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騎士団長と嫁【連載版】  作者: 砂臥 環
騎士団長ヴィンスと嫁シルヴィア
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遅れてきた初恋①

 初対面の際、ヴィンスはシルヴィアに好印象を抱いた。

 あくまでも印象の問題であり、一目惚れという訳ではないが。




 分隊長となると同時に、ヴィンスは騎士舎にほど近いところに家を貰い受けた。

 これは騎士団長候補生であるヴィンスが第四騎士団からも認められた証でもあったが、彼はコレを少し持て余していた。


 第四騎士団から離れる気はさらさらないものの、騎士舎ならば掃除や洗濯などの身の回りのこともやってもらえるし、食堂もあるが、自宅となるとそうもいかない。


 しかも自宅を得たことで騎士団長候補生であることが広がり、またにわかにモテ出すようになったのだ。——そう、彼の苦手とする中級以上のモンスター達に。


 ソルドラに来てからもヴィンスはそれなりにモテていたが、第四騎士団はソルドラ常勤、寄ってくるのは雑魚モンスターが主だった。


 そんな訳で、普通に仲良くなろうとしても難しい彼を攻略すべく、いつも求人の出ている騎士舎に勤め、ヴィンスとお近づきになろうとする女性が後を絶たなかった。

 だからこそ彼は余計に案内等を任されるのが煩わしかったのだ。



 ————しかし、シルヴィアはそれらの女性とは見た目から明らかに違っていた。



 田舎から出てきたばかりのシルヴィアはまず役場で職を探し(役場には求人の掲示板がある)、そのまま騎士舎に赴いて面接を受け、即合格し、ヴィンスに案内されるに至っている。


 コロコロの付いた大きなスーツケースに飾り気のないワンピースとケープ。長い黒髪は邪魔にならぬようきっちりと編み上げてまとめており、とても地味だが『垢抜けない田舎者』というよりは『すぐにでも働けるスタイル』といった感じだ。

 なんなら「王都から派遣でやってまいりました」とか言っても信用してしまいそうな位だ。


(あぁ、この女性は働きに来ているんだな)


 ヴィンスはそう思った。

 当たり前のことのようだが、そうでない女がちょいちょい来ていたので、そう思うのも仕方がない。

 ただしそういう女性は大抵の場合、この仕事のキツさにすぐ辞めるか、サボリを見咎められてすぐ辞めさせられるかのどっちかだった。

 なので騎士団員の嫁ばかりが働いているのだ。


 見た目だけでなくその態度にも好感を抱いた。


 荷物を預け騎士舎を案内する際シルヴィアはメモをとり、気になることをヴィンスに質問した。

 どうやら真面目な上、物怖じしない性格のようだ。


 ヴィンスを見る目に性的な媚びたところは全く感じられず、チラリと見えたメモには美しい字でわかりやすく必要なことが書かれてあった。

 計算でやっているとは思えない。


 シルヴィアの佇まいや行動がそんなだったからか、女性の顔など普段は確認しないヴィンスだが、なんとはなしにメモをとる彼女の顔を見つめた。


 薄化粧で顔立ちも派手ではないが均整のとれた顔をしている。

 深い鳶色の瞳は大きく切れ長でメモをとるとき下を向くと、上げていない長い睫毛のせいで、まるで目を閉じているかのような感じに見えた。


(もっと化粧をしたらとびきりのいい女になりそうだが……)


 なんとなくそうなって欲しくない、漠然とヴィンスはそう思った。


 そしてまるで値踏みでもするかのように、不躾に彼女を見てしまった己を恥じて顔を背けた。




 質問やメモをとる時間があったため、多少いつもより時間がかかったものの、案内は滞りなく進んだ。


 いつもより時間がかかったとは言っても、他の者が案内するよりは遥かに早い。

 既婚者ばかりが働いている職場だ、若い女性が入ってくると皆ここぞとばかりに口説き出す。


 そんなところも『堅物でクソ真面目』なヴィンスが案内を仰せつかる理由の一つでもあった。


 ヴィンスが案内をすると、逆に彼のほうがアプローチを受けたりやたらと個人的な質問をされることは多いが、彼は全く相手になどしない。

 むしろ相手がそうであればあるほどヴィンスは必要以上の会話をしなくなるのだ。


 仕事以上の話をしようとしないシルヴィアに好感を抱いたヴィンスは、珍しく自分から違う話をしてみた。


「シルヴィアさん、ずいぶん大きな荷物だが……もう住居はきまっているのか?」


「ええ、エルネに住む親類が手筈を整えてくれました。それから私のことは呼び捨てで結構です、スタンフォード分隊長殿」


 シルヴィアが全く表情を変えずにそう言うので、ヴィンスは苦笑した。


「俺のこともヴィンス、で結構だ。……分隊長は大した職でもない」


「そうなのですか?失礼……なにぶん田舎者ですので、騎士様達とは馴染みがないものですから」


 少しだけ驚いた表情をしたあと、やはり少しだけ恥ずかしそうにそう言ったシルヴィアを見て、ヴィンスはなんだか和んでしまった。


 この時点でヴィンスはシルヴィアに対して他の女性に対するような警戒心を抱くのをやめた。彼女にそんな気持ちを抱くのはなんだか馬鹿馬鹿しく感じられたのだ。


 当時の騎士団長ロータスの嫁であり、名実ともに騎士舎の主であるバーバラに面通しした際も、シルヴィアは翌日からの仕事について熱心に質問を行っており、気難しいバーバラも彼女のことを気に入ったようだった。




 全て終わるとヴィンスがシルヴィアの荷物が多いことを理由に、親類の手配した家まで送り届けたいと騎士団長に願い出たので、その場にいた皆はとても驚いた。


 そしてシルヴィアがそれを固辞したことにもやはり皆驚いた。


 驚いたが、なんとなく納得した。その内の一人であるロータスは、シルヴィアに不器用に笑いかけた。


「シルヴィア……この男は真面目で堅物と評判の男だ。安心して送り届けてもらってくれ」


 そんな風に騎士団長から言われてしまってはシルヴィアも断るわけには行かず、有り難く受けるしかない。


「そんなつもりで断った訳ではありませんが……では、そのご好意、有り難く頂戴いたします」


 近隣の村程度までしか外に出たことがなかったシルヴィアは、第四騎士団のこない地区に生まれたこともあり、騎士という存在に対する距離感があまり掴めなかった。

 その為『とりあえず誰に対しても丁寧に接していれば問題はないだろう』と思っていた。

 故に誰に対してもやたらと堅かった。



 そんな彼女を見ていてヴィンスはやはり漠然とこう思った。



(……彼女はどんな顔で笑うんだろう)



閲覧ありがとうございます。

ラブコメを期待して読んでいる方には申し訳ない前半のヴィンスさん。

彼がおかしくなるのは初恋を拗らせてからなのでコメディ色を入れられなかった……


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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が凄く読みやすいです。私もこうなりたいなぁ (´・ω・`) [一言] 久しぶりにつづきを読ませていただいております。 女騎士と読むだけで、なんだか変なのも想像するアタマですいません …
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