3話 追放者小隊へようこそ! この社会から追放された俺たちは、騎士団で秘密作戦部隊を作ります! (後編)
「聞いたか……ヒースの話を」
「『追放者小隊』が、国賓の暗殺を阻止したって話だろ?」
「デュランダ伯爵の件も、奴らが証拠を掴んだんだ」
「他にも山ほど……この前は、他国まで行って……」
「ヒースの昇任はまだなのか?」
「英雄視する諸侯も少なくない。相応の地位に上げないと……」
「しっ。来たぞ」
ヒソヒソ話をしていた騎士団の幹部陣が、廊下の奥から現れた五人組を見て、蜘蛛の子を散らすようにその場から去って行った。
『追放者小隊』の四人を引き連れて、ヒースは我が物顔で王国騎士団本部を歩いている。
「やれやれ。どいつもこいつも、人のウワサ話ばっかりしやがって」
「しゃーないですよ、ヒースさん」
隣を歩くネヴィアがそう言った。
「自分の仕事に集中しろってんだ。ヒマシキ、そう思わないか?」
「グワハハハ。ちげえねえな、大将」
「ヒース様ー。今日の宴会って何時からですー?」
「何時だったっけな。キャノン、覚えてるか?」
「……………………………………………………………………………………17時からだよ、フィオレンツァちゃん」
そんなことを話していると、五人は目的の部屋にたどり着いた。
警察騎士団の副部隊長室。
軽くノックをすると、ヒースはドアノブをガチャリと回して、部屋に入っていく。
机上で書き物をしていたジョヴァン副長は、彼らの姿を見るなり立ち上がった。
「よく来てくれたな!」
ジョヴァン副長はガチャガチャと甲冑を響かせてヒースに歩み寄ると、ゲッという顔をしたヒースの肩を掴む。
「ヒース! お手柄だったな! 何から話せばいいだろうなあ! ええと……!」
「待て、義父さん。近い。近い」
「いいか! 国王陛下から直々に、お前を三等王族護衛官に任官したいという話があるんだ!」
ジョヴァンの話を聞いて、『追放者小隊』の四名は驚きの表情を見せた。
「さ、三等護衛官ー!? マジですかーっ!?」
「各部隊の隊長補佐クラスじゃねえかあ! 大将、やったなあ!」
「よくわからないけど、すごいですー!」
「……………………………………………………………………………………わーい! すごい!」
沸き立つ面々をよそに……当のヒースは、困ったような表情を浮かべていた。
「ああ、その……ありがたい話だけど……」
「すごいぞヒース! ここまでの特別昇任は異例なんだぞ! 王国騎士団設立以来の快挙だ!」
「あの……あれだ。そうなったら、俺の小隊はどうなる?」
ヒースがそう聞いた。
ジョヴァンは彼を安心させるように言う。
「まあ……彼らに、お前以外の小隊長を据えるのは無理だろう?」
「無理でーす」
「考えらんねーっす」
ネヴィアとヒマシキがそう答えた。
「だから、『追放者小隊』については解散して再編しよう。それぞれ幹部候補生に上げて、任官後に警騎部隊で……」
ジョヴァンがそうやって色々と説明するのを、ヒースは居心地の悪そうな顔で聞いていた。
◆◆◆◆◆◆
その日の夕方。
王都の料理店で、個室に通された『追放者小隊』の面々が、フルコースの料理で宴会をしている。
両手で手羽先を持ってバキバキと牙を立てているのは、人化の制御がまだ上手くできていないフィオレンツァだ。
「この手羽先、美味しいですー」
「フィオレンツァちゃん!? 手羽先って骨まで食べるものじゃないからね!?」
「食べれますー」
「食べないのー!」
そんな風にツッコミながら、ネヴィアがフィオレンツァに料理の食べ方や食器の使い方を教えてやっている。
ネヴィアは最初の頃からずっとフィオレンツァの教育係で、獣人の彼女に人間としての立ち振る舞いや言葉遣い、常識を教えてやったのだった。
他にもヒマシキが刀の使い方を、キャノンが魔法を教えてやることによって、フィオレンツァは徐々に獣化以外の戦法も使えるようになってきた。亜人はとにかく珍しいので、彼女が将来に余計なトラブルを抱えないように、極力獣人であることを隠すように出来る配慮だった。
「いやあ、この前は凄かったなあ! 大将一人で、レベル80級を三人も相手にしちまうんだからな!」
「俺だけじゃねえ。キャノンもいたよ」
「……………………………………………………………………………………いえーい。攻撃魔法、全部打ち消してやりましたー」
キャノンが嬉しそうにそう言って、ヒースが笑う。
背中を丸めて猫のようにスープを舐めているフィオレンツァに、ネヴィアが頭を抱えていた。
