23話 仲直りは最終決戦の前に (後編)
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とても、とても昔のこと。
遠い昔のこと。
王都のとある宝石屋で、ユヅトとナチュラという二人の少年と少女が、宝飾品を眺めながら、お互いに何事かと言い合っていました。
「私が選ぶより、ユヅトが選んだ方が良いんじゃないかい? その方が、オリヴィアちゃんだって喜ぶと思うな」
「そう言わずに、一緒に選んでくれよ! ほら、この指輪なんてどうだ! ぼくの髪の色と同じだ! オリヴィアの奴、喜ぶぞ!」
「ナルシストの自信家も、ここまで来ると一級品かな。というか、オリヴィアちゃんの指のサイズわかるの?」
「そりゃあ、この圧倒的天才的なぼくが作ったんだからな! スリーサイズから何から全て頭に入ってるぞ!」
「凄いのか気持ち悪いのかわかんないかな……」
ナチュラがそう言って肩をすくめると、ユヅトが聞く。
「そういえば、あのデカい神狼は連れてこなかったのか?」
「ポチを王都に連れてくるわけないじゃん。嫌がるし。都の人もおっかながるし。また、変な奴らが現れたら困るし……。ユヅトだって、オリヴィアちゃんのこと言ってないんでしょ?」
「まあね……」
ユヅトは複雑そうな顔をすると、自分の不思議な髪と同じ色の宝石をあしらった指輪を眺めた。
「ナチュラさ、死んだ後にあの神狼をどうするか決めてるの?」
「まだ早いよ」
「寿命が違うだろ。今のうちに考えておいた方がいいよ」
「君はどうなの?」
「ぼくかい?」
ユヅトはその指輪を買うことに決めると、ナチュラに言った。
「ぼくは決めてるんだ。ぼくが死んだら、オリヴィアは……」
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街が臨戦態勢に入ってから、数日。
突発的な事態に備えて、女性や子供たちを避難させる場所の候補とそれぞれの経路や、後衛、警戒、避難誘導、連絡等の役割分担を打ち合わせて、実際に臨戦態勢となっているわけであるが……
町民たちの間では、「結局襲撃など無いのでは?」という雰囲気が漂っていた。
そもそも現実味の無い話だ。
彼らのほとんどは、最初から山賊紛いのいくらかの悪漢たちを相手取るような気分でいた。
そういった気分が、彼らの軽いスリルを煽っていたことは間違いない。
もちろんそれは、自分たちはあくまでデニスやケイティといった本物の戦闘屋の後衛に立つのだ、という安心感に支えられたものだったのだが。
だから街の人たちは、本心では、義憤のために立つという正義感と、高揚した連帯感を楽しんでさえいた。
危機が迫っているというよりは、何か手の込んだ催しを街を上げて進行させているような、たまの街の絆を確かめ合うための機会のような、そんなやや緊張感に乏しい空気が漂っている。
「おやおや、アトリエちゃん。前にちらっと会って以来だねえ」
「デニス様のお母さま。どうもよろしくお願いします」
「いえいえこちらこそ。ウチのバカ息子もどきがお世話になってねえ。どうぞよろしくね」
追放者食堂ではそんな風に、ジーン料理長とアトリエがカウンターでじゃれていた。
「店は大丈夫なのか?」
デニスが、ジーンに対してそう聞いた。
「お店なら、留守の間はガニエールに任せてるから大丈夫さ」
ジーンは、膝にアトリエを乗せながらそう言った。
「ガニエールといえば、あの小太りで変なヒゲのちっさいベテランのおっさんか。俺が小せえ頃からいるからな」
「そう。あの小太りで変なヒゲのガニエール。今は彼を、料理長代行に据えてるから」
「そういえば、どうしてガニエールが副料理長じゃないんだ? 俺の代だって、別にガニエールでよかっただろ」
「別に、副料理長は実力だけで決めるもんじゃないからね。エースの育成枠みたいなものさ」
ジーン料理長はそう言うと、膝に座るアトリエの銀色の髪を撫でた。
「それにガニエールは昔から、表に立つよりも縁の下の力持ちでいたいタイプだから。彼が居てくれないと、私は店が心配でどこにも行けやしないけどね」
『閉店』の札を掲げた追放者レストランの広いホールには、ヘズモッチが一人で座っていた。
ヘズモッチは静かな店内で、自分の店のはずだった場所を眺めていた。
ほんの数日前まで、さばき切れないほどの客で賑わっていた自分の店だ。
