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追放者食堂へようこそ! 【書籍第三巻、6/25発売!】  作者: 君川優樹
第3部 追放姫とイツワリの王剣
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33話 追放姫とイツワリの王権 その4



「えーっと……どこだここ、王城……? でも、誰もいないし……」


 ビビアが一人、王城の通路で迷子になっていると、


 通路の奥から、階段を降りて来たらしき二人組の姿が見えた。


「ど、どうなってるんですかー!? えっ!? 大将が!? ヒースさんと!? 兄弟―!?」

「騎士さん! 一度通路を挟んで、別の階段から降りよう! 待ち伏せされているかも!」


 それを見つけたビビアが、彼女らに向かって叫ぶ。


「あれ!? ジュエルちゃんにヘンリエッタさん!? 何してるんですかー!?」

「はえ!? ビビアくん!?」

「あら!? 食堂の美少年!? 何やってんのさ、こんなとこで!?」

「いや僕が聞きたいんですけど! 何してるんですか!?」


 ビビアが駆けて行き、ジュエルとヘンリエッタに通路の真ん中で落ち合う。


 ジュエルは手に持っていた黄金の剣をビビアに見せた。


「これ! 本物の王剣スキルグラム! エステルに届けないといけないの!」

「ひえええっ!? 何やってんの!? なんでお弁当届けるみたいなノリで国宝(レガリア)盗んでるの!? 盗賊としてのスケールが急に上がりすぎでは!?」

「ビビアくん! ツッコミとしての血が騒ぐのはわかるけど、落ち着いて! 説明は後でね!」



 ◆◆◆◆◆◆



「とまあここまでが! 前王暗殺計画の全容なわけねえ!」

「おぐぁ!」


 ポワゾンが叫び、証人のハンサム男の背中にハイヒールの踵を押し付けた。


 前王の病死に見せかけた毒殺、毒の入手ルートと指示系統、その実行者。

 男の知り得る範囲の情報が暴露された広場では、群衆が口々に何事かを言い合っている。


「今の、本当なのか? だとしたら……」

「いやしかし、ただの証言にすぎないし……」

「でも、本当だとしたら……」


「くだらん!」


 金神輿の頂点から、レオノールが一喝した。


「何事かと思えば! 王政府のしがない外交官を捕まえて拷問し! 言いなりにしたうえで証拠も何もない滑稽な作り話を延々と聞かされるとは! ポワゾンよ! 貴様はもう少し頭の良い、狡猾な女だと思っていたがなあ!?」

