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追放者食堂へようこそ! 【書籍第三巻、6/25発売!】  作者: 君川優樹
第3部 追放姫とイツワリの王剣
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第三部 エピローグ 追放姫とイツワリの王剣


 エステルの破壊的スキルによってその右翼を吹き飛ばされた王城は、半壊状態のままで運営されていた。修繕の目処は立っておらず、崩壊した部分にはお抱えの魔法使いたちが急ごしらえで展開した『柔らかい手のひら(パーム)』の魔法で薄っすらとカバーがかけてある。


 その異様な姿はすでに、国民たちの間では噂のタネとなっていた。


 当時の状況をその目で見ていた者は、その光景を何度も仲間に、家族に請われて話すこととなった。破壊された王城の姿を見ようと、広場には連日多くの者が足を運んでいる。訪れた者たちに当時の状況を伝えるために、ずっと立ちんぼで声を張り上げている者もいた。


「それで」


 王城の『王の間』で、エステルは王座に座りながら口を開いた。


「その後はどうなっておる」


 新しい幼王の前で跪き、頭を垂れているのは、王国騎士団のジョヴァン団長だ。


「レオノール殿下の体調は安定し始めました」


 そう言ったジョヴァン団長は、頭を上げないままで続ける。


「話が出来る状況になり次第、彼は『王剣スキルグラム』と『王権』の秘密を知っていた役人と共に集められ、国民への説明のための聴取が行われます。報告が纏められ次第、女王陛下へも説明されることでしょう」

「嘘偽りは許さん」


 エステルはそう言った。

 その手には小ぶりな『王剣』が握られ、鞘先が地面に垂らされている。


「これについては、ありのままで報告するように。誰も処分はせん」

「かしこまりました」

「他に報告することは? ジョヴァン・ホワイツよ」


 エステルがそう聞いた。彼女は、わざわざジョヴァンの姓名を付けてそう呼んだ。


「正式な戴冠式は、一週間後の予定です。王国臣民を集めた、盛大な……」

「それよりも、報告することがあろう」


 エステルにぴしゃりとそう言われて、ジョヴァンはほんの少し、躊躇するような表情を浮かべる。


「“元”一等王族護衛官のヒース……ヒース・ホワイツ騎士官につきましては……」


 ジョヴァンは何かを言いにくそうにしながら、言葉を絞り出す。


「第一級の国賊、最重要の犯罪者として、指名手配しなければならぬ所ではありますが……彼の武官としての多大な功績と、騎士団員並びに近衛兵、それに諸侯達が寄せる絶大な信頼と人気、それに女王陛下の現在の状況も鑑みまして……」


 そこまで言って、ジョヴァンは再び頭を垂れた。


「指名手配ではなく、王国騎士団を“()()()()”とし……以後は王政府と騎士団の内偵部隊が、奴を追う予定であります……」

「ジョヴァンよ」


 頭を垂れて床に視線を送るジョヴァンは、エステルが王座から立ち上がったのがわかった。

 彼女はコツコツと足音を鳴らして、ジョヴァンの下へと歩み寄る。


「その曖昧とも取れる対応は……あのヒースが他ならぬ、お前のただ一人の養子(むすこ)であるという事実に影響されたことではあるまいな?」

「はっ! 決して……!」

「諸状況を鑑み、客観的に合理的に、()()()()()()()()()判断したのだな?」

「その通りでございます……っ!」


 頭を下げながらそう答えたジョヴァン団長は、背中にびっしょりと冷や汗をかいていた。


 女王エステルが発する威圧の雰囲気。圧倒的に大きな存在に迫られる、恐怖にも似た感覚。

 あのレオノールにも、前王にも味わされたことのない怖気だった。もしくは、レベル84というほとんど最上位の実力を誇るジョヴァンを、近づくだけで圧倒することのできる存在は……この世界に、他に居ないだろうと言える。


「それならよい」


 エステルはそう言うと、またコツコツと足音を鳴らし、王座へと戻っていった。


「下がってよいぞ、ジョヴァンよ。王政府の参謀と相談しながら、良きに計らうといい」

「……かしこまりました。失礼いたします、我が王よ」


 ジョヴァンは立ち上がりながら、エステル女王のことを一瞥した。


 赤と黒のサーコートを身に纏った、桃髪の少女。

 大きすぎる王座に座る、大きすぎる存在。

 大いなる空白。


 あれから魔法学校の教授たちがその状態を調べたが、結果は“測定不能”ということだった。現代の解析(サーチ)スキルや魔法の技術では、彼女が現在何レベルにあるのかすらわからない。