その静寂が身体に深く突き刺さって、動けないようにも感じた。
「……店長?」
背後からそう声をかけられて、ヘズモッチはビクリとした。
「そんなにビックリなさらなくても」
追放者レストランの経理を担当していた従業員が、そう言ってヘズモッチに微笑んだ。
「……どうされましたか? うちはもう廃業です。退職金であれば、いくらか渡したはずです。十分とはいえないでしょうが……」
「そうではありませんよ……王都に帰られないんですか?」
「まだ帰れません」
ヘズモッチはそう言った。
「元はと言えば、私が撒いた種です。もしもロストチャイルの言った通りになるならば、私は命を懸けて戦う所存です」
ヘズモッチがそう言ったのを見て、従業員は同じテーブルの椅子に座った。
「あの、店長」
「なんでしょう」
「私は店長のことを好いていますし、店長の良いところをたくさん知ってます。真面目なところとか、大事な所で詰めが甘いところとか」
「馬鹿にしているのですか?」
ヘズモッチがそう聞くと、従業員は優しく微笑んだ。
「でも、店長の悪いところは、なんでもいっぺんに取り返してやろうとするところですよ」
「いっぺんに?」
ヘズモッチがそう聞くと、従業員が頷く。
「たぶん、何でも帳尻が合うわけではありません。何でも、すぐに挽回できるわけではありません」
「…………」
「そういうのは、きっと、少しずつ返していくことなんですよ。ちょっとずつ……いっぺんにじゃなくて、その……」
従業員は真剣な眼差しで、しかし迷いながら、そう言った。
ヘズモッチは一度自分の手元に視線を落とすと、従業員のことを、すっと見つめ返した。
「偉そうなことをいうものですね」
「すいません……」
「……でも、忠告は聞いておきましょう。あなたの忠告をきちんと聞いていれば、こうはならなかったかもしれないんですからね」
ヘズモッチはどこかを見つめながら、何かを言いづらそうにして、口を開いた。
「いつか、もう一度お店を出すことがあれば、また頼みます」
ヘズモッチがそう言うと、従業員はパッと花が咲くように、笑顔を浮かべた。
「ええ、ぜひ」
追放者食堂では、意気揚々とした雰囲気の町民たちが集まって、役割分担について話し合っている。
「ククク……俺たちは、深夜警戒の担当っすね……ククク……」
「フフフ……大役……初期防衛に関わる大役……っ!」
グリーンとその舎弟が話している横で、ツインテールとポニーテールがビビアとテーブルを囲んでいた。
「私は後衛担当―!」
「私もー! ビビアくんはー?」
「僕は……どちらかといえば避難する側なので。あはは……でも、エントモリさんやセスタピッチさんとは連絡を取り合っているので、その方面で何かできないかなあと……」
その様子を眺めていたデニスが、カウンターでハンバーグ定食を食べているケイティに話しかけた。
「このまま、何も無ければいいんだけどな」
「あんたまで能天気なことね。前線から離れて久しいもんで、勘が鈍った?」
「俺は、そうなればいいのになって言っただけだ」
「あたしは死人が出ると思ってるわよ。まず間違いなくね」
ケイティはそう言って、ハンバーグのひとかけらを口に運んだ。
デニスは何も言い返さなかった。
ケイティは口に含んだ分を咀嚼して飲み下すと、流し目で外の方を見る。
「ま、仕方ないことよね」
「そうは、させねえ」
「いくら気合入れたって、そんなものよ」
ケイティとデニスは、しばし見つめ合った。
店には、常連たちの陽気な声が響いている。
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とても、とても昔のこと。
遠い昔のこと。
夕方の赤い陽が落ちかけて、都の街並みに、ちょうど夜の暗い色が足されようとしていたころ。
小さな紙袋を手にしたユヅトという少年が、自分の家の玄関を、コソコソとしながら静かに開けました。
蒼い水晶のような髪をした少年は、忍び歩きで居間に入ると、居間のテーブルに座っている、ショートに切りそろえられた金髪のメイドを見つけました。
メイドは隠れるようにして帰ってきた少年を見つけると、飛び上がるように立ち上がって、少年の下に駆け寄りました。
「ユヅト様! この不肖オリヴィア、ご主人サマの大事な研究を台無しにしてしまって……」
「い、いや、オリヴィア。まあいいんだよ。うん。いや、もう気にしてないよ」
