5年前の指輪②
(それもこれも団長がクソヘタレだから悪いのよね……)
ミラはそう心の中で毒突いたが、ヴィンスのヘタレは有名である。 彼を変えられないならシルヴィアを変えるしかない。
思いは兎も角、行動なら是正できる。
「よく考えて?シルヴィア。そんな馬鹿な事しなくても、アナタが団長の子を産んだら良いじゃないの」
「そりゃそうだけど……私も若くないのよ?ヴィンスさんがその気になるのを待ってたら出産が不安だわ。初産だもの」
だからパワフルな女性を希望したのだ。ヴィンスがその気でなくとも押し倒して既成事実を作ってしまうような。
「その気にさせれば良いのよ」
そう言ってミラはフリクスに入ってきた媚薬を勧めてきたが、シルヴィアはそれを固辞した。あまりにも態度が頑ななのでつい押し付ける感じになってきたミラに、シルヴィアは仕方なく初めての夜の経緯を説明した。
「媚薬だけはもう勘弁してほしいわ……子を産む前に私が死ぬ」
なんせヴィンスは体力魔神の巣窟である騎士団の長である。媚薬の効果が切れるまで閨事に付き合う自信はハッキリ言って、無い。実際最初の夜はシルヴィアは意識を失った。官能とは違う意味で。
ミラもそれを想像し、青ざめた。
なにしろシルヴィアは『狩人』の娘であり、体力も筋力もそれなりにある。
そんな彼女が『死ぬ』と言っているのだ。
「……乱暴にされたの?」
その質問にシルヴィアは首を横に振った。媚薬まみれで余裕のない顔をしていた割に、ヴィンスはシルヴィアを気遣って事に及んだ。勿論組敷かれてはいたが、シルヴィアが早々に覚悟を決めてしまってからは腕も自由にされたし、なんというか……丁寧ではあったと思う。比べようがないからわからないが。
それでもくっそ痛かった。
そして、物凄く長い夜だった。
終わっても終わらないというか……終わっても次が来るというか、そんな感じだ。それはシルヴィアが死を覚悟した程。
どうやらヴィンスの媚薬への抵抗力は、初めてのシルヴィアを気遣う事で尽きてしまったらしく、体力的に気遣う事までは無理だったらしい。
「……媚薬だけは……勘弁してほしいの(切実)」
わざわざ2度言った事に状況の凄まじさを感じたミラは『よく結婚する気になったなぁ』と思った。
「ま……まぁね、媚薬はともかくその気にさせるっていうのはいいと思うのよ!これから下着でも買いにいきましょ?」
「下着ねぇ……」
買ったところで見せる機会があるとも思えないが、あんまり否定ばかりするのもミラに申し訳ない。
シルヴィアはとりあえずミラの言うことに従い、彼女と共にランジェリーショップへと向かった。
ランジェリーショップと言っても妖しい店ではない。この国では着けている人間は特権階級のごく一部だけの、コルセットやパニエなども売っている。オーダーやセミオーダーなども承るきちんとした店だ。
シルヴィアはミラに良さげなものをピックアップしてもらった。
シルヴィアの許せる範囲で。
ミラの選んだやたら隠す範囲の少なく、スッケスケのセクシー系下着を手に取り金額を確認すると、驚愕のお値段。あまりの高さに布の部分と紐の部分の面積から、その部分に充てられている金額を割り出すという無意味な行為を行った。
布の多いものより、ないものの方が高いとか、解せぬ。
いくら扇情的なものとはいえ、なんとなく釈然としない。
「……どう考えても単価が高過ぎるわ」
下着屋……なんていい商売なのかしら。特に補正力も伴っていないというのに……
……自分で作ろう。10分の1の値段で済む。
大体の構造は解ったので生地屋に行きたいと行ったら、呆れたミラが上下の下着とベビードールのセットを購入し無理矢理シルヴィアに押し付けた。
「……見せなきゃ意味ないのよ?わかってるわね?」
そこはシルヴィアも懸念しているところ。着てても見せれる気がしない。
返事を返せないシルヴィアにミラはハッキリと言った。
「良いこと?迫るのよ、自分から!!」
「私には無理よ!!どうしたらいいかわからないわ!!」
「具体的に言うなら……そうね、食後にちょっといい雰囲気になるように、酒でも飲みながら買いものに行った話をしなさい。『何を買ったと思う?』と質問するのよ。正解を教える流れで脱ぐ!……コレね」
シルヴィアはおもわず瞠目した。
なんたる策士…………!!あざとエロい!
ウブなシルヴィアには到底思い付かないエロプランにシルヴィアは飛び付いた。
……が直ぐに冷静になった。
「無理よ!無理!!そんな破廉恥な……」
「覚悟を決めなさい。シルヴィア……それでダメならさっきの話、考えてあげてもいいわ」
ミラの有無を言わさない迫力と、自らの胸に抱えているウッカリ受け取ってしまった高級下着の袋……そしてそのお値段。
更にだめ押しの条件にシルヴィアは返す言葉もない。
ただ赤くなって俯くだけだった。
(自ら誘う……ですって?しかもそんな方法で……ヴィンスさんがそれでも何もしてこなかったら居たたまれないどころの騒ぎじゃないわ!私の精神が死ぬわ!いえ、誘う時点でまず瀕死よ!!)
俯きながら色々考えるシルヴィアにミラはだめ押しのだめ押しを加える。
「高かったのよ?!使わなきゃ勿体無いわ!」
「!!」
(ふふふ……悩んでるわね)
『使わなきゃ勿体無い』…………それは彼女に最も有効な一言である。流石ミラ、シルヴィアの性格を熟知している。
真っ赤になったまま悩み続けるシルヴィアに、後ろから声が掛けられた。
「……シルヴィア!見つけたわよ!」
振り替えるとそこにいたのはソルドラ領主の娘、ローザンヌ・オリオリテだった。
短くてすいません。(。・x・)ゞ
説明を少し加筆しました。




