ヴィンスとアイザック
スマホだと文字数が稼げない…………
重複してた表現を直しました。
次の朝、ヴィンスは団長の執務室に呼ばれた。
そこには引き継ぎの為に他の団員より早くソルドラを訪れた、第九騎士団の副団 長メイベルと他2名が立っている。
ジョージ、そして昨夜の男、アイザックだ。
アイザックは筋肉質だが細めの長身で、整った華やかな顔立ちに長めの金髪と女好きしそうな男。
実際、彼はとてもモテる。
ヴィンスが彼に挨拶をし握手を求めると、アイザックはにっこりと微笑み、差し出されたヴィンスの手を引っ張ってハグをした。
「ヴィンセント・スタンフォード!!久し振りだな!宜しく頼むよ!」
そう明るくいいながらバンバンと背中を叩く。かなり強めだ。
「知り合いか?」
ロータスの質問に、ヴィンスの替わりにアイザックが答えた。
「ええ、彼は私の事など覚えていないと思いますが……同期生ってやつです」
年に3回ある騎士試験に合格すると、次の試験が行われるまでの4ヶ月間のうち3ヶ月を使って、訓練と適性検査が行われる。
そしてそのあと配属先が決まるのだ。
「いや……覚えている」
……というか思い出した。アイザックの言葉で、ヴィンスも彼の事を。
割と碌でもない思い出と、彼の印象を。
アイザックとは直接関わることは殆どなかったが、器用でなんでも出来る男だった。
その反面悪い意味でも要領がよく、不真面目なくせにそれを隠すのが巧い。
そして努力や要領の悪い者を小馬鹿にする、鼻持ちならないところがあった。
訓練の最終試験は勝ち抜き戦で、訓練生が闘いその実力を競う。
王都にある競技場で華やかに行われるのだが、その日、彼は手伝いに来ていた女性を柱の影で口説いており、「勝利を君に」等とのたまっていた。
それがとても不快だったヴィンスは、彼をこてんぱんにのしたのだった。
(コイツがいなければ俺が第二騎士団に入れられることもなかったかもしれん…………)
ヴィンスは結果的にそれがもとで第四騎士団に入り、シルヴィアと出会えたものの……第二騎士団にいた頃散々そう思ったことをにわかに思い出し、それが脳内に蘇ってくるのを感じた。
アイザックもまた
(こいつがいなければ第二騎士団に入れたに違いない……)
と思っている。
「覚えていてくれて光栄だ、アイザック……歓迎する」
ヴィンスも先程のお返しにハグをした。やはりかなり強目に。
ニコニコ笑いながら二人はお互いを見詰めていたが、どす黒い空気は隠れておらず……その場にいた者は皆、『なんなんだコイツら』と訝しげにそれを眺めていた。
(くそっ……ヤロウ……きつく締め上げやがって……痕がつくじゃねえか……!)
アイザックはイライラしながらヴィンスに騎士舎内を案内されている。
ヴィンスも適当に済ませたいが、彼が案内しているのはアイザックだけではないのでそうもいかない。
幸い案内さえ終われば、あとは現在駐留中の第六騎士団の仕事だ。
(それまでは奴など気にしなければ済む……しかしあの男、やたら強く叩きやがって……)
ヴィンスもまたイライラしながらも、それを表に出さないようそつなく案内を進めた。
案内も終わり、休憩時間になるとヴィンスはいそいそとシルヴィアの所へ向かった。
アイザックのせいでイライラさせられ、疲弊した精神を癒したかったのだ。
騎士舎の雑務が仕事である彼女らの休憩時間は持ち回りなので、今休んでいるとは限らなかった。忙しそうであれば多少手伝って話しかけるか、なんなら顔を見るだけでもかまわない。
昨夜の食事の礼を言い、鍋を返すという口実があるヴィンスの足取りは軽やかだ。
木製のロッカーから洗った鍋と、ちょっと小洒落たお菓子の入った袋を取り出して彼女を探す。
ちなみにヴィンスの家にはこういうお菓子が常備してある。討伐などで予定外の汚れ物が出た時など、シンシアを含む騎士舎の女性になにかを頼む際の添え物に便利だからだ。
幸運にもシルヴィアは休憩中だった。
「シルヴィア!」
「ヴィンスさん」
「「昨日はありがとう」ございました」
図らずも同じ台詞を被せて言ってしまい、二人は顔を見合わせて笑った。
「お礼なんて……スープはマーサさんからですし、私はなにも」
鍋とお菓子の入った袋を手に、シルヴィアは少し申し訳なさそうにはにかむ。
シルヴィアの手作りでなかったことにちょっとガッカリはしたが、楽しかったことに変わりはない。
(それに……そんな表情のシルヴィアも可愛い……癒される……充分にありがたい)
そう思いつつもなかなか口には出せないヘタレのヴィンスだが、お誘いはちゃんとできる。
「今度、一緒に遠乗りにでも行かないか?……ロックも君を気に入ったようだ」
ただし、馬を理由に。
「まあ……嬉しい!」
満面の笑みを溢すシルヴィアを見て、ヴィンスの心臓には矢が刺さり、辺りに花が咲き乱れた……ような幻覚に襲われる。
「……でもヴィンスさんの乗る馬がなくなっちゃいません?」
当然シルヴィアは一人一頭のつもりだ。
勿論そんなことはヴィンスにも想定済みだ。聞かれなければなし崩し的に、聞かれてしまったらハッキリと二人で乗るつもりであることを口にしようと思っていた。
「いや……その…………」
『二人で、ロックに乗ればいい』そう言うつもりでいた。
「?」
「……(ヤバい……変な間があいてしまった……シルヴィアも不思議そうな顔で見て……うわ、小首を傾げるとか、ヤバいなんだそれ可愛い可愛い可愛い)」
動物の事になると気が緩むのか、昨日からシルヴィアはいつもよりあどけない表情をする。
今までなかったその表情に、ヴィンスは完全にヤられていた。
「………………っ、ロックは騎馬で大きいから、シルヴィアに合った馬を用意する」
案の定言えなかった。
それでもシルヴィアは喜んで約束を受けてくれ、ウキウキしながらヴィンスは仕事に戻っていった。
閲覧ありがとうございます。
一話の文字数で悩み中。
4000文字だと多いかな……2000文字だと少ない?かな……
結局のところ好みだとは思うんですけど……
なかなか定まらない……
読み直し易いのは短い方かなって思いつつも、話数が増えすぎな気はどうしてもしてしまう……