「本当デスカ! オリヴィアは、まだユヅト様にお仕えしていてよろしいデスカ!」
「う、うん。別に。いいけど」
「安心シマシタ……このオリヴィア、この破壊的な罪をどう償えばよろしいモノカ必死で演算して、今日はユヅト様の大好きな炒飯を山盛りで作ってありマス!」
「オリヴィアの炒飯は一向に上手くならないからなあ……」
「どうデショウカ! このオリヴィア、贖罪のために自死か炒飯かで思い悩みまして、結果として炒飯という結論に至りマシタ!」
「自死の次が炒飯だったの!? 大丈夫!?」
ユヅトは自分の創造物の突飛な思考回路に頭を抱えると、手にしていた紙袋をオリヴィアに差し出しました。
「? コレハ?」
「いや、なんというか……ぼくも言い過ぎたよ。ごめん」
オリヴィアが紙袋から小さな箱を取り出すと、その中に納められた、蒼い水晶をあしらった指輪を見つけます。
「オヤ! とても綺麗! なんという宝石デショウカ、まるでユヅト様の髪色のヨウ! とても綺麗デス!」
「は、ふははは! 嬉しいだろう! これで許せ! オリヴィア!」
「ありがとうゴザイマス! とっても嬉シイ! オリヴィアはとっても嬉シイ!」
「ぐわーっ! 抱きつくな、オリヴィア! お前は出力が高いんだから!」
「一生お仕えいたしマス! オリヴィアを、ズットお願いいたしマス!」
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そして、その夜。
街が寝静まった後も、高台で警戒にあたる担当のグリーンとその舎弟とポルボは、交代で寝入りながら、双眼鏡を握っていた。
グリーンの舎弟が大きないびきをたてながら布を羽織って寝ている傍で、グリーンとポルボの二人が座り込んで、高台の窓から街を見下ろしている。
「フフフ……ふぁあ……もう、来ないんじゃないかなあ、ポルボ商人……フフフ……」
「ンドゥルフフフ……私なら、こういう緊張が解け始めた頃を狙うネ……」
「フフフ……ところでポルボ商人……一つ聞いても……?」
「ンドゥルフフフ……なんだネ?」
「フフフ……あんたほどの敏腕商人が、どうしてこんな小さな街で……? ということさ……フフフ……」
「ンドゥルフフフ……それはネ……」
ポルボが、自分のまだ若かった頃、王都で駆け出しの商人だった頃、まだ腹にぜい肉の一つも付いていなかった頃、王都の街角で、一人の奴隷の少女と出会った時の話をしようとすると……
どこからか、聞きなれない音色が聞こえてきた。
「フフフ……ん? なんだ?」
「ンドゥルフ、双眼鏡を貸すね」
ポルボが、その巨体で持つとずいぶん小さく見える双眼鏡を覗いた。
その音は、段々と大きくなっているように聞こえた。
奇怪な鳴き声。
大勢の軍隊が遠くで移動しているかのような、地響きにも似た不穏な音。
「なんだネ!? あれは!?」
双眼鏡を覗いたポルボが、素っ頓狂な叫び声を上げた。
「フフフ、ど、どうした!?」
「鐘を鳴らすネ! 来たよ! 奴らが!」
「フフ、来たって、何が!」
「見た方が早いネ!」
ポルボから双眼鏡を受け取ったグリーンは、ポルボに指示された方向を見た。
街の正面門の向こう側。
そこに広がる光景を見て、グリーンは言葉を失う。
「あ、あれは……」
騒々しい鐘の音が街中に響き渡り、住民たちが飛び起きる。
家々を飛び出した彼らは、混乱しながら口々に言い合った。
「来たのか!? ついに来たのか!?」
「でも、何が来たんだ!?」
「とにかく、計画通りに避難だ! 後衛の担当は、武器を持って食堂に!」
そして、鐘が鳴る前から事態を察知していたのは、追放者食堂の三人。
デニス、ケイティ、ジーンの三人が食堂の前に立って、音のする方向を眺めていた。
「なるほどね、そういうことかい。総数はわかるかい、ケイティのお嬢さん」
何も手にしていないジーンが、腕を組みながらそう聞いた。
「とにかくたくさんってことしかわからないわね。デニス、どうする?」
両手に双剣を握ったケイティが、中央に立つデニスに聞く。
「計画通りだ。住民は分散させず、防衛ラインに付く後衛組にはケイティが、その先の避難場所は料理長に頼んだ。この方角からなら、冒険者ギルドが避難先になる」
二本の肉切り包丁を錬金しながら、デニスがそう答えた。
「あんたは?」
「俺は単騎で突っ込んで狩れるだけ狩る。狩り漏らした分は頼んだ」
「さて」
「それじゃあ」
「始めるとするかい」
