13話 小さな追放者は その2
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むかしむかし。
まだ王国が存在する前のこと。
ユングフレイとイニスという二人の少年は、成長して青年となっていました。
二人はユングフレイが発見した『スキル』という力を鍛え上げ、またそれをみんなに教えることによって、多くの仲間を集めるようになっていました。
二人の若者はたくさんの部族を束ねる長となり、両雄並び立つようになりました。
ユングフレイは相変わらず腕力こそ弱い青年でしたが、その優しい心と誰にも負けない『スキル』の技術によって、多くの部族から信頼されていました。
イニスはぶっきらぼうで粗暴な性格ながらも、その人を惹き付ける魅力と誰にも負けない腕力によって、多くの部族から頼られていました。
ユングフレイとイニスは互いの足りない部分を補い合い、二人で一緒に平和な世界を作ろうとしていました。
二人の友情は、ずっと続くものかと思われました。
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「お昼の営業は終わりじゃな! よし! 皿洗いもおーわり!」
エステルはすっかり良くなった手際で洗い物を片付けてしまうと、エプロンを脱いでテーブルに放った。
そのまま掃き掃除をしているアトリエに近づくと、その正面に立ちふさがる。
「アトリエ殿! 一緒にティアの家に行こうではないか! のう!」
「今日はお掃除の日。また今度」
「えー! 掃除なんて後でいいではないかあ!」
エステルがアトリエにすがりつくと、カウンターからデニスが怒号を飛ばす。
「エステルてめえ! エプロンをその辺に放り投げるんじゃねえ!」
「大丈夫! デラニーかエピゾンドか、召使が片付けてくれるから!」
「ここにはいねえんだよ!」
「そうじゃったなあ!」
エステルはエプロンを綺麗に畳んでテーブルの上に置くと、急いだ様子で入口の扉を開いてくるりと回り、デニスにウィンクした。
「ではな! ちょっと余は夕方まで遊ん……いや食堂の大事な顧客と、商談に参ってくるわ!」
「出前に商談もクソもあるか。聞きかじっただけの言葉を使うな!」
「よいではないかよいではないかー! ではではー!」
エステルはそう言って、食堂から出かけて行った。
エステルが風のように去った後で、デニスは箒がけをしているアトリエの方を見やる。
「別に、お前も遊びに行ったって良かったんだぞ」
「彼女が行くなら、アトリエは行かなくていい」
アトリエはサッサと箒をかけながら、うつむき気味にそう答えた。
「つらいから」
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エステルはティアの部屋を訪れると、抱えていた大きな紙袋から、分厚い本を何冊も取り出した。
それを見て、ティアは髪と同じ色をした緑色の目を丸くする。
「どうしたの? これ」
「これか!? 聞いて驚くな! 余の海より広い人脈を用いて、お主に面白い本をたくさん持って来てあげたのだ!」
エステルはベッドのサイドテーブルに持って来れるだけ持ってきた本を積み上げると、えっへんとした調子で薄い胸を張る。
「うわあ、すごい。こんなにたくさん、どうやって?」
「ふふん。お店の常連であるビビア殿が、快く貸してくれたのだ! というかあげるって言っておったぞ! ビビア殿の家には、本が山ほどあるのでなあ!」
「あげるって、本当に貰っていいの?」
「うむ。なんだか同じ本がたくさんあったぞ。ビビア殿は、この本の作者と仲がよいらしくてな。サイン本がめっちゃ送られてくるらしいのだ」
エステルはそう言って、サイドテーブルに置いた『奇械王』シリーズの一冊や、エントモリの新作である『火葬から蘇ったら普通にスケルトンだった件』、『ありきたりな無職が王国最強』などをペラペラとめくってみる。
「すごーい……ありがとうね、エステルちゃん」
「よいのじゃよいのじゃあ! これでしばらくは、退屈せずに済むじゃろう!」
「最近はエステルちゃんが来てくれるから、ぜんぜん退屈じゃないよ」
「そんなこと言っても、一日中ベッドじゃあ気が滅入っちゃうじゃろ。余だったら、一日だってじっとしてられんわ。外でぶっ倒れてるかもしれん」
「あはは、そうかもね」
ティアが笑ってそう返すと、エステルはポンと手を叩いた。
「そうじゃ。たまには外で遊ぼうではないか!」
「私、いつ倒れるかわからないから駄目だよ。よっぽど調子が良くないと、歩いてられないんだ」
「車椅子とかあるじゃろ。持っていないのか?」
「そんな高価な物、ウチじゃ買えないもん」
ティアがそう言うと、エステルは高笑いする。
「ふーはっは! どれ、余に任せておくとよい! 王国臣民の最低限文化的な生活を保障するのは、余の務めである!」