「なにをレオノール! 私の話はまだまだこれからよ! お前のアブノーマルな性癖を一つずつ暴露してやるわ!」

「誰かマジであいつ捕まえろ!」


 レオノールが金輿の上で焦っていると、

 ポワゾンはエステルに顔を寄せて、ひそひそ声で問いかける。


「本物の王剣はまだなわけ!? 次はあんたのターンでしょ!」

「よ、余にどうもできるわけないじゃろ!」

「こういうのは勢いが大事なのよ! どうにかしなさい! じゃないとマジで性癖暴露を始めるしかなくなるじゃない!」

「ハッ! ここはこのオリヴィアが何とかシナクテハ! ミナサン! 本物の王剣が届くマデ、少々お待ちクダサイ!」

「この馬鹿メイド! 余計なことを言うんじゃない!」


 急に取っ組み合い始めた三人の様子を見て、

 レオノールはニヤリと笑う。


「おっとお、どうしたのかな? そういえば、王剣が偽物だとか何とか言っていたはずだが?」


 レオノールはそう言って、腰の黄金の剣を抜いた。


 鞘から引き抜かれた王剣は、レオノールの手の中で眩い七色の光を放ち、その威容を見せつける。


「国王たる何よりの証明であるこの剣が! 神聖なる輝きが! 偽物であると!? 何たる不敬! 何たる狂言! 早くその証拠とやらを持ってきたらどうだ!?」


 背の高い神輿の頂点で王剣を輝かせるレオノールは、そう言って高らかに笑った。


「ぐ、ぐぅ……っ!」


 それを見て、エステルは歯ぎしりする。


 その直後、


「はえ?」


 エステルは、レオノールの後方から飛来する何かを見つけた。


 反論できない様子のエステルに、レオノールがさらに追い打ちをかけようとする。


「ははは! ぐうの音も出まい! この不敬なる狂言吐きどもめ! 貴様らは、あの国賊どもと一緒に処刑――」

「うおー! どけて! 避けてー! ひええーっ!」

「うわー! お願いします! 避けてください! うわーっ!」

「あっ?」


 背後から悲鳴が聞こえて来て、レオノールは振り返る。


 そこには、


 魔力の薄い膜を落下傘(パラシュート)のように広げて、自分めがけて飛来する少年の姿。


 その少年の腰に脚を巻き付け、膜の後ろ側を握って進路を制御しようとしている少女。


 その少女の背中に抱き着く、黄金の剣を握った若い女性騎士。


 三人で絡み合って塊となって飛来する、『柔らかい手のひら(パーム)』の急ごしらえ落下傘部隊。


「――は? ごはぁっ!?」


 伸ばされていたヘンリエッタの足甲がレオノールの顔面にヒットしながら、魔法の落下傘三人組が広場に降り立つ。


 その着陸に巻き込まれたレオノールは金輿の上で倒れ、国王たる証明の王剣を手からこぼして落した。


 エステルたちの傍に着陸しながら、ビビアが引きつった悲鳴をあげる。


「うわあ! 王様が! 国王を蹴りつけちゃった! なにやってるんですかヘンリエッタさん!」

「だってえ! 進路に! 急に国王が来たから!」

「とんでもない不敬罪だあ! 死刑確定だあ! やっぱり王城の窓から飛んでくるんじゃなかったあ!」


 ヘンリエッタが泣き顔で慌てふためき、ビビアが頭を抱えている。


 そんな混乱の中でジュエルは、

 黄金の剣――王剣スキルグラムを差し出した。


「持ってきたよ、お姫様」

「ありがとう……ジュエル!」


 エステルは微笑むと、


 その小さな手で、王剣のグリップを握った。



 ◆◆◆◆◆◆



「不思議に思ったことはないのか?」


 王城の最上階付近。

 その通路。


 ヒースがとつぜん踏み込み、デニスはその攻撃に反応しようとする。

 先ほどの即死級スキルか、それとも――


 デニスがそれを見極めようと全神経を集中させている隙に、


 繰り出されたのは、踏み込んだ左足からの高速の左ジャブ。


「ヅゥッ!」


 構えた拳のガードをすり抜け、ヒースの左拳がデニスの鼻頭を砕く。


 利き手ではない牽制のジャブとはいえ、レベル最上位者の拳。

 デニスは背後に再度ステップを踏みながら、折れた鼻と垂れ流れる血に顔をしかめた。


「なぜお前の周囲にだけ、あれほど追放者たちが集まるのか? どうしてあの町民たちは、あれほど勇敢なのか?」


 一撃を喰らわしたヒースは、滑るようなバックステップでデニスと距離を取る。


「お前は特別な人間なのか? それとも、あの町が特殊なのか?」


 ヒースは軽薄な微笑みを顔面に張り付けながら、鼻血を垂れ流すデニスに問いかけた。


「知るか……どっかこっかを追い出された連中が、勝手に集まって来るんだよ。呼んじゃいねえんだけどなあ」

「いいや、呼んでいるのさ」

「それと、うちの街は変人揃いでね。頼んでねえのに、毎度助けてくれるのさ。ありがてえことだな」

「それも思い違いだ」


 ヒースは両手をだらりと垂らすと、デニスに微笑みかける。


「なぜお前はあの町を選んだ? 数ある田舎町から、どうしてあの町を選んだ?」

「知らねえよ……たまたま足が伸びて、雰囲気が良かったからだ」

「それも違う」


 ヒースはニッコリと微笑む。


「お前は呼ばれたのだよ。お前はあの町で誰に会った? お前が一番最初に出会った追放者は誰だ?」

「それは……」


 デニスは拳を構えたまま、ふと思考を巡らせる。


 店の開店準備をしてる途中、

 あの町を訪れてすぐ、

 町の広場で……


「アトリエ……?」

「そうだ」


 完全にお互いの射程圏外の、ヒースとデニス。


『反射神経SSS+』


 突然、デニスの新規取得スキルが勝手に発動する。


「――――?」


 デニスは不意に嫌な予感を感じ取り、背後にバック宙で飛び退いた。

 次の瞬間、デニスが一瞬前まで立っていた場所が、無数の氷柱で突き刺される。


 出現した氷柱を破壊しながら距離を詰めるヒースが、可笑しそうに笑った。


「今のもよく避けたな! 大したものだ! 反応速度が上がってるんじゃないのか!?」

「くそっ! 話の途中じゃねえのか!」

「たしかに途中だったな。そうだ、アトリエだ! アトリエ・ワークスタット! あの少女!」


 ヒースは笑いながら、今度は身体の輪郭を曖昧にさせていく。


 ロストチャイルの霧状化スキル……!


