決まる今年の魔王様は魔国をどんな国にするのか、期待の籠ったそんな思いを抱く国民がほとんどだ。
だからこそ、国の王である魔王を決める戦いを魔国では一大イベントとして楽しんで観戦するのだった。
「これが、魔王誕生祭…」
そんな賑やかな王都の街中をレーナとその護衛、そして案内人として変装したカインが歩く。ルークは魔王決定戦のための準備で忙しいため、別行動となった。
「私は幼い頃から毎年見ているからもう慣れたが、この光景を初めて見る者からすれば、うるさくて仕方がないのでは無いか?」
隣を歩くレーナに顔を向けたカインは小さく笑みを浮かべてそう尋ねた。
「いえ…ここまでの規模の祭りはアスタリア王国にもないので少し驚きましたが、とても楽しいです」
「そうか?ならばいいが、人酔いしたらすぐに私に言ってくれ。その時はすぐに城へ転移しよう。もちろん、お前達もだぞ?」
レーナとカインの後ろを歩いていたレーナの護衛達に向けてカインが言った。
「はっ?いえ、俺、わ、私どものことは気にしないでください」
「いや、そういう訳にもいかない。たとえレーナ嬢でなくとも人族の者に何かあれば、戦争が始まってしまう。まあ、それ以前に今日は観光者を案内するのが私の役目だからな。案内するお客様に何かあっては案内人として失格だろう」
カインはさも当然のようにそう言いきったが、レーナ達からすればこの国の王、というか残虐非道と伝承されてきたあの魔王がそんな普通の考えを持っているなど、到底信じられないことだった。
「…あの、カイン様」
「どうかしたか、レーナ嬢。もしや、既に人酔いをしているのか?それならばすぐに城へと戻ろう」
呼びかけられ横を向くが、なかなか次の言葉を発さず困ったような表情でこちらを見るレーナ嬢の様子に、カインは既に人酔いしていることを言い出せないのだと思い込んだ。
「いえ、そうではなく…」
「違うのか?ならばどうしたのだ?」
内心どこか自分の対応に問題があったのでは、と焦りながらカインは再びレーナ嬢にそう尋ねた。
「突然こんなことをお聞きするのは失礼かもしれませんが…」
「なんだ。遠慮はいらない、気にせずに何でも言ってくれ」
「では…実は、初めてお会いしたときから気になっていたのですが、カイン様は人族と仲良くしたいとお考えなのでしょうか?」
緊張した面持ちでそれでも真っ直ぐカインを見つめてそう言いきったレーナ嬢に、後ろに控えていた護衛達の顔は一気に真っ青になった。
「もちろんだ。確かつい先日初めてお会いした時にそう伝えたつもりだったのだが、上手く伝わっていなかったか」
「い、いえ!もちろん先日のお言葉で私達を歓迎してくださっていることは分かっていたのですがその、長年魔国とアスタリア王国の関係はあまり良くなかったものですから……」
なるほど。あまりに敵対していた期間が長すぎて俺の言葉を信じきれていなかった、と。
まあ、それもしょうがないな。これから少しずつ改善していけばいいか。
「そうか。すまない、はっきりと言葉にしておくべきだったな。私は人族と友好的な関係を作りたいと思っている。その第一歩として今はアスタリア王国と同盟を結ぶことを目標としている。もちろん魔国の民にも私の意思は既に伝えてある」
「…そうだったのですね!それならどうか私にもぜひ協力させてください。私に出来ることなど限られてはいますが、少しくらいはお手伝い出来ると思いますので…」
「もちろんだ。レーナ嬢が協力してくれるならばありがたい。それなら、城へ戻ったら携帯を渡そう」
「ケイタイ…??ですか?」
携帯というのは俺が魔国の研究部署と協力して作った遠くの人と会話ができる機械だ。携帯と名はつけたが機能的には話すことしか出来ない。それでもこの世界ではそもそも遠くの人と話す手段などほとんどなかったので魔国では結構役に立っている。まだ材料の問題で量産出来ていないため、国の中心メンバーにしか渡せていないが、いずれは平民にも広めたいと思っていた。
「ああ、遠くにいる者と会話ができる機械だ。レーナ嬢には王国に携帯を持って帰ってもらい、魔国との連絡手段として使ってもらいたい」
「そんなものがあるのですか!?ぜひお願いいたします!!」
目を輝かせてレーナは即答する。
「では城へ戻ったら渡そう」
「はい!!」
そんな会話をしつつ、カイン達は数時間かけて王都イレースを巡った。