ヴィンスの誤算
PCが使えないので更新しないつもりだったけど、スマホからしちゃいます。
スマホで書くの好きじゃないんですよ……
だから、しないつもりだったんですよ?
……いやマジで。
あ、今回おまけ付きです。
『馬に乗せてほしい』
シルヴィアの予想外のおねだりにヴィンスの脳内は爆発寸前だった。
また阿呆な妄想が彼の頭を駆け巡る。
馬を走らすヴィンスの前にはシルヴィア。
密着する二人の身体。
「馬って意外と高いんですね……怖いわ……」
そんなシルヴィアの肩を抱き寄せる。
「大丈夫、俺にしがみつけばいい」
「……ドキドキしちゃうわ……」
「まだ怖いか?」
シルヴィアは頬を赤らめながらヴィンスの言葉に、彼の胸にすり寄る様にかぶりを振る。
「違うの……ヴィンスさんと……こうしてることに……」
「フッ……そのドキドキなら、俺も既にしている……」
「!ヴィンスさん……」
そのまま遠乗りに出る二人……
そしてーーーー(以下前回の妄想とほぼ同じ)
「…………ヴィンスさん?」
現実のシルヴィアの言葉でようやくヴィンスは戻ってきた。(妄想の世界から)
「疲れているなら無理にとは言わない」と言うシルヴィアに、元気一杯アピールをしたヴィンスは思い余って木を一本殴り倒してしまい、シルヴィアを不安にさせた。
(なんか今日のヴィンスさん、ちょっといつもと違うわ……熱でもあるのかしら)
ヴィンスは確かにシルヴィアにお熱ではあるが、身体の方は元気一杯だ。色んな意味で。
たぎる気持ちを押さえながらなるべくいつも通りを心掛けつつも、シルヴィアをそこに待たせ馬屋に走るヴィンスの右手と右足は一緒に出てしまっていた。
「はぁ…………」
これは溜め息ではなく、深呼吸だ。
ヴィンスはシルヴィアから離れると、まず大きく深呼吸した。既に彼の心臓は半端ない速さで激しく音を立てている。
何もなくともシルヴィアと馬に乗れるのだ。……身体には触れてしまう。
(きっと良い匂いがするに違いない……)
またも不埒な想像に囚われそうになるヴィンスだったが、それよりも違う心配が僅かに勝った。
自分の匂いが気になったのだ。
身体をクンクンするも、馬屋の中なのでよくわからない。午後は書類の整理をしていたが、午前中は訓練で身体を動かしている。勿論全身の汗は絞ったタオルで拭ったが、風呂に入った訳ではない。
(汗臭くて嫌われてしまったら…………!)
相変わらず彼の脳内は乙女だった。
ヴィンスの馬、ロックが不思議そうな眼で主人を見詰める中、彼は暫くの間必死でクンクンし続けた。
だが残念なことにそれは徒労に終わる。
期待と不安を胸にシルヴィアの元に戻ったヴィンスが、馬に乗ったまま彼女に手を差し出すとシルヴィアは「?」という顔をした。
「……あ、違うんですヴィンスさん。できれば一人で乗ってみたいので教えて頂けないかと」
互いの認識の齟齬に気付いたシルヴィアは慌てて注釈を入れた。
物凄くガッカリしたヴィンスだったが、愛しのシルヴィアに「……駄目ですか?」と小首を傾げながら言われてしまっては断る筈がない。
(上目使いでおねだりとか……可愛すぎか!)
上目使いとは言っても、身長差で必然的にそうなるだけだ。だがヴィンスはとても萌えている。
シルヴィアが自分に対し、曲がりなりにも『おねだり』をすることなどは、今までなかったのだから仕方ない。
むしろ馬など買ってやる。10頭でも100頭でも。
……そんな気持ちだが、当然ヘタレの彼にそれを言う勇気はない。
シルヴィアの方も別に牧場経営がしたいわけではなく『ちょっと乗りたい』と言っているだけだ。
しかも本当は『ちょっと乗りたい』訳でもなく、別に目的がある。
勿論それはヴィンスの家の普段の状態を見ることに他ならない。
なんだか荷物が多いシルヴィアの為にヴィンスは騎士舎に戻り、サドルバッグを鞍の後方に取り付けた。
「荷物はここに……今日は随分と大荷物だな」
「ええ、実はマーサさんに頼まれて。たまには暖かいものを食べさせてあげて欲しいと」
「!!」
(まさか……シルヴィアの手料理?!マーサ!神か!!)
またあちらの世界へ旅立つ忙しいヴィンスだが、話が進まないので内容は割愛する。
ちなみにシルヴィアの荷物にはパンと、スープの入った小さな鍋が布でしっかりと固定されて入っており、マーサが用意したものだ。よって、シルヴィアの手料理ではない。
シルヴィアは『鍋を火にかける』と言って家の中をちょっと見たらすぐ帰るつもりだ。
色々と肩透かしを食らっているヴィンスではあったが、それでもシルヴィアを馬に乗せるとき……そのときこそお触りチャンスの到来だ。
いかがわしい言い方ではあるが、別段不埒な真似をする気などない。
好きな人に触れる……ヘタレなヴィンスにとっては十二分にご褒美だ。
しかしそれすらも彼は出来なかった。
それはヴィンスがヘタレだからではない。
普通より大分大きい騎馬のロックの背に、シルヴィアは鞍と鐙を上手に使い、アッサリ乗ってしまったのだ。
「成る程、確かに鹿より乗りやすそうですね!」
彼女はそう言ってロックの背中を優しく撫でた。
田舎中の田舎……ラス地区の女を舐めてはいけない。
彼女らは物凄く動物慣れをしている上、足腰が強い。……フレッドの言っていたことは作り話だが、卑猥な部分以外は強ち嘘ではなかった。
飼育されている馬としては、気が荒く、難しい性格のロックだが、シルヴィアには甘えるようにブルル……と鼻を鳴らした。
それも当然と言えば当然で、ラス地区で飼っている鹿達の殆どは野生の鹿を捕まえ躾たものである上、動物好きなシルヴィアは時折馬の世話の手伝いも自ら行っている。
(…………ロックになりたい…………)
ヴィンスは撫でられているロックを羨ましく眺めるしかできなかった。
自分の馬に嫉妬してどうする。
閲覧ありがとうございます!
次回は「シルヴィアの誤算」の予定ですが、本当は1つに纏める筈でした。
ヴィンスの妄想を端折れば纏められたと思うけど、やっぱりそこは外せなかった。自分の中で。
★おまけ・割愛した部分(妄想)★
台所から包丁の小気味良い音と、食事の匂い、温かな湯気が漂ってくる。
「良い匂いだな」
「なんだか……夫婦みたいですね」
そう言って頬を赤らめるシルヴィア。
「君さえ良ければ……そうなりたいものだ」
「え……」
「……結婚を前提に付き合ってほしい(キリッ)」
「…………(コクリ)」
黙って微笑み頷くシルヴィア。
「シルヴィア……食事より君を食べたい」
「あっ……」
以下、ムーンライトに続く(嘘)
…………書きませんよ?




