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騎士団長と嫁【連載版】  作者: 砂臥 環
騎士団長ヴィンスと嫁シルヴィア

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16/41

事の顛末

書き忘れてた部分を加筆しました。

 書類保管室に入ったシルヴィアとアイザックの二人は、暫くは別々に動いていた。


 アイザックは先程、うっかりを装ってシルヴィアの手に触れた。


 激しく拒絶されるようなことも、かといって照れるようなこともなかった。

 ただしほんの少しだけ距離をとられる。


 ……これはマズい。


 アイザックは感じた。

「この女は『男』という存在に慣れている」と。


 男女関係的な事では当然ない。噛み砕いて言うならば、シルヴィアは『セクハラに至らせないタイプの女』なのだ。

 隙を見せることも、警戒心を露にして嗜虐心を徒に煽ることもない。


 下心がこちらにあることがわかれば、上手いこと逃げられてしまう……いきなり強引にもっていくにしても、このタイプは怯まない。そんな確信が漠然とあった。


 強引に迫る気ではあったが、それは恋愛的な駆け引きの範疇に収まらなくてはいけない。

 この世界は男社会なのである程度まではセクハラに寛容だが、自ら乱暴に迫った場合、それはもう事件である。

 特に騎士や軍人が『力に物を言わせて』何かを仕出かした場合、厳しい罰が待っている。


 偶然を装いつつ、『至近距離で口説ける』状況……

 アイザックはそのチャンスを窺っていた。



 満を持して、そのチャンスはやってきた。



 シルヴィアが脚立を使い出したのだ。


 彼女は掃除の為に昔の書類が束ねてある箱を棚上から降ろそうとしている。

 アイザックは心配そうな顔を作りながらシルヴィアの方へ歩み寄った。


「……大丈夫か?書類は重い、高いところなど声をかけてくれれば」


「ありがとうございます、でも大丈夫……きゃっ」


 軽い悲鳴とガタガタっという音と共に、シルヴィアは脚立から足を滑らせる。


「おっと」


 バランスを崩した彼女をアイザックは、さながらロマンス小説のヒーローの如く抱き止めた。


 しかし、事実は仕組まれたものだ。

 アイザックは然り気無く足を脚立に引っ掛けたのだ。


「申し訳ありません、助かりました……」


「いや、俺が足を引っ掛けてしまったみたいだ」


 敢えてきちんと謝り、シルヴィアの体勢を整えてから身体も少し離す。

 この行為は不可抗力であることを印象付けるという利点もあるが、あくまでもアイザックにとっては『迫る為の距離を縮める』のにとった行為に過ぎないからだ。


「大丈夫か?」


 優しくそう掛けた声にシルヴィアが頷いて申し訳なさそうにはにかむと、アイザックはここぞとばかりに距離を詰めた。


 シルヴィアを受け止めて降ろした際に、位置関係は気を付けた。

 彼女は壁と棚を背にしている。いい感じの配置だ。


 逃げられてしまわないよう、棚側である右に身体を寄せ、左手でシルヴィアを囲い込むよう壁に手を付けた。


「……なんの真似ですか」


 視線を合わせて先ずは口説く。

 シルヴィアは訝しげな瞳で眉もひそめているが、直接的に反撃はしてこない。


「シルヴィア……懸命に仕事に勤しむ君は美しい。だが俺のことも少しだけ君の瞳に映して貰えないか?」


 シルヴィアは厳しい眼で彼を見詰めるとバッサリと嗜める。


「そう思うなら仕事をしてください、アイザックさん。場を弁えない方は論外です」


「言ったろ?俺の仕事はもう終わってる。シルヴィア、10分だけ休憩を。……その間に仕事以外で会ってくれると約束してくれない?」


 反応を窺いながら少しずつ距離を詰める。

 シルヴィアが少し俯いたのを機に、アイザックは決定的な行動に出た。


「君を知りたいんだシルヴィア……」





 休憩室から飛び出たヴィンスは真っ先にバーバラの所に向かっていた。


 真面目なシルヴィアの事だ、案内を頼まれたとしても時間がかかるようであれば恐らく報告をしている。もしかしたら場所を告げているかもしれない。


 ヴィンスの想定は的中していた。


 バーバラ曰く、「見取り図を渡し、必要ならば案内する。それを終えたら書類保管室の清掃・整理を行う、と告げられた」とのこと。


(書類保管室……!)