 まさに、この国に並び立つ者の存在しない王。

 ジョヴァンにはその姿が、どこか孤独の陰が差しているように見えて仕方ない。


「そうだ」


 ジョヴァンの去り際、エステルは思い出したように口を開いた。


「戴冠式の前に、余はちょっと出かけるからな。騎士団の方からも、少し人を頼むぞ」



 ◆◆◆◆◆◆



 彼女が訪れるのを、町民たちは待ちわびていた。


 街の入り口門に居た誰かがそれに気づくと、彼は街を走り回ってそれを声高に叫び、誰も彼もが家を店を飛び出す。


 彼女が配下を従えてその街に辿り着く頃には、門の前は人だかりで大変なことになっていた。


 彼女――エステルは馬から降りると、彼らに向かって、どこか照れくさそうに笑う。


「えーと。凱旋に参ったぞ、みなの者」

「エステルちゃーん!」

「おかえりー!!」

「おめでとうー!!」


 町民たちが我先にとエステルを揉みくちゃにしようとすると、彼女は指の爪先ほどの威力で『虚実重なる王の逸話(エクスカリバー)』を発動させて、それをみな吹き飛ばす。


「馬鹿者がぁ! 余は女王であるぞ! あまり気安く近寄るでない!」

「えー! 固いこと言うなよぉ!」

「タメ口止さんか! あと、お主ら胴上げするつもりじゃったじゃろ!? そういうムーブじゃったな!? 余、もうそういうことして良い存在じゃないからな!?」

「マジで!? みんなで胴上げしようって決めてたのに!」

「逆にお主ら、胴上げされる国王って聞いたことある!?」


 エステルと町民が言い合っていると、馬車屋の親父が現れた。


「おお、親父殿。脚の調子は?」

「おかげさまで。乗馬できるとは知らなかった」

「余も苦手だったのじゃが、最近乗れるようになったのだ。馬というのは存外、大人しくて利口な生き物である」

「……それ、レベル差がありすぎて、馬が恐怖で服従しているだけでは……?」


 何となく怯えた様子の馬を見て、馬車屋の親父がそう呟いた


 エステルの後ろには、ホバリングしているオリヴィアと、ちょうど馬から降りたヘンリエッタもいた。


「おー!! オリヴィアちゃんじゃねえか! 助けに来てくれてありがとうな!」

「ワア! みなさん! オリヴィア、あんまりお役に立てなかったかもしれマセンー!」

「そんなことない! 大丈夫! メイドが飛んで来てみんなビビってたから! ああいうのはハッタリ大事だから!」


「ヘンリエッタも、立派になったもんだなあ! もう一端の騎士じゃねえか!」

「お久しぶりですー! 私、今回の件でまた階級上がりましたー!」

「あの食堂のニートが……立派になったもんだなあ……」


 入口門を抜けて、みな思い思いに話し込みながら、街の中央通りを歩いていく。

 そこでエステルは、道の前方に、一人の男が立っているのに気付いた。


 それは、ティアの父親だった。


 エステルが彼に向かって真っすぐ歩いて行くと、ティアの父親は何となく戸惑った様子で、その場に跪く。


「久しぶりであるな」


 エステルがそう声をかけた。


「え、エステルちゃん……いや、その、女王陛下……」

「それでよい。調子は如何ほどか?」

「ええ……おかげさまで……」


 ティアの父親は、どう接していいかわからない風に、とにかく畏まってそう答えた。

 それを見て、エステルは微笑む。


「ティアと会うたぞ。あれからな」

「えっ……?」

「ついては、お主を王城に召し仕えなくてはならんのだが……」

「あの、お話が、よくわからず……」


 ティアの父親が戸惑った様子でそう答えた。


「これから、余は王国民の健康をあまねく保護する公的医療制度を立ち上げるつもりじゃ。王国民の力は王国の力であるからな。その健康状態の維持は、王政府が追求すべき第一の課題である」


 エステルはそう言って、ふと遠い目をする。


「まだどういった形になるかは議論が必要だが、お主にはこれに傍聴者(オブザーバー)として参画して欲しい。難病と闘う者たちのパンフレットを作成して配布し、国民の健康意識を高めるのだ。執筆はエントモリという作家が協力してくれる予定であるから、彼女にお主と、ティアの情報を提供するとよい」

