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追放者食堂へようこそ! 【書籍第三巻、6/25発売!】  作者: 君川優樹
第3部 追放姫とイツワリの王剣
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13話 小さな追放者は その2


 ■■■■■■

 


 むかしむかし。

 まだ王国が存在する前のこと。


 ユングフレイとイニスという二人の少年は、成長して青年となっていました。

 

 二人はユングフレイが発見した『スキル』という力を鍛え上げ、またそれをみんなに教えることによって、多くの仲間を集めるようになっていました。

 

 二人の若者はたくさんの部族を束ねる長となり、両雄並び立つようになりました。

 

 ユングフレイは相変わらず腕力こそ弱い青年でしたが、その優しい心と誰にも負けない『スキル』の技術によって、多くの部族から信頼されていました。


 イニスはぶっきらぼうで粗暴な性格ながらも、その人を惹き付ける魅力と誰にも負けない腕力によって、多くの部族から頼られていました。


 ユングフレイとイニスは互いの足りない部分を補い合い、二人で一緒に平和な世界を作ろうとしていました。


 二人の友情は、ずっと続くものかと思われました。



 ■■■■■■

 


「お昼の営業は終わりじゃな! よし! 皿洗いもおーわり!」


 エステルはすっかり良くなった手際で洗い物を片付けてしまうと、エプロンを脱いでテーブルに放った。

 そのまま掃き掃除をしているアトリエに近づくと、その正面に立ちふさがる。


「アトリエ殿! 一緒にティアの家に行こうではないか! のう!」

「今日はお掃除の日。また今度」

「えー! 掃除なんて後でいいではないかあ!」


 エステルがアトリエにすがりつくと、カウンターからデニスが怒号を飛ばす。


「エステルてめえ! エプロンをその辺に放り投げるんじゃねえ!」

「大丈夫! デラニーかエピゾンドか、召使が片付けてくれるから!」

「ここにはいねえんだよ!」

「そうじゃったなあ!」


 エステルはエプロンを綺麗に畳んでテーブルの上に置くと、急いだ様子で入口の扉を開いてくるりと回り、デニスにウィンクした。


「ではな! ちょっと余は夕方まで遊ん……いや食堂の大事な顧客と、商談に参ってくるわ!」

「出前に商談もクソもあるか。聞きかじっただけの言葉を使うな!」

「よいではないかよいではないかー! ではではー!」


 エステルはそう言って、食堂から出かけて行った。


 エステルが風のように去った後で、デニスは箒がけをしているアトリエの方を見やる。


「別に、お前も遊びに行ったって良かったんだぞ」

「彼女が行くなら、アトリエは行かなくていい」


 アトリエはサッサと箒をかけながら、うつむき気味にそう答えた。


「つらいから」



 ◆◆◆◆◆◆



 エステルはティアの部屋を訪れると、抱えていた大きな紙袋から、分厚い本を何冊も取り出した。

 それを見て、ティアは髪と同じ色をした緑色の目を丸くする。


「どうしたの? これ」

「これか!? 聞いて驚くな! 余の海より広い人脈を用いて、お主に面白い本をたくさん持って来てあげたのだ!」


 エステルはベッドのサイドテーブルに持って来れるだけ持ってきた本を積み上げると、えっへんとした調子で薄い胸を張る。


「うわあ、すごい。こんなにたくさん、どうやって?」

「ふふん。お店の常連であるビビア殿が、快く貸してくれたのだ! というかあげるって言っておったぞ! ビビア殿の家には、本が山ほどあるのでなあ!」

「あげるって、本当に貰っていいの?」

「うむ。なんだか同じ本がたくさんあったぞ。ビビア殿は、この本の作者と仲がよいらしくてな。サイン本がめっちゃ送られてくるらしいのだ」


 エステルはそう言って、サイドテーブルに置いた『奇械王』シリーズの一冊や、エントモリの新作である『火葬から蘇ったら普通にスケルトンだった件』、『ありきたりな無職が王国最強』などをペラペラとめくってみる。


「すごーい……ありがとうね、エステルちゃん」

「よいのじゃよいのじゃあ! これでしばらくは、退屈せずに済むじゃろう!」

「最近はエステルちゃんが来てくれるから、ぜんぜん退屈じゃないよ」

「そんなこと言っても、一日中ベッドじゃあ気が滅入っちゃうじゃろ。余だったら、一日だってじっとしてられんわ。外でぶっ倒れてるかもしれん」

「あはは、そうかもね」


 ティアが笑ってそう返すと、エステルはポンと手を叩いた。


「そうじゃ。たまには外で遊ぼうではないか!」

「私、いつ倒れるかわからないから駄目だよ。よっぽど調子が良くないと、歩いてられないんだ」

「車椅子とかあるじゃろ。持っていないのか?」

「そんな高価な物、ウチじゃ買えないもん」


 ティアがそう言うと、エステルは高笑いする。


「ふーはっは! どれ、余に任せておくとよい! 王国臣民の最低限文化的な生活を保障するのは、余の務めである!」



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