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中に入ると、外から見るより一層家具や食器類の小ささが目立った。どれもこれも大人が使うサイズのものではないようだ。


「親御さんは……?」


聞いていい質問か迷ったが、避けて通れない質問でもある。

躊躇いがちに聞くと、意外にも少年達はなんて事なさそうに答えた。


「いないよ! あ、もしかして僕たちが年端もいかない子供だと思ってるでしょー」

「え?」


赤茶の子は背負っていた木の実で一杯の籠を床に下ろしながら悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「僕たちこれでも軽く百歳は超えてるんだよ」

「え……え!?」

「僕たちはそういう種族なんだ。人間と比べると倍以上に長生きする。子供の姿のままね」


驚く私に慣れた様子で説明してくれる黒髪の子は、未だ眠たげな銀髪の子の着替えを手伝っている。


「そうなんですね……」


この少年達が百歳を超えるお年寄りだとは、到底思えない。そう思ったところだったが、周りから「あー腰が」「肩が凝るな」という声が上がっているところを見ると妙に納得がいく。


「別に敬語じゃなくてもいいよ。その方が堅苦しくなくていいし」

「あ、自己紹介がまだだったね。僕はサンデイ、よろしくね」


黒髪の子が歩み出て私に手を差し出した。


「よろしくね、サンデイ。私はスノーホワイト。白雪と呼ばれているわ」

「はいはーい! 俺はマンデイ! よろしくね白雪!」


プラチナブロンドの子は私がサンデイと手を離した瞬間私の両手を掴んでぶんぶんと振った。キラキラと新しいおもちゃを与えられた子供のように無邪気な笑顔が向けられた。


「じゃあ次は僕ね。僕はウェンズデイ。よろしく」

「ぼ、僕はサタデイです。よ、よろしく」


赤茶の髪の子、そして黒に銀のアッシュの子と続いて握手する。


「それで、このねぼすけがフライデイ。そっちのおこりんぼうがサースデイさ」

「……」

「誰がおこりんぼうだ!」


サンデイにフライデイと呼ばれた銀髪の子は自分の話をされているのに気づいているのかいないのか、立ったままこくりこくりと船を漕いでいる。

赤髪のサースデイはふんと鼻を鳴らして腕を組むと、私をちらりと見た後気に入らないとでも言うようにぷいとそっぽを向いてしまった。


「みんな、一晩お世話になるわ。よろしくね。何かできることがあれば遠慮なく」


言って、と言おうとした時だった。サンデイがパシッと私の手を掴み、真剣な表情で私を見つめたのだ。

その熱烈な視線に、息を呑む。


「それは、食事の準備も、含まれるかい?」

「え、っと、実際料理をした事はないけど、料理本なら図書館で沢山読んだから覚えているし……多分出来るとは……思うわ」


その時の彼らの見た目年齢相応の少年らしい目の輝かせようと言ったら、可愛らしいことこの上なかった。








結果から言えば、私は料理ができた。

ここ一年以上城外に出られなかった私が毎日のように通っていた図書館。最初のうちはこの国の歴史書や物語を読んでいたのだが、ふと目に入った「料理の基礎」と書かれた本を手に取ったのがきっかけで「料理」というものに興味を持ち、野菜の切り方から色んな料理の仕方まで挿し絵付きで分かりやすく載っている本を片っ端から読み漁ったのだ。本に掲載されている料理のバリエーションは豊富で、絵が載っている分文章を読み飽きていた私にとっては余計に楽しかった。


当然一国の姫が厨房に立つことは許されず、このまま一生料理を作る機会など訪れないと思っていた私にとっては溜め込んだ知識も宝の持ち腐れ。そう思っていたのだが、思わぬところで発揮することとなった。


「美味しい……! 美味しいよ白雪!」

「お口に合ったなら良かったわ」


興奮気味に話すウェンズデイは口の端にパンのカスを付けている。

図書館で培った料理知識を活かし、家にある食材で出来るシチューを作る事にしたのだが思った以上にうまくいった。

皆ガツガツと、まるでしばらく何も口にしていなかったんじゃないかと思うほどの勢いでシチューを平らげていく。

その中に一人、じっとシチューを見つめたまま動かない少年がいた。サンデイはスプーンを握りしめ、考え込むようにじっとしている。


「サンデイ、お口に合わなかったかしら?」

「いや、そうじゃないんだ。これはとても美味しいよ」


サンデイの様子が伝染するように、その隣に座っているマンデイ、向かいのフライデイそしてその隣の……と七人全員がシチューを食べる手を止め黙ってサンデイを見つめた。


「……みんな、反対するものはいないね?」

「いいんじゃない?」

「だいさんせーい!」

「ぼ、ぼくも」

「……いいと思う」

「僕もさんせーい!」

「ふん、まぁ許してやってもいい」


サンデイの主語のない問いかけに次々と賛同の意を表する六人。何のことなのかさっぱりわからない私はただただ首を傾げるだけだ。


「あの、一体何の……?」

「白雪」

「は、はい」


改まった口調で呼びかけられ、私も居住まいを正す。


「僕たち、壊滅的に料理が下手くそなんだ」

「えっ」

「誰一人まともな料理を作れる奴はいない」

「で、でもこれまでの生活は……?」

「街まで行ってパンやお菓子などある程度保存の効く食材を買うか、そのまま食べられる野菜や森で採れた果物とかで食い繋いでたんだ」

「……百年近くも?」

「残念ながらね」


苦笑したサンデイに、周りも気まずそうにしている。


「それで、白雪にお願いがあるんだ」


一呼吸置いて、サンデイは真っ直ぐと私を見据え口を開いた。




「ここで一緒に暮らして、僕たちのご飯を作ってくれないかな?」


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