「あ……は、はい……」

「協力してくれるか?」


 エステルがそう言って、ティアの父親に手を差し出した。

 彼はその手を取ると、涙ぐみながら答える。


「はい……喜んで……」



 ◆◆◆◆◆◆



「はあーっ。まーじ、やってらんないわぁー」


 王城の通路を歩くポワゾンはそう呟いた。


「なんでわたしが、王政府“公的医療制度研究会”の委員長なわけー?」

「エステルに、いや女王にそれだけ信頼されてるってことでしょ」


 隣で歩くジュエルがそう言った。


「食いっぱぐれなくて良かったじゃん」

「わたしはもっとこうさー。働かずに贅沢したいわけー! こんな毎日論文読んで有識者会議してって生活は望んでないわけー!」

「どんな制度になるのか、大体決まったの?」

「うーん。まずは国民健康調査から医学校の独立開設、将来的には国民皆保険制度の導入じゃない?」

「なんだか、壮大な話だね」

「抜本的には、貧富の差もどうにかしないといけない。経済力と国力の増強に制度改革、とにもかくにも大変なことになるわよ。既得権益との戦いにもなる」

「あはは、ポワゾンは頭良いもんね。なかなかこうスパスパっとはいかないよ。こりゃ適任だ」

「ジュエル、あんたはどうなのさ」


 多忙な生活の中のおかげで、すっかり早足で歩く癖のついたポワゾンがそう聞いた。


「私はとりあえず、『王剣スキルグラム』による王位継承についての会議に参加してるよ。王家お抱えの鍛冶職人としての立場からね」

「なにそれ?」

「エステルは、全てを国民に公表にするつもりなんだ。そうなると、『王剣』による王位継承ってぶっちゃけもうできないじゃん? その辺りをどうしようかって会議さー」

「あんたはあんたで大変そうねー」

「エステルは、自分が最後の“()()”になるかもしれないって言ってるよ」


 ジュエルは頭の後ろに手をやりながら、そう言った。


未来(コレカラ)はどうなるんだろうね」

「少なくとも、大きく変わろうとしてるってことしかわからないわ」

「きっと、良い方にね。そう信じたいな」



 ◆◆◆◆◆◆



 追放者食堂に、エステルは足を踏み入れた。


 最初にここを訪れた時とは違う。

 堂々とした歩みで、彼女はその食堂に現れた。


「いらっしゃい」


 そう言ったのは、カウンターに立つデニスだ。

 その横で、アトリエもサムズアップでエステルを迎えている。

 カウンターの端にはビビアも座っていて、彼女のことを待ち構えていたようだった。


「従業員割引は効くかな?」


 エステルは冗談交じりにそう聞きながら、カウンターに座り込んだ。


「“元”従業員だからなあ。一割引きってとこだ」

「ケチケチしておるのう。それと、もう余は国王であるからな。タメ口は止さんか」

「つってもなー。俺はいっつもこんな感じだしなー」

「今の余、たぶんお主よりも強いからな?」

「なんだとこの野郎。俺だってかなりパワーアップしたんだぜ」

「余が全力出したら、たぶんお主から王都まで跡形もなく吹き飛ぶからな」

「予知しちまえば関係ないね」


 デニスとエステルが笑いながらそう言い合っている横で、水を汲んできたアトリエが、カウンターにコップを置いた。


「何にする?」


 アトリエがそう聞いた。


「カツ丼じゃな」


 エステルが微笑んで、そう答えた。

 それを聞いたデニスは、シャツの袖を捲って笑う。


「よーし! 腕によりをかけて作ってやるぜ! 最近ゲットした未来予知スキルのおかげでなあ! 卵の絶妙な半熟具合に磨きがかかったんだ!」

「ええっ!? あの凶悪スキル、そうやって使ってるのか!? 普段使いで未来予知しないでくれ!」


 カウンターの端に座るビビアがそんなツッコミを入れたのを見て、


 エステルは可笑しそうに笑った。



 ◆◆◆◆◆◆



 …………


 何処かの暗がり。

 何処かの狭い部屋で。


 一人の男が、椅子に座り込んでいた。


「はぁ……ぐぁ……」


 その男は、一人苦しそうな吐息を漏らしている。


 すると、不意に扉が開かれて、光が差し込んだ。


「……ヒース様。お身体の具合は如何ですか?」

「フィオレンツァ」


 その男……ヒースは、彼女を見て微笑むと、すっかり繋がった自分の首を見せた。


「かなり良くなったよ。傷もほとんど回復してる」

「治癒スキルを無茶苦茶に重ねたのですから、しばらくは寝ていないと……」

「眠れなくてね。見てみろよ」


 袖の無い白シャツを着ているヒースは、自分の顔や腕がよく見えるようにした。

 その顔や腕には幾何学的な黒い紋様が刺青(タトゥー)のように走っており、それを縁どるように発光した赤いラインが、暗闇の中でも蛍光色のように仄かな光を発している。


「あのエステル姫から強奪(スナッチ)したスキルが……僕にはちょっと入りきらなかったみたいでさ。体外にまで現れてるんだ。僕に適応するために、『バタフライ・エフェクト』が少しずつ変質してるのがわかる」


