想いが重すぎる
ちょっと矛盾を感じ、説明部分を加筆しました。
それによっておかしくなった部分の訂正、読み直してあまりよろしくないと感じた部分の訂正も加えました。
直す前に読んでしまった方、乱文で大変申し訳ありません。
内容が変わることはさしてありませんが、またおかしい部分は随時直していきますので御了承ください。
今日もソルドラは概ね平和である。
秋だというのに、モンスターの被害は微々たるものしか報告されていない。
実はそれは今年、翼竜『リンドブルム』達の中でも『渡り竜』と一般的に呼ばれている種類の数十年に一度の繁殖期だったからである。
彼等は渡り鳥と同じ様に、寒い時期には南へ越冬する為『渡り竜』と呼ばれている。その長い旅路の中、秋になると一時的にレイヴェンタール公国の領海にある無人島で羽根を休める。
虫系の魔物が多い、ソルドラの森がほど近いそこは、餌を狩り、羽根を休めるのにピッタリな場所なのだ。
さして大型ではない彼等は群れで生活するが、数はそう多くない。多い群れで20~30羽といったところ。また一回の繁殖で群れの総数の1割程度しか産卵は行わないが、その代わり一個体の寿命も長い。
繁殖期になるととにかく彼等は食欲が旺盛になる。卵を産む産まないはさしたる問題ではなく、何故か全ての個体の食欲が増す。群れを守るためだとか幾つか仮説はあるが、彼等は近付く事が困難な翼竜で、しかも一時しか姿を現さない渡り竜だ。その為、そもそもの詳しい生態が未だに解っていない。
ただ、彼等のおかげで今秋のソルドラは例年よりも平和であることは事実である。
しかし、別の問題が発生していた。
「やあ、ヴィンス。久し振り!」
次の日の朝、第九騎士団の団長となったメイベルが、単身ソルドラのここ、第四騎士団にやって来ていた。
彼は小柄な上に童顔で、齢40に近い筈なのにヴィンスより若く見える程で、巷では『化物少年団長』『ちっちゃい鬼』等と呼ばれている。
ヴィンスとは騎士団報告のため登城したときたまたま顔を会わせたきりなので、もう2年振りになる。2年前も今も、彼と初めて会った7年前からまるで変わらない印象を受けた。
「お久し振りです!……相変わらずお元気そうで…………というか、驚くべき若さですね……」
「ああ、良く言われる。とうとう結婚したんだって?おめでとう!アイザックがもう悔しがって大変だったがね。いや~、しかし……長かったなぁ」
ちなみにアイザックは副団長になった。
ソルドラにいたときもシルヴィアをずっと追いかけ回してはいたが、その度ヴィンスに散々やられ、彼は益々鍛練に勤しむようになった。ソルドラを離れてからもヴィンスがいち早く出世した話を聞き、彼は負けたくなくて仕事も頑張った。
今のアイザックがあるのは、とどのつまりヴィンスのお陰だったりする。
「今日は直々にどういったご用件で?……まさか祝いの為にいらしたわけではないでしょう」
「ああ、報告が上がってさ。ホラ、渡り竜のことだよ……今年は繁殖期だろ?」
「はい。お蔭でソルドラは秋だというのに、2隊要らない程平和です」
第四騎士団はモンスター退治を主な仕事としているとはいえ、それらが出ないときは当然他の騎士団の仕事と同じ様にソルドラの自治や警備も行う。なので今秋のソルドラは益々平和だった。
「それがさぁ……繁殖期なだけならいいんだけど、今年の群れは数が多いんだよな。それが問題だ」
以前にも語ったように、レイヴェンタール公国は『土地神信仰』である。
なのでこちらに害がない限りは徒にモンスターを殲滅することはない。
その都度討伐するので第四騎士団が必要なのだ。
信仰云々と言ってはいるが、実際にはモンスターがもたらす恩恵がそこにある。むしろ信仰はそこから発生した部分もあった。
例えば巨大ワームの体液は媚薬効果が高いが、その本質は麻痺毒。加工によって痛み止め等にも使用される。
また、彼等の強固な脱け殻は日用品から装備に至るまで幅広く使用されるし、その糞は極上の肥料となる。
「このままだとモンスターが狩られ過ぎる。そんな訳で近いうち討伐命令が出るんだが……相手は羽根付きだろ?」
「ああ……」
翼竜を相手にする場合、当然空中戦を視野に入れなければならないが、騎士団で魔法を使える者は少ない。
使える者でも使用しながら戦うとなると、なかなか難しかった。
レイヴェンタール公国を含む周辺諸国は保守的で閉じている。
なので友好関係を築きながらも、互いに過剰な国交を持つことをよしとしておらず、周辺諸国で不可侵条約を結んでいた。
万一の為に守りは強固にしているが、攻める想定はないので、空中からの攻撃に対する備えがあっても、逆に空中から攻撃をする備えはない。
とはいえ、今回は『翼竜の一部討伐』に過ぎない。
こういう場合、躾られた翼竜か魔導師と組んで討伐を行えばいいだけの話なのだが……実はそこが問題なのだ。
この国の騎士団と魔導師団は非常に仲が悪い。特に上層部が。
互いに今回の件に関する主導権は自分達にあると譲らないので、話が現場に降りてこないのだった。
甚だ大人気ない、くだらない理由だが……この国に限らず、そういうことはどんな組織にもままあることではある。
「いい大人が面倒臭いよなぁ……」
出された菓子をつまみながら、メイベルはぼやいた。そんな仕草をすると本当に少年の様な彼ではあるが、騎士団きっての双剣の使い手であるのはご存知の通り。そしてメイベルは武に関して、誰よりも血気盛んな男でもあった。
