二択で迷わず間違っている方を選ぶタイプの盲目的馬鹿
そしてやってきた、王都での本部報告の日。
既にフレッドから手紙を貰っているメイベルは、会議後に予め別の部屋をとっておいてくれた。
「いや~お前は部下に恵まれてんなぁヴィンス」
メイベルも何度か間近で見ているが、ヴィンスの嫁馬鹿は騎士団全体でも有名だ。
結婚してからのヴィンスはいつも『なるべく定時で上がれるように』と張り切って仕事をしているらしい。
邪な気持ちを隠す為に、なんなら残業をしたがったくらいの独身時代とは行動こそやや異なるが、相変わらずシルヴィアにお熱の彼。
「フレッド副団長から手紙を貰ってなかったら『嫁と喧嘩』……いや、『嫁に叱られたのか?』って話からになってたわ」
そんな結婚二年目にしてまだ新婚気分のヴィンスが、暫くシルヴィアと離れるような任務をやりたがるとは思えないので、メイベルの言う通りどうしても『なにがあった』と心配することになっただろう。
ちなみにわざわざ『喧嘩』を『叱られた』に言い直したのに、言葉以上の意味はない。
なにしろ喧嘩はふたりが互いに怒ってするもの……ヴィンスがシルヴィアを怒らせる想像はできても、シルヴィアに対してヴィンスが怒る想像は全くできない。
そして『喧嘩両成敗』とか言うが、大体の場合ヴィンスが悪いんだろうと思われるので。
きっと、8割くらいは。
やはり8割くらいはヴィンスが悪いと思うけれど、『渡り竜』の件はメイベルもちょっとだけ反省しているので、シルヴィアをあんまり怒らせたくはなかった。
実はヴィンスに『お誘い』がなかったのには、その辺の配慮もある。
だが今回、フレッドからの手紙には、シルヴィアの手紙もついてきていたので、安心である。
「そんな俺が、ヴィンスの為に特別に御用意したのはコレ!」
まるでなにかのセールストークのようにそう言って、メイベルは書類を出した。
セールストーク的にも『安心』ときたら次は『安全』だが──安心したのはメイベルの心の中だけの話。
そしてメイベルのオススメ商品だけに、提示されるモノは勿論『安全』に非ず。
それを旅行プラン風に言うならば
【優雅な船旅で行く海底ダンジョン!~今は亡き王家の、失われた秘宝を求めて~】
といったところ。
──半年程前、古代水竜の出現が確認された。
古代水竜は『海の神の化身』などと言われており、豊漁の前触れとされている。
実際出現した年は豊漁になることが多いのだが、その分海の魔獣も多く出現する。
今まで単純に餌が多いからだと考えられてきたが、最近になって海底に神殿型ダンジョンがあることが確認された。
「周期出現・開放型ですか……」
「ああ。 しかも離島の民達の間では、『そこに今は亡き王家の秘宝がある』って言われててさ。 これは御伽噺程度に伝わる話だけど、『それを求めて神殿に向かった者が帰ることはない』っつーのがね。 そもそも知られてなかっただけになんとも言えんが、そこそこ強い魔獣が出そうではある」
他にも研究者とかが同行するらしい。
必然的に護衛も兼任することになるので、あんまり護衛向きじゃないメイベルは、誰かしら誘うつもりでいたようだ。
「ヴィンスは嫌がると思って考えてなかったんだが、その気なら丁度いい。 まあソルドラとの連絡も毎日は難しくなるから、アイザックの代わりに第九の代理副団長として残ってくれてもいいけど……どうする?」
メイベルはちょっと戦闘狂なだけで、基本的には仕事ができて気が利くいい団長。
それだけに、フレッドからの手紙を読んで、予めこの二択から選ばせることに決めていた。
第九騎士団の現在の駐留地は王都。
王都ならヴィンスの実家もあるので彼女を呼び寄せることも可能だし、ついでに挨拶もできる。
今後のことも考えると、ヴィンスの手網を握るシルヴィアとはいい関係でいたいところ──それになんたかんだ言って、ヴィンスがシルヴィアと会えないどころか連絡も取りづらいような離島での、最低でも二週間以上に及ぶであろう任務をするとは思えなかったので。
しかし、意外にもヴィンスは離島の方を選んだ。
「え? 本当に大丈夫?」
「大丈夫です! 連絡が取れると甘えてしまうので……!」
なんか決意は固いようだ。
メイベルはこの件で自分がシルヴィアからのヘイトを受けるのは嫌なので、一応「シルヴィアに怒られても俺は知らんぞ?」と念押ししておく。
しかしヴィンスは血涙を流しながら──
「死がふたりを分かつとも続く、私共の絆を、更に深める為……!」
と、なんかヨクワカラナイことを宣い出した。
つーか 『死がふたりを分かつとも続く』とは一体。
あの世も、とか来世も、とかそういう意味なのだろうか。
怖っ。執着心怖っ。
メイベルはそう思ったが、まあそういうのが好きな人もいるのだろうから、わざわざ口には出さなかった。
願わくばシルヴィアがそうであれ、くらいなもので。
多分違うんだろうなーと思いつつ。