 二人きりになるにはうってつけの場所だ。シルヴィアが行くとなれば奴もついていくに違いない。


 実際とは少し違うが、大方その通りだった。


 書類保管室に駆けつけたヴィンスは、二人を確認する前に叫びながら乱暴に扉を開けた。


「シルヴィアっ!!」


 視界の範囲にシルヴィアはいなかったが、扉に向かって縦列した棚の、一番奥の通路からひょっこり顔を出した。


「……どうされたんですか?ヴィンスさ、ひゃあっ?」


 ヴィンスはシルヴィアの元に走り寄り彼女を抱き寄せた後、気付いたように彼女の両腕を掴むと引き剥がして全身を眺めた。……着衣に乱れは、ない。


 ヴィンスがちらっと奥に目をやると、アイザックが蹲っていた。



 ヴィンスが乱入するほんの少し前……



 アイザックを『不埒な軟派男』と認識したシルヴィアは躊躇なく反撃を試みる事にした。

 迫ってくると同時に身体を屈め、みぞおちにワンパン叩き込んだのだ。



 壁ドンの弱点、それはボディががら空きな事。



 ただし騎士の強靭なボディだ。通常はここまでダメージを与える事は出来ない。


 エルネでは親戚筋以外誰も知りはしないが、シルヴィアはラス地区の民なら皆知っている『狩人』の娘なのだ。


『狩人』はラス地区に初めて住んだ者と言われており、彼等には役割があるのだが、ここでその詳細は省く。

 力が取り立てて強い訳ではないが、『狩人』は急所を明確に見極める目を持つのが特徴だ。勿論血は薄まっているが、その分知識でカバーしている。


『狩人』の娘であるシルヴィアもまた、幼い頃から人を含む動物の急所の位置、筋肉のつき方等を叩き込まれていたのだ。


 そんな訳でシルヴィアは確実に横隔膜の動きを止めるべくみぞおちにワンパン入れてやることが出来たのだが……この事実を知るものは少ない。



 なにが起こったのかはよくわからないが、とにかく無事で良かった……


 そう思ってヴィンスは再びシルヴィアを抱き締めた。


「ちょっ……ヴィンスさ……?」


 シルヴィアは困惑した。

 アイザックと違ってそれが不埒な気持ちからではないのはわかっていたので、逆にどうしていいものかわかりかねる。


 なんでわかったのかは知らないけれど、心配して駆け付けてくれたのよね……?


(期待……してしまってもいいのかしら……)


 シルヴィアの胸は俄に高鳴ったが、そこはやはりシルヴィアである。

 ……石橋は叩いて渡る派。他の可能性も検討してみるのを忘れない。


 友愛的な意味でないとも言い難い……そんな風にシルヴィアが逡巡を繰り返している間、ヴィンスもまた考えていた。


 今回は未遂で済んだ様だが、次がないとも限らない。しかも新たに第九騎士団の団員がやってきてしまう。


(シルヴィアに近付く輩を排除するにはどうしたらいい……!?)


 いや、さっさと告白しろよっつー話なんだが、ヴィンスは『近付く輩を排除する方法(物理的に)』に頭がいってしまって『恋人になれば近付く輩が減る』とは考え付かなかった。

 ……ヘタレな上に脳筋。どうしようもない男だ。


 今シルヴィアを抱き締めていられるのも、彼が冷静でないからだ。

 本来ならば告白の絶好のチャンスなのにそれをまるっと無視して、彼は先程の様にシルヴィアを唐突に引き剥がすと、流れ的に訳のわからない事を言い出した。


「……シルヴィア!以前断られた俺の家の管理、もう一度考えてくれないか?!」


「………………はい?」


 何をいきなり?


 当然シルヴィアはそう思った。


「嫌か?!」


「えっ、嫌では「そうか!受けてくれるか!!」」


 無茶苦茶強引だ。

 何故こんな真似が出来て告白が出来ないのか理解に苦しむところ。


「住み込みだが構わないな?!「へ?あの」大丈夫!君の部屋に鍵は付けておく!」


 人の話を聞け……

 そう思いながらもシルヴィアはそれ以上何も言わなかった。


(まあ、いいわ………………ヴィンスさんなら……)


――――それに、オイシイ。

副業の上に住み込みとか……オイシイ以外の何者でもない。


「……わかりました、お受けします」


「!シル……」


 わぁっ!!パチパチパチパチ……!!


 シルヴィアが了承し、ヴィンスが何かを言おうとした途端……周囲に拍手が巻き起こった。


「えっ?」


 何故だか大量の騎士団員に囲まれている。

 シルヴィアは状況が益々解らずに目を点にした。


「副団長殿!ヤツを発見致しました!」


「うん、ご苦労。連れていけ」


 メイベルは団員にアイザックを連れていかせると「皆!引き上げだ!!」と全員を撤収させる。

 呆然と佇むシルヴィアにニッコリと笑いかけると、彼は去り際にヴィンスの胸をノックするように軽く叩いてこう言った。


「おめでとう、ヴィンス。部下の恥ではあるが『雨降って地固まる』ってやつだ。まあ、許せ」


 フッ……と笑って背を向け、メイベルは部屋を出ると扉を静かに閉めた。


「…………何か、盛大に誤解されてないですか?」


 ぽつり、と呟いた後暫く二人はそのままだったが、急に我に返ったシルヴィアがメイベルを追いかけて一から十までキチンと説明をしたので、アイザックはそんなに怒られなかった。


 ただしヴィンスはこれを期にメイベルに頭が上がらなくなる。

 メイベルはてっきりヴィンスがシルヴィアにプロポーズでもしたのだと思っていた。

 しかもアイザックがヴィンスの恋人に手を出すような真似をしたと思ったから、彼は命令まで出したというのに付き合ってすらいなかった訳だ。


 自分達の駐留期間中にまだ何も出来なかったヴィンスを、メイベルは最終的に残念な子として扱うようになった。


 こうして二人の同居は始まった。


 しかしヴィンスを『残念な子』扱いでソルドラを離れたメイベルですら、彼がその後7年も何も出来ないとは流石に想像できなかったのだった。



 余談ではあるが、アイザックはこの後シルヴィアに本気になった。殴られたのが新鮮だったらしい。

 しかし悉くヴィンスに邪魔されたことは言うまでもない。

上手く纏められなくて話数が増えてしまった感。

余計な表記と表現の重複が多かった気がする。

反省。多分忘れるけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーむ、壁ドンとやらにも、立ち位置やら駆け引きやらがこうまであるとは……。 なんつーか、戦闘シーンの動きを脳内シミュレートしてるのと似たような感じがするといいますか……。 想像以上に奥が深…
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