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光星夜

あのあと私はカナとまた会う約束をして店の前で別れた。

ハクを探しつつ、祭りも楽しみたい。今の格好だと瞳の色が見えてしまうが、昼間ではないので青色までは分からないだろうし、そこまで気にも留められないだろう。


そう思っていたのだが、メインとなる広場に向かう途中、紺色のケープを身に纏った人たちの中、自分の白いドレスはかなり目立っていることに気がついた。

すれ違う人全ての視線が向けられているような気さえする。


これって、私、かなり恥ずかしいんじゃないかしら.....。


カナには申し訳ないが、やっぱり私には着こなせていなかったのではと足をとめ、花屋に戻ろうと思ったその時、どこからか懐かしい音楽が聞こえてきた。


「....これは、お母さんがよく歌っていた曲だわ....。」


音は広場の中心から聞こえてくる。導かれるように私は歩みを進めた。




そこにいたのはリムドの民族楽器を手に演奏している三人の年配の男性だった。楽しそうに目を細めながら音を紡いでいく。

数年ぶりに聞いた、暖かくて優しい音色に胸が弾んだ。


体は、自然に動いていた。


聴こえてくる音楽に身をまかせ、あとは何も考えない。いつかのお母さんの面影を思い浮かべながら体の動くがままに踊り続ける。


楽しい。

自然と笑みがこぼれた。


初めはそんな私をなんだ、なんだと驚いて見ていた人々もやがて楽しそうに踊り始め、その輪は次第に大きくなっていった。自分の周りがどんどん賑やかになっていくことに多少たじろぎながらも、私はより一層、手足の感覚を研ぎ澄まして音にのせていく。



と、突然人々の動きが止まり、私の前に一本の道のようなものができた。一体急にどうしたというのだろう。


踊りを中断してその道の先を辿った私の目に飛び込んできたのは、



「ハク‼︎」



銀色の髪を風になびかせながら大きく目を見開いて立っている彼の姿だった。



「ハク.....。」



ゆっくりと近づいていきながら、いつの間にか音楽も止まっていることに気がついた。

広場で踊っていた人達はみんな息を飲んで、私たち二人のことを見つめている。この状況で口論になるのは祭りの雰囲気を壊しかねない。そして何故かハクは固まって動かない。


どうするのが一番いいだろう。

私は息があがってぼうっとする頭をフル回転させながら、考えに考え......一つの結論に至った。


呼吸を整え、私にできる最大限の柔らかい微笑みを浮かべて言う。



「私と、踊って下さるかしら?」



これで、ハクがどう動くか。お願い、この手をとって....!


一秒がひどく長く感じられる。

この時の私は立っているのもやっとのくらい、心臓が煩かった。だからその後のハクの思いもよらない行動に、心臓が破裂するんじゃないかと本気で心配してしまった。



「喜んで。」



優しく私の手をとるとハクはその指先に口付けた。

キャーと周りから黄色い声が上がる。いや、なぜに?



「ただし俺のことだけ、見ていてくださいね?」



私の腰をぐっと引き寄せると、鮮やかな赤い目を細めて耳元で囁くように言った。


とたんに周囲が賑やかになる。

なんだ、今年の祭りは!演出か!、豪華だな!そんな声があちこちで飛び交う。止まっていた音楽も流れ始め、私たちを取り囲むように人々がまた踊り出した。

私もハクの肩に手を置いて踊りながら、じとーっと彼の顔を睨みつける。



「まったく、今までどこにいってたのよ?探しちゃったわ。」

「あんたが勝手にどっかいくからだろ。俺は俺で野暮用があったんだ。っていうかなんだその格好。」

「カナが貸してくれたのよ。....いいわよ別に、どおせ似合ってないって言いたいんでしょ?こんな綺麗なドレス初めて着たんだもの、少しぐらいはしゃいだっていいじゃない。」

「別に、似合ってないとは、言ってないだろ。」


ふと見上げると、そっぽを向いたハクの頬が少しだけ赤くなっていることに気がついた。

こっちまでつられて赤くなってしまう。だからもうっ!なんなのよ!


「んなことより、あんたはもうちょっと自分が他人にどう見られてるのか、理解したほうがいいんじゃないか?そんな格好で踊って、男に目ぇつけられたら終わりだぞ。」

「何言ってるの?ハクが私を守ってくれるんでしょ?」

「.....っ、」


ハクの足が止まった。私もつられて止まる。

もう一度見上げた彼の表情は、逆光でよくわからなかった。



「あんたなぁ.......、」



「っおい!見えたぞ!流星群だ!」


そう叫ぶ誰かの声が聞こえた。




突然、濃紺の空にどこからとなく現れた数々の煌めき。


雨粒が海に注ぐように、途絶えることなく流れていく。この世のものとは思えないほど、その様子は美しかった。瞬きするのも忘れて、ただ空を見つめる。


「すごい、なんて綺麗なの。」

「ああ.......」


私もハクも言葉にならなかった。

それぐらい流星群は私にとって、感慨深いものだった。


よくお母さんと一緒に夜空を見上げた。

流れる星を可哀想だと泣く私に、おうちに帰っているんだと教えてくれたっけ。流れる前に3回願い事を唱えればその願いが叶うと聞いて、いつも一生懸命に唱えていた。


お母さんとずっと一緒にいられますように、と。



「なぁ、あんたはこの星に願うとしたら何を願う?」

「え、願い事?そうねぇ、何かしら。ハクは何かないの?」

「俺は....よく、わからなくなってきた。俺が何をしたいのか。」

「何をしたいのか、じゃなくて、何をすべきなのかじゃないのかしら。結局のところ本当の願いを叶えるのは自分自身だわ。」


それは私がたどり着いた答え。


「......」

「星なんかに願ったって、誰も幸せにはなれない。もしその願いが叶ったとしても、後に残るのは絶望だけよ。......っなんて冗談だわ!そうねぇ、願い事。私はねぇ、........っ⁉︎」



突然右肩に熱く鋭い痛みが走った。

あまりの痛さに膝から崩れ落ちそうになったところをハクに抱きとめられる。



「っおい、どうした⁉︎しっかりしろ‼︎」

「だ、大丈夫だから....悪いんだけど、私を、宿まで連れていっ、てくれないかしら....っはぁ...くっ.....」

「わかった。」



息をするのも苦しかった。

ハクに横抱きにされ、流星群に盛り上がっている人達の脇を通り抜けていく。



人生初のお姫様抱っこに赤面するほどの余裕は、今の私には残っていなかった。




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