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騎士団長と嫁【連載版】  作者: 砂臥 環
騎士団長ヴィンスと嫁シルヴィア

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34/41

実はロマンチックでもなく

遅くなりました。……エタってないですよ!

 シルヴィアはそっと部屋の扉を開け、一階の様子を窺った。

 この行為は既に数回に及んでいる。


(…………まだいる)


 そりゃそうである。

 ヴィンスはシルヴィアの湯浴み後に件のアクセサリーを渡し、ようやく告白をする決意を固めたのだから。


 シルヴィアはシルヴィアで、件の下着を『とりあえず身に付けてみる』というところまで決意を固めていた。しかし、この下着を隠し持ってヴィンスの横を通り「湯浴みをします」と言うのが死ぬ程恥ずかしかった。

 シルヴィアはできればヴィンスが自室に戻ってから湯浴みをしたいのだが、いつまで経ってもヴィンスは部屋に戻る気配がない。


 ヴィンスが部屋に戻るのを待つシルヴィア。

 シルヴィアが来るのを待つヴィンス。


 事態は一向に進展しないまま、ただ時間だけが経った。



 先に動いたのは、意外にもヴィンスの方だった。



 ヴィンスは待つ間に色々考えていた。


(……酒の勢いに任せてシルヴィアの部屋に突入してしまおうか……いや、駄目だ!そんなことできない!!)


 そもそも結婚の経緯が媚薬の勢いである為、どうしても今回はハッキリした自分の意思を示したかった。


 しかし回り回った砂を吐くような甘い台詞は出てきても、明確で直球の一言がどうしても口に出せないヘタレ・オブ・ヘタレであるヴィンスは『さっさとシルヴィアの部屋に向かい、それを言う』という一番簡単な解決方法がままならない。


 そして乙女な脳は、本来予定していた筈の『サプライズ的素敵なプレゼント』のヴィジョンが忘れられない。


 流れ流されシルヴィアが自分を受け入れたのではないかという不安は未だにある。


 諸々の結果、彼の思考はおかしなことになっていた。……まぁ今までも十二分におかしかったので、それが十五分位になったに過ぎないのだが。



 何を思ったか彼は、『窓からシルヴィアの部屋に赴く』という謎の行為に打って出ることにした。



 小説だか舞台だか忘れてしまったけれど、朧気な記憶の中に『夜中にヒロインの部屋(2階)の窓を叩き現れたヒーローがバルコニーでプロホーズをする』というシーンがあったことを思い出したのだ。


(……イケる!これならイケる!!)


 なにがヴィンスにそう思わせたのかは彼にしかわからない。


 そしてここは勿論、彼の家だ。

 自宅の2階の部屋に赴くのに、外に出て窓を叩く必要が一体どこにあるのか。

 心身の疲弊もあり、多分脳が大分アレな判断をしたのだろうか……いや、通常運転でも大分アレなのは否めないが。


 とにかくヴィンスは2階のシルヴィアの部屋に『窓からこんばんは』をすることに決めた。決めたらもう、誰もヴィンスを止められないのはいつもの事である。止める人間もいないのだが。


 しかしヴィンスは気付いた。

 シルヴィアの部屋にはバルコニーがないことに。格好良く座って窓を叩けるような木もない。


 実はどちらも以前はあったのだが、『自分が夜間不在の間に、シルヴィアを狙った輩がそこから侵入するかもしれない』という無駄な危惧を以て、自ら撤去したのだ。仕方なくヴィンスは納屋から梯子を持ってきた。

 ……夜間に何をしているのか。もう阿呆としか言いようがない。




 数度に渡って部屋の扉の開閉を行っているシルヴィアは、ようやくヴィンスが居なくなった事を確認し、ホッと小さく溜め息を吐いて安堵した。

 ベッドに広げてある下着を持って下に行こうと扉を閉めて、壁側に何かがぶつかったような不審な物音に気付く。

 カーテンを少しだけ捲りその隙間から外を覗くと、窓の下に梯子がかけられている。ギシギシと小さく音を立て登ってくる大きな影。


 当然、恐怖しかない。


 だがそこはシルヴィアである。恐怖しながらも外の『敵』を待ち構えた。

 侵入すると同時に布団を被せて視界を奪いつつ思い切り梯子を倒してから、ヴィンスの名を叫んで呼び、彼の部屋に走る。

 今更逃げるよりはこの方が安全であり、合理的であると踏んだのだ。


「………………」


 しかし、待ち構えているのに何故かいつまで経っても窓を開ける気配がない。


(おかしいわね……)


 そう思っていたら、何故か窓からノック音。これは罠だろうかと思い、暫し様子を見ると「……シルヴィア、俺だ」というヴィンスの小さな声。


(えぇ?!)


 シルヴィアはカーテンを思い切り引いた。

 そこにいたヴィンスに、今しがた引いたカーテン以上にシルヴィアも引いた。


「…………なにやってんですか?ヴィンスさん…………」


 呆れながらカラカラと窓を開けるシルヴィア。


「……やっと、名前で呼んでくれたな」


 感動に満ち満ちた瞳で、嬉しさを滲ませながらヴィンスはそう言った。


 夜間に自宅2階の窓の外、梯子の上で。


(…………意味がわからないわ)


 そういえばそうだった。

 このひとのやることは大体良くわからないのだった。


 今更のようにそれを実感し、シルヴィアはなんだかグダグダ悩んでいた自分が馬鹿らしくなってきた。


「……なんで窓からな「シルヴィア」」


 何かを言おうと、とりあえず突っ込むことにしたシルヴィアの言葉を遮り、ヴィンスは強い口調で彼女の名を呼ぶ。

 目が合うと彼は真剣な眼差しでシルヴィアを見つめており、薄暗い部屋の灯りでもわかるくらい頬が紅潮していた。




「好きだ」




 ようやくヴィンスは8年近く出来なかった告白を果たした。



 そこからの彼はとめどなく、自分の想いを吐露する。シルヴィアの言葉を悉く遮って。

 だがシルヴィアも話すことがあったわけではなく、ただ戸惑いを隠せず言葉の端が出たに過ぎなかった。


「……え「愛している」」


「もう、ずっと前。出会ってすぐからずっと。ずっと好きだ」


「……あの「責任とかじゃないんだ」」


「媚薬なんて関係ない。ずっと君を抱きたかった。結婚も、君の気が変わらないうちにしたかった。同居の話も君の事情につけこんだ」


 そこまでヴィンスは一方的に話すと、小さく息継ぎのように深呼吸をしてまた続けた。


「……一緒にいたかったんだ」


「…………」


 ヴィンスは懐から箱を取り出してシルヴィアに差し出した。




「これからも、一緒にいてくれないか。シルヴィア・スタンフォード……俺の妻として」



閲覧ありがとうございます。


ようやく言えたヴィンス。

そして言い出したら止まらないヴィンス。


次話の関係上、梯子の位置を若干変更。

あいたた……

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