 ヒースはそう言うと、脂汗の浮き上がった顔で微笑んだ。


「それが疼くもんで……眠れないんだ。もう少しすれば、きっと落ち着くよ」

「ヒース様……」


 フィオレンツァが何かを言いかけると、その後ろから、女の子がぴょこんと顔を出した。


「ヒース様ー? 炒飯作ったんですけど、食べませーん?」

「こ、こら! ヒース様は、それどころじゃ……!」

「いやいや。食べてみようかな。ちょうど、お腹が空いてたんだ」


 ヒースはそう言って立ち上がると、ふらつきながら廊下に出た。

 さりげなくフィオレンツァの肩を借りると、声をかけてきた女の子の頭を撫でる。


「ミニョン、みんなとは仲良くなれたかい?」

「はい! みんな、良い子ばっかりです! もうみんな友達です!」

「そりゃ良かった。僕も仲良くなれると思ってたよ」

「炒飯、美味しく作れたと思うんですよ! みんなで食べましょう!」

「ははは。そいつは楽しみだな」


 フィオレンツァの肩を借りながら、通路を歩いて行く。


 そこは地下壕のようにも見えた。

 通路の行き当たりに扉があり、そこを開くと、土造りの壁が剥き出しの広い部屋が現れた。


 長椅子が並べられたその部屋には、同じ服を着た、年端もいかぬ子供たちがたくさん座っている。

 彼らのテーブルには炒飯が並べられていたが、一人として手を付けている者はいなかった。


 みな、ヒースのことを待っていたのだ。


 子供たちを見渡すような位置に備え付けられた、奥の席。

 そこに着席すると、ミニョンが彼の目の前に炒飯を置いた。


「どれどれ。ああ、いいぞ、フィオレンツァ。飯を食べるだけだ」


 眼鏡を差し出そうとしたフィオレンツァを制したヒースは、傍に置かれたスプーンを探るように手にする。


「それじゃあ、みんな。いただきます」

「いただきます」


 ヒースに続いて、子供たちは口を揃えてそう言った。


 どこかまごつきながら炒飯を頬張るヒースに、ミニョンが聞く。


「どうですか? 美味しいですか?」

「うん。味覚が無くなっちまったもんでよくわからんが、たぶん美味しいよ」


 それを聞いた子供たちの一人が、何かに気付いた様子で顔を覗かせた。

 彼には足が一本無かった。


「あれ? それ、グリーンピース入ってますよ?」

「なんだと? それじゃあ美味くない。妙な歯ごたえがすると思ったらそれか」

「そんなあ。グリーンピース嫌いなんですかあ?」


 ミニョンがそう言ったのを聞いて、子供たちが笑った。


「ミニョンは新入りだから知らないと思うけど、ヒース様はグリーンピースが嫌いなんだ」

「あとピクルスもね」

「そうだ。みんな、よくわかってるじゃないか」

「意外と舌が子供だからなあ」

「なんだとガキども、ぶっ飛ばすぞ。頭からスキル抜くぞ」


 ヒースがそう言うと、子供たちはみんな笑った。


 そんな食事がひと段落した頃。

 ヒースはスプーンを置くと、フィオレンツァからハンカチを受け取って、口元を拭った。


「みんな」


 ヒースがそう言うと、子供たちは何かを察して静まり返る。


「わかっていると思うが……鍵が揃った。一つは僕の弟が、もう一つは僕が持っている」


 子供たちは膝に手を置いて、彼の話を聞く態勢に入っていた。


「ここに居るのはみな、この世界から()()された者たちばかりだ。ある者は生まれながら。ある者は子を子と思わぬ人でなしの親のせいで。ある者は親を亡くし、ある者は幼い頃からひどく虐げられて、足蹴にされて、この世界から、社会から追放された。僕もそうだった。僕もみんなと同じだった」


 ヒースは口元を拭っていたハンカチを、隣に座るフィオレンツァに渡す。


「誰もが幸せになる権利がある。この世界に生きている全ての人が。僕たちは奪われたものを取り戻す。全人類にとっての『世界の終わり(ハッピーエンド)』に到達する時が来た」

