渡り竜討伐①
章管理を行うか悩み中。
なんだかヴィンスは出ていった。
最初に出ていった先は騎士舎の隊舎(寄宿舎)……第九騎士団団長、メイベルの滞在している部屋である。
すれ違う騎士団員の挨拶にも気付かない程、一心不乱にメイベルの部屋を早足で目指す。正に周りが見えていない。
はやる気持ちを抑えノックをすると、ご機嫌な感じでメイベルが扉を開けた。
短期滞在用の他より狭い、簡素な部屋のベッドには愛用の双剣と新しいグレイブが並べられている。手入れをしていたのだ。
「よぉ、ヴィンス。どうした?見てくれよ~コレ!流石エルネは良いモン売ってんなぁ!!」
ソルドラの街側は海に面してはいないが、隣の領、ヴェルサスから水路を使ってエルネに様々な品が入ってくる。
前にも述べた通り、周辺諸国との必要以上の交易を行っていないレイヴェンタールだ。ヴェルサスに港町はなく、その代わりに検問所が設けられている。
厳しい検問を潜り抜けて入ってくる品々が、王都よりも近いエルネの街に先に流れるのはままあることだった。
メイベルは新しいグレイブの表面に丹念に油を塗りながら、招き入れたヴィンスが話し出すのを一応は待つ。
全く興味はなさそうだが。
「魔術師団の方はいつ来るんですか?」
「あ?もう来てるぜ。まだ俺が直接声をかけた3人だけだけどな」
「じゃあもう行けますね!」
「…………あぁ?」
メイベルはその言葉に、夢中になっている手元のグレイブからヴィンスの方へ視線を移した。
なにしろ日中話し合った計画では討伐は1週間後だ。後衛の人数分の魔術師の派遣を願い出たのは今日であり、エルネから王都までの伝令は2日かかる。
「……本気で言ってんのか?ソレ」
昼間と言っていることが180°違うヴィンスに、メイベルは怪訝な顔をしてそう尋ねるも、彼が頷くと少年の様に瞳を輝かせた。
「そうかそうか!なんか知らんがヤル気になったか!!流石結婚すると違うなぁ、ヴィンス!」
そう言いながらベッドから降り、ヴィンスの背中をバンバンとメイベルは叩いた。そう、ヴィンスはヤル気になっている……色々な意味で。
新しい作戦はこうだ。
必要な人数は魔術師3人、後衛ふたり、それと前衛にヴィンスとメイベル。
魔術師一人が森の端からヴィンスとメイベルと後衛一人に飛空術をかけ待機。残りの後衛一人は魔術師を守る為やはり待機。二人の魔術師は一緒に島へ渡る。
空中戦を少しだけ行いつつ、一体だけ渡り竜を捕縛し、術をかけて言うことをきかせる。魔術師一人と後衛一人が竜に乗り、暫く旋回して群の一部を島から離すよう引き付ける。
魔術師とヴィンスとメイベルは島まで着いたところで魔術師が転移用の魔方陣を地面に描く。その間先程の囮はなるべく遠くへ群れの一部を連れていく。
メイベルとヴィンスは上陸したら囮への合図に狼煙を上げ、後はひたすら倒す。
魔術師が魔方陣を描き終えたところで、討伐し終えた渡り竜の骸を片っ端から転移させる。ただしヴィンスの為に1体だけ残す。
全て終わったら再び狼煙を上げ、その合図を機に竜に乗った二人と魔方陣を描いた魔術師は撤退。
メイベルとヴィンスは1体の骸を運びつつ撤退。
以上。
あとは適宜対応……杜撰な作戦である。
そもそもヴィンスはまだ後衛二人を確保していない。出発は2時間後だ。急ぎ騎士舎の隊舎から渡り廊下を伝い、営舎側へ移動……第四騎士団の執務室へと足を速める。
執務室には夜勤の副団長、ヴィンスより年上のルイスがいた。
副団長以下通常団員は平時、2交代制で勤務を行う。副団長は副団長同士、他の団員は部隊毎の交代制。ただし部隊は月1の頻度での交代だが副団長は団によって数が違う(2~4人迄おくことができる)ので頻度も団によって違う。
団長は近くに住むことを義務付けられる代わりに常に日勤で、夜勤は有事の際と任意でのみだ。
ヴィンスはルイスに勤務表を求め、後衛に適した人間を二人指名し「2時間後迄に討伐の準備をして集合するように」と部下に伝令を命じた。
「団長?討伐とは……」
「ええ、渡り竜の討伐です。ルイス副団長、後はお願いします」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ?!ちょ、正気かヴィンス!!」
ルイスがうっかり敬語を忘れてしまうほどに、あり得ない人数と性急さ。しかし今のヴィンスは例え相手が魔王かなにかでも負ける気がしなかった。
ヴィンスとメイベルはともかく、後衛に選ばれてしまった二人はいい迷惑である。しかしその辺もヴィンスはしっかり考えていた。
後衛一人……竜に乗る方は、体術に優れているが馬鹿でお調子者のロベルト。
もうひとりは実戦経験は浅いが優秀で、ヴィンスを崇拝と呼べるぐらいに尊敬してやまないレフィ。
案の定二人は指名された事に全く不快感を示さなかった。
ロベルトは
「これでルルゥも俺をカッコイイと思うに違いないっす!」
と意気込み、レフィは
「選ばれて光栄です!団長のお役に立てるよう頑張ります!!」
と目をキラキラさせた。
魔術師第三師団長ハドリーは少年の様に若い二人を見て少し不安になり、少年の様なおっさん、メイベルに小声でその不安を吐露する。
「後衛だろ?大丈夫だよ……誰が前衛だと思ってるんだ?それにお前もいる。一騎当千の三倍だ」
メイベルはそう笑い飛ばすが、ハドリーが望んでいた答えとは違う。そもそもハドリーの質問は『後衛がやたら若いが大丈夫か』だったのでまるで答えになっていない。
「……お前はマトモな会話もできんのか?おいヴィンス、本当にこんな少人数で大丈夫なのか?!」
「御心配には及びません。年上の方ロベルトは分隊長も勤めており、普段はこうして若干お調子者なところはありますが、体術に優れ、実戦では後衛も前衛も器用にこなす男です。若い方レフィは実戦経験こそ少ないものの、非常に優秀で魔術も使えます。後衛ならばまず間違いありません」
「ほう…………!」
答えに満足し、少し瞠目しながらヴィンスの方を向いたハドリーは更に瞠目する。
「ヴィンス…………何故鼻血を出している?」
「…………失礼。先の戦いを想像し、興奮してしまったようです」
鼻血を腕で拭いながらヴィンスは平然とそう言ったが、ハドリーはその様に一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
『先の戦い』が何を指すかはヴィンスしかわからないが、おそらくご想像の通りだと思われる。
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