「フィオレンツァちゃん! 食べるときは背筋伸ばそう! スプーン使って!」
「背筋伸ばすんですか? 伸びますよー」
そう言うと、フィオレンツァの胴体がグイッと伸びた。
「うわあ違う! 確かに伸びてるけど! ネコ科かー! なるほどー!」
「ぐはははは」
そんなやり取りを見ながら、ヒースが可笑しそうに笑った。
「しかし、ヒースさん」
ネヴィアが一旦フィオレンツァの教育を諦めて、ヒースの方を向いた。
「昇任の話、どうして断っちゃたんですか?」
「あんな大出世のチャンス、ねえのになー。一気に高級幹部だぜ、大将」
ネヴィアとヒマシキがそう言った。
「出世には興味ねえんだよ。王族護衛官なんて堅苦しいとこに行ってられっか」
ヒースはそう言って、フォークに刺していた海老の和え物を口にした。
「じゃあ、何に興味あるんですか?」
「……………………………………………………………………………………たしかに。隊長の趣味って?」
「あ? 趣味? なんだろうなあ。料理とかか?」
「ヒースさん、炒飯しか作れないじゃん」
「うるせえ。溶かすぞ」
「どういう脅し!? なんのスキル使うの!?」
グハハ、とヒースが笑う。
彼は料理を口に運びながら、四人の面を眺めた。
「まあ。てめえらみてえなじゃじゃ馬ども、俺じゃねえと統率できねえからな」
「かーっ。出た出た。大将の悪い所よ」
「ヒースさんってたまに、臭いこと言いますからねー」
「……………………………………………………………………………………ネヴィア君、あれやって。隊長のモノマネ」
「そうだ! ネヴィア、大将って何が苦手なんだっけ?」
ヒマシキが可笑しそうにそう言うと、ネヴィアは腕を組んで厳めしい表情を作った。
「俺の苦手なこと? うーん……“諦めること”、かな……」
「ウワハハハハ! 傑作だ! 何回見ても面白え!」
「ヒース様、そんなこと言ってたんですかー?」
「………………………………………………………………………………………めっちゃおもろい」
「てめえらぶち殺すぞ! ああ!?」
◆◆◆◆◆◆
パチリ、とヒースは目を覚ました。
暗い部屋の中で、湿った毛布を被っている。
ランプを点けると、仄かな灯りが狭い土蔵のような部屋を照らして、さらに息苦しくなるようだった。
毛布から這い出ると、分厚い眼鏡をかけて、部屋から出て行こうとする。
そんなときに扉が開かれて、朝食を盆に載せたフィオレンツァが現れた。
「おや。起きていらっしゃったんですね」
「フィオレンツァ」
ヒースはベッドに腰掛けながら、彼女の顔を見てその名前を呼んだ。
「朝食を置いておきます。今日は如何なされますか?」
「昔みたいに喋らないのか?」
ヒースがそう聞いた。
「昔みたいに、とは?」
「ほら。昔はもっと、間の抜けた喋り方をしてたろ。子供っぽく語尾を伸ばしてさ」
「……昔の話ですよ。生後間もなかったんですから」
フィオレンツァは困ったようにそう言った。ネコ科であり人間種である獣人の彼女は、成長の速度が獣のそれと一緒だった。数年で一気に成長し、そこからは人間と同じ寿命を、若いままで何十年と生きる。
「ネヴィアをよく困らせてた」
ははっ、とヒースが薄く笑った。
「……悪い夢でも見られたのですか?」
「昔の宴会を思い出したんだ。ネヴィアとヒマシキ、それにキャノンもいた。お前は背筋を伸ばせと言われて、文字通り背中を伸ばして……」
ヒースはそう言いながら、今は常に背筋をピンと伸ばして立つフィオレンツァを眺める。
「……お前がそういう歩き方をするようになったのは、いつ頃からだっけ?」
「よく覚えていませんが、ネヴィアにそう教えてもらいました。言葉遣いも、身の振舞い方も」
「今は過剰なほどよくできてる。ちょっと倫理観が足らん部分はあるが」
「ありがとうございます」
フィオレンツァがそう言って、軽く頭を垂れた。
ヒースはベッドから立ち上がり、傍にかけてあった真新しい礼服を羽織る。
「そろそろ出ないとな。『鍵』を取りに行かなきゃいけない」
「わかりました。『子供たち』を連れて行きますか?」
「そうだな。久しぶりに身体を動かしたい気分だから、戦闘自体は僕がやる。後衛系のスキルを持ってる子を集めてくれ」
「かしこまりました」
「さてと。エステル姫から強奪したスキルを試してみたいな。もっとも、そのまんまでは奪えなかったが」
「どのようなスキルに?」
フィオレンツァがそう聞いた。
「『英雄は斃れず』。まあ、見てみればわかるさ。なかなかだぜ、こいつは」