「あの少女なのだ! すべての根源! すべての爆心地! アトリエ! アトリエ・ワークスタット! お前が中心ではない! あのアトリエが中心だ! すべての追放者は、あの痩せっぽちで無口な、銀髪の少女に誘われている!」


 叫ぶような嗤い声と共に、紫色の霧状と化したヒースが襲い掛かる。


 その瞬間、再度デニスの新規取得スキルが自動発動した。


 『反射神経SSS+』


 ガキンッ、と鋼鉄同士が衝突するような音が響く。


 霧の中から伸びたヒースの拳と、デニスの防御(ブロッキング)

 お互いの強化(バフ)スキルが衝突した音だった。


「弟よ。お前が中心だと思っていたか?」

「人を、自意識過剰みたいに言わないで欲しいね……」


 拳を交差させた二人が、零距離で言葉を交わす。


「お前は、()()()()()()()()()()()()()()()にすぎない。中心はあくまであの娘だ」


 ヒースはゆっくりと実体化しながら、交差させた前腕でデニスを押し込んだ。

 剣士の鍔迫り合いのような力比べ。


 純粋なフィジカルならば互角……。


「相手の理解を無視して好き勝手に話すのが、王都の流行なのか?」

「脳筋のお前でも理解しやすいように話しているつもりだぞ。お前の町は元々、奴隷商が跋扈し、『夜の霧団』なる犯罪者パーティーが幅を利かせているようなろくでもない場所だった。しかしお前が食堂を開いてから、治安は急激に良くなった。住民の意識までも変わったんだ」

「みんなで頑張ったんだ」

「なぜ頑張れたと思う?」


 ギリッと腕がねじ込まれる。


 押圧が強くなり、デニスはジワジワと押し込まれ始めた。


「あのアトリエなる少女が、そうであって欲しいと望んだからだ。ワークスタット家の精神感応(テレパス)の特殊血統……あの子の父親ファマスは、最強の催眠魔法の使い手とまで言われた魔法使いだったが……あの小娘はその才能を受け継いでいる。しかも、歴代のどの当主も比肩しえないほど、強力な形で」


 ヒースはニヤリと微笑んだ。


「人の無意識に干渉する強化(バフ)スキルだよ。あの子が寂しかったから、自分と同じ境遇の追放者たちが無意識の内に集められた。みんな仲良くして欲しいから、町民たちは無意識のレベルから変化した。あの子がお前のことを好いているから、みんなお前の味方をしてくれる」

「…………」

「彼女の無自覚のスキルはどんどん強くなっている。古代の魔法人形(オートマタ)から、王国のお姫様。より大きな運命を巻き込むようになっている。彼女がこの世界を救う鍵の一つだ。そしてもう一つの鍵は、今まさに! あの広場で発現しようとしている……!」



ビビア「『追放者食堂へようこそ!1~最強パーティーを追放された料理人(Lv.99)は、田舎で念願の冒険者食堂を開きます!~』は、オーバーラップノベルス様より6月発売! イラストはがおう様です!」


デニス「神絵師じゃねえか! どうしてそんな人が!?」

ビビア「きっと作者が、前世で相当な徳を積んだに違いありません!」


アトリエ「オーバーラップ公式サイトの広報室から確認できる」



おまけ


魔法『柔らかい手のひら(パーム)


推奨レベル10台前半

ビビアの十八番。魔力の薄い膜を展開するだけの基本中の基本の魔法で攻撃力は皆無だが、それ故に日常使いの汎用性が高い。

上手く使えば即興の拡声器や落下傘、ジャンプ台として応用可能。にわか雨に降られた時の傘にも。

ライフハックが捗る魔法の一つ。

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