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彼女の真実

宿に着くと私は重い体をベッドに沈める。

やってくるのが思っていたよりも早かった。あと3日は耐えられると思っていたが、お星様は待ってくれないようだ。


手を伸ばして自分のバッグを引き寄せると、中から金貨の入った袋を取り出す。ハクはすぐそばに立っていた。



「ハク、これ。」

「......」

「ここまでありがとう。報酬分よ。受け取って。」

「あんたの体、どうなってるんだ。なんでそんなに苦しそうなんだよ?」



袋を握った手は行き場をなくし、不安定に空中をさまよう。



「これだけじゃ足りないって言うの?仕方ないじゃない、あなたの服が高かったのよ、それに剣だってそれなりにいいのを買っちゃったか、」

「報酬なんかどうだっていい‼︎」



ハクの叫びが小さな部屋に響く。なんであなたが、そんなに苦しそうなのよ。私が悪いことをしてるみたいじゃない。



「.....ハク。私はあなたを雇った。今の私にはまだ、あなたを行使する権限がある。ハク、このお金を持ってあなたはこの部屋から出て行って。二度と私の前に姿を現さないで。あなたの任務はここで終わり。これは、命令よ。」

「ーーっ、」



「あなたはもう、必要ない。」



ハクは一瞬頬を殴られたような顔をした。赤い瞳が悔しそうに歪む。

しかし私も目を逸らさない。逸らせない。



しばらく睨み合いが続いたが、それでもハクはやがて私の手から奪うように袋を取ると、そのまま部屋を駆け出ていった。


あとには私の不規則な呼吸音だけが残った。





◆◆◆◆◆



ダンッ


握った拳を宿の外壁に強く叩きつける。唇を強く噛みしめ口の中に錆びた鉄の味がにじんだ。


彼女に拒絶され、どう言い返すこともできなかった。

あくまでも赤の他人。

互いに干渉しあわないという約束。

金で雇い、雇われた関係。


そう思っていたのに、そうわかっていたはずなのに、それなのに、どうして、彼女のことをもっと知りたいと、あのターコーイズ色の瞳に映るのが自分でありたいと願ってしまうのだろう。


あの時広場で白いドレスを見に纏い華麗に踊っているのを見た時、本当に時間が止まったように感じた。とりすました笑顔でダンスを申し込んできた彼女を、驚かせたいと思った。他の男たちのことなど目に入らないくらい、俺のことだけを見ていればいい。本気でそう思った。



「俺も、らしくねぇな。」



この感情に今更名前をつけるなど、馬鹿馬鹿しくてできなかった。



俺が何をしたいのか、何をすべきなのか。


あえて彼女には言わなかったが、さっき横抱きにしたときにドレスのすき間から見えたものがあった。それがずっと俺の心に引っかかっている。あれの正体が分かれば、彼女の抱えているものがもしかすると分かるかもしれない。

残された時間はきっともう少ない。


俺は軽く息を吐くと祭りが終わって人の通りも少なくなった裏道を、丘に向かって全速で駆けだした。




数時間前に訪れた赤い屋根の家のドアを叩く。

しばらくして眠そうかつ、イラだたしげな顔がドアから覗いた。



「誰、こんな時間に。子供はもう寝る時間なんだけど。」

「俺だ。悪いんだがさっき話してくれた迷い星について、聞きたいことがある。」

「うぇええ⁉︎狼くん?ちょ、ちょっと待って。あ、いや待たなくていいんだけど、え何、迷い星?まぁいいや、とりあえず中入りなよ。」

「すまない。」

「適当に座って。」



靴裏についた土を払い落として、壁のそばにあった三本脚の椅子に腰を下ろす。黄色い瞳が心配そうにこちらを見ていた。



「んで、なんだっけ?迷い星に関して?何が知りたいの?」

「ああ、そのことなんだが。.....空から落ちた迷い星が人間の願いを叶えるために、何度もこの世に現れてるって言ってたよな?そのことに関してもっと知っていることはないか?」

「詳しいこと、かぁ.....うーん、僕も昔おばあちゃんから聞いた話しか知らないからなあ.....あ、ちょっと待てよ、日記になら何か書いてあるかもしれない。」



そう言うと家の奥から、何やら古びた大きな手帳のようなものを持ってきた。

パラパラとページをめくっていき、途中のページでその手をとめる。



「ねぇ、これ。もうだいぶインクが薄れて見えにくいけど、流星群の夜について書いてある。今からちょうど百年前のフェスの時だ。」



ページに顔を近づけて、じっと字面を見つめた。



「おばあちゃんの字、くずれてて読みにくいんだよな。えっと、なんだって.....、流れ星のふり注ぐ夜、一つの若い命が、消えた。その子は自分の夢を叶え、幸せの絶頂にいる最中だった。ほんとうに信じられない。こんな悲劇がまた起こるなんて。私が子供の頃にもいたのだ。同じように願いを叶えて死んでいったものが。聞いた話によると、その子は体に、ほし....星を宿していたらしい。星とは一体何なのだろう。私たちの願いを叶えてくれるものではなかったのか。...........時を超えてくり返す、人間の願いを叶える......これってもしかして迷い星のことか....?」




星なんかに願ったって、誰も幸せにはなれない


後に残るのは絶望だけよ


この世界は私には残酷すぎる





ーーー私の生きる意味なんて、ないの











「そうか、だから....,」



俺は椅子から立ち上がり拳をぎゅっと握りしめた。爪が手のひらに食い込んでくる。



「全て、繋がった。」 



茶色い髪を揺らして少年が少し寂しそうに笑う。



「やれやれ、ついさっき来たと思ったら、もうおかえりですか狼くん。」

「ああ、やらなきゃならねぇことがわかったんだ。あんたには礼を言うよ。」

「あんたじゃないよ。僕の名前は、レヴィンだ。」

「.....ありがとう、レヴィン。俺の名前は、」

「知ってるよ。ハク、だろう?あの女の子につけてもらったんだって、カナから聞いたよ。」



なんとなくイラッとくる笑みを浮かべて言った。なんだろう、俺のありがとうを返せと言いたい。



「それにしても、ハクだなんて、ずいぶんいい名前をもらったんだねぇー。」

「は?白って意味だろ?どこがいいんだ?」

「違うよ。古代リムドでハクと言ったらそれは、ーーー自由な翼って意味だ。」




丘を転んでもおかしくないくらいくらいのスピードで駆け下りていく。

見送るレヴィンがどんな表情を浮かべていたのか、今となっては分からない。


ただ一つ確かなことは、俺が宿の部屋のドアを開けた時、そこには誰もいなかったということだ。



◆◆◆◆◆




違うの、違うのよスターリア。

貴方は何にも悪くないのに.....ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい。無力なおかあさんを許して頂戴。

あぁ、スターリア、愛しい娘よ。



まさかあなたが、その身に星を宿しているなんて。



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