「お母さんにまた会えますか?」


 子供の一人がそう聞いた。


「もちろん」

「死んだ妹にまた会えるかな」

「もちろん」

「また、抱きしめてあげられるかな」

「もちろんだ!」


 ヒースは立ち上がると、その場にいる子供たちを見まわした。

 視力の大部分を失ったせいで、実際にはよく見えなかった。

 しかし、そこにいることを確認するだけでよかった。


「みなは子供とはいえ、それぞれの才能に応じたレベル90クラスのスキルを僕から授けられている。君たちはたった一人で王政府の軍勢を圧倒し、制圧し、攪乱する力を持っている。君たちはまさしく、世界最強の部隊だ」


 子供たちが息を呑んだ。

 ヒースは両手を広げると、彼らに伝える。


「みんなで幸せになろうな。『世界の終わり(ハッピーエンド)』はもうすぐだ」



 ◆◆◆◆◆◆



 半壊したままの王城前に、広場から溢れんばかりの国民が集まっていた。


 新しい国王たるエステルの武勇が、国民の噂の種として過熱していった先に、正式に開かれた戴冠式。


 少数の仲間と共に立ち上がり、粛清の嵐と偽りの王権を打倒したという真の女王の姿を見るために、国民は興奮しきった様子で声を張り上げている。


「エステル姫ー!」

「追放姫ー!」

「食堂王ー!」

「皿洗い姫!」

「最強スキル見せてー!」


 そんな声が、王城の最上部にまで轟いている。

 お立ち台の後ろに控えていたエステルは、それを聞いて眉をひそめた。


「な……なんか、思ってた反応と違うのだが……」

「まあまあ……国民も、興奮していることですし……」

「たしかに食堂で働いてたけど。皿洗いもしてたけど? もしかして、余の愛称ってそういう感じ? これからずっとそんな感じ?」

「女王陛下の、人気の現れということで……」


 王冠を脇に抱えたジョヴァン団長が、エステルにそう言った。

 エステルはお立ち台へと進みながら、ぶつくさと何かを呟いている。


「余って、歴代の王でもぶっちぎりで最強なんだけどなあ……というか多分、『バタフライ・エフェクト』無くても世界最強に近いと思うんじゃけどなあ……最強系の国王なんじゃけどなあ……」


 お立ち台から小さなエステルの姿が覗くと、国民はさらに沸き立った。


「おおー! 追放姫ー!」

「かわいいー!」

「結婚してくれー!」


 それを聞いて、エステルは額にピクピクと青筋を立てる。


「じょ、ジョヴァン! あれは流石に不敬であるぞ! どうにかせんか!」

「まあまあ! まあまあ……!」

「大丈夫か!? 余の威厳は大丈夫か!?」


 お立ち台に立ったエステルに、ジョヴァンが王冠を被せた。

 その瞬間、張り裂けんばかりの声援が王都に響く。


 エステルはその声を一心に受けながら、なんだか納得がいかない顔を浮かべて、仕方なしに王剣を頭上に掲げる。


 さらに大きな声と拍手が王都に鳴り響いた。



 初代王以来、王国に初めて真の王が即位したその式典は、


 王国の歴史上、最も無礼講の激しい戴冠式であったことは、あまり知られていない。



エステル「第三部、完結!」

ティア「みなさま、お疲れ様でしたー!」



作者あとがき


ということで、第三部も何とか走り切りました。

ここまで着いて来ていただいた読者の皆様、本当にありがとうございます。お疲れ様でした。


ええと、どうしてこのような物語になったのかなど、色々とお話したいことはあるのですが、

詳しくは、活動報告版のあとがきに書きたいと思います。(今夜中に更新します)


第三部を書いている最中で最も大きな出来事だったのは、やはり、

書籍化の報告を、読者の皆様にできたことです。


これにつきましては、以前にも語らせて頂きました通り、

これまで読んでくれた、応援してくださった読者の皆様のおかげです。

本当に、ありがとうございます。それしか言葉が見つかりません。


キャラクターデザインや追加章の内容など、これから色々と公開していくつもりです。


さて。次回の第四部ですが、これまでの総決算となります。


次部のちょっとした予告を挟んで、あとがきを終わりにしたいと思います。


過去(イママデ)未来(コレカラ)が、激突する


『追放者食堂へようこそ!』

「第四部 追放騎士と世界のオワリ(仮題)」


少しでも、

面白かったな

読んで良かったな

続きが読みたいな


と思ってくださいましたら、


下の評価ボタンから評価して頂けると、作者としては、本当に励みになります……!

何卒、よろしくお願い申し上げます……!

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