咀嚼を終え、茶をすすったあと、ニヤリと笑って彼は続ける。
「だからさ、俺がこっそり裏から仕切っちゃったんだ。ま、上手くどちらの顔も立つようにはしたんだけど」
「メイベル団長……討伐に行きたいだけですね?」
「当たり前だ!そりゃ平和は何よりだけど、俺の双剣が錆び付いたらどうしてくれる!気が付いたら出世しちゃってて、第四騎士団への転属もできないし。何度隣国に移り住んで冒険者になってやろうかと思ったことか……」
レイヴェンタール公国では、モンスターの出現がほぼソルドラであることや先に述べた理由などから、所謂『冒険者』という職業は認められていない。
それどころか、場合によっては処罰の対象となる。
翼竜の討伐は第四騎士団の管轄外なので、メイベルにしてみればモンスター討伐に携われるまたとない機会だ。
「島に降りたらグレイブの方がいいかな~とかさぁ、色々考えてたらもう居ても立ってもいられなくて……ぶったるんでる団員共に稽古を付けてやってたんだけど、あいつら『是非戦いの前に休暇を!』って懇願するもんだから、仕方なく休みを貰ってやった。どうせソルドラには行くわけだし先に来たってワケ」
(……第九騎士団員……きっとギッタギタにやられたんだろうな……気の毒に)
「で、だ。ヴィンス。いやヴィンス団長。今日来たのは休暇を楽しむためじゃなくて、団長に頼みがあっての事なんだ。討伐隊メンバーを貸してくれないか?第四騎士団員から」
騎士団と魔導師団が仲が悪いのは説明した通りだが、第四騎士団はソルドラから出ないのでそういった柵も薄い。
メイベル曰く、当初は全団から有志を募るつもりだったらしいが、人間関係が面倒なのと、ソルドラに行くのが面倒なのを考えると集まりが怪しいと踏んでやめたとのこと。
「第四騎士団から借りた方が早いと思ってね。正直後衛だけでいいんだ。な、頼むよ」
『後衛だけでいい』。
その言葉にヴィンスはピンときた。
「メイベル団長……貸すのは吝かではないのですが……貴方、前衛を単騎でいくつもりじゃありませんか?」
ヴィンスの指摘にメイベルは子供の様にへらっと笑って誤魔化そうとする。
危なすぎる……こんな人に大事な団員は貸せない。
「駄目です。単騎駆けなんて無謀な真似をする人に団員は貸せません。貸すとしたら俺の管理の下、前衛も含めてお貸しします」
「そう固いこと言うなよ~!ヴィンス!!だって精々10体だぞ?!たまには思い切り戦わせろ!……あ、なんならお前と後衛だけっていうのはどうだ?競い合おうぜ!時間を決めてどっちが多く狩れるか……」
……どんだけ血気盛んなんだ。
この人が未だ独身な理由が解った気がする。
大体今俺はシルヴィアの事で頭がいっぱいなんだ。余計な心配事を持ち込まないで頂きたい。
そう思ったヴィンスは無論断るつもりで溜め息混じりに声を発する。
「それは軍規違反ギリギリですよ……大体……」
ヴィンスはそこまで言って言葉を止めた。
あることに気が付いたのだ。
「…………軍規では当然討伐した骸は国に帰しますが、一部の流用は可能でしたよね?」
例えばそのモンスターによる被害者遺族や、戦いの際壊れた建物等の補償金としてそれらが与えられる事はある。
ヴィンスは何故かそれをメイベルに確認した。
「うん?ああ…………」
何を突然?……当然そう思ったメイベルに、ヴィンスは畳み掛けるように質問する。
「今回、特別報酬はどうなってます?」
「人数にもよるが、そこそこ出るだろうな。……なんだ?金が欲しいのか?だったら……」
『俺の報酬をくれてやる』そう言おうとしたメイベルの言葉をヴィンスは遮った。
「いえ、俺が欲しいのは…………メイベル団長?……一応確認しますが……危険を承知で馬鹿をやりたい、そういう事ですよね?」
メイベルはヴィンスの心が変わりつつあるのを察し、口角を上げる。
「ああ、そういう事だ。刺激は強いくらいがいい」
「……ギリギリの人数で、後衛にはいつでも退避できる距離とその命を出しますが……それでも?」
「構わないさ。むしろ大歓迎だ!」
「もう1つだけ、個人的な俺の条件を呑んで頂けるなら」
「なんでも言ってみろ。今回の件は俺主導だぞ?大概の事はどうとでもなる」
結果、ヴィンスはメイベルに第四騎士団後衛部隊の一部と、彼自身のみの貸し出しを許可した。
ヴィンスの条件は『報酬の現物支給』。
彼が欲しいのは『翼竜の胆石』…………それは魔力を含んだ高級品であり、加工により素晴らしい宝石となる品である。
死力を尽くして自らが手に入れ捧げる、とっておきの品。しかも宝石。
シルヴィアに想いを告げるのに代えるには、これ程うってつけの物はない。
そう思ったヴィンスは新婚ホヤホヤの1週間目だというのに、わざわざ危険な任務に自ら首を突っ込んだのだった。
閲覧ありがとうございます。
違うのばかり書いて、ほったらかしにしてましたがちゃんと最後まで書く気ではいますよ!
(´▽`;)ゞ
気持ちとしてはなるべく1週間位で更新したいのですが……今後も内容と同じ、ゆるっとな感じで進めていくことになりそうです。
折角読んでくださっている数少ない皆様には申し訳ない限りですが、是非ゆるっと楽しんで頂きたく……
是非これからも宜しくお願いします。(*´ω`*)