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とても、とても昔のこと。
遠い昔のこと。
ユヅトという少年が、まだ自分の家に帰る前に。
隣を歩くナチュラという少女が、夕方の陽光を眩しそうにしながら、ユヅトに言います。
「残酷じゃないかい?」
「わからない」
ユヅトはそう言いました。
「人間はきっと、ずっと変わらないよ。何百年先も、何千年先も」
「変わるかもしれない。いつか人間同士も、幻獣も、機械だって、奪い合うんじゃなくて尊重し合うことができる、差別し合うのではなくて認め合うことのできる世界が、そんな世の中が来るかもしれない」
「そんな世の中は来ないと思うかな」
「君は天然なふりをして、現実主義だね」
ユヅトはそう言って、ナチュラに微笑みかけます。
都の背が高い建物の隙間から、彼らを包み込む赤い夕陽が、ユヅトの蒼い髪を照らして、不思議な色味を見せていました。
「何百年、何千年かかるかもしれない。でも、きっと、少しずつ良くなっていく」
「そうかな」
「人間はずっと間違い続けてる。でも、少しずつ、良い方向に歩いて行ける」
「そんな簡単なものじゃないと思う」
「ぼくたちだってそうじゃないか。二人の人間は、誤解し合っても、仲直りすることができる。それはたった二人でも、最小単位の『世界』だ。二人ができるなら、三人でも、もっと大きな組織でも、国家同士でも、世界でもできる。個人同士が和解できるならば、きっともっと大きな枠組みでもできる。構造は拡大して適応できる。二人の間でできることは、きっと世界もできる」
「人は違うものを欲しがって、違うものを差別しようとするものだよ。それが人間の本質だから。人は愛し合う生き物だし、同じように殺し合う生き物だから」
「今まではそうだった。これからもそうだと思う」
ユヅトはそう言うと、オリヴィアのために買った指輪を入れた、小さな紙袋をふと眺めました。
許してくれるだろうか。
「でも、ずっとずっと未来まではわからない。きっと良くなる。きっと、人類は間違いながら、転びながら、互いのことを傷つけて、傷ついて、謝って、仲直りして、後悔して、立ち上がって……良くなっていく」
「どれくらい未来の話?」
「それはわからない」
「無責任だね」
「そんなものさ」
とても、とても昔の話。
この話は、とりあえず、
これでおしまい。
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「シナリオはこうだ」
遠目に見える、月夜の中にぼんやりと浮かび上がる小さな街を眺めながら、ロストチャイルが言った。
辺りには、血と獣の匂いが漂っている。
「幻獣のブラックマーケットを取り仕切る組織が、大規模な取引のために、管理している幻獣の保管場所の移動も兼ねて……大量の幻獣を運んでいた。保有している在庫を全部だ。さながら大軍の遠征のように、膨大な量の危険な幻獣を運んでいた。彼らは用心して夜の闇の中で移動していたし、取り締まられぬよう根回しも十分にしていたのだが……肝心の檻の管理が不十分だった」
ロストチャイルとハームの周りには、月明かりに照らされるたくさんの死体が転がっていた。
組織化された王都のならず者たち。彼らの大規模な遠征のための数多くの馬車、移動用の檻、随行していた馬たち。
大小様々な檻は空になっており、そこら中に、その馬車や檻を管理していたはずの者たちの死体が転がっていた。
先ほどまで何も知らずに生きていた彼らは、末端の構成員ゆえに知らないことではあるのだが、大元を辿れば全員ロストチャイルの手下とも言える存在だった。
しかし今は月夜の中で、他ならぬロストチャイルらの手によって、ただの肉塊と化している。
「管理費用をケチって古い檻を使っていた彼らは、移動の途中で、老朽化した檻を破った幻獣たちによってあえなく皆殺しにされてしまう。不思議なことに、すべての檻が破られたのだ。くくく……そういう不思議なこともあるさ。そして本当の不幸は、それがちょうど、とある田舎街の近くで起きたということだった」
ロストチャイルは一人の死体の上に座り込むと、大量の食糧を求めて、人肉を求めて街に向かって駆けていく幻獣たちの群れを眺めた。
「飢えた幻獣たちは、一斉にその近くの街を襲った。不運な街の住民たちは危険な幻獣たちに食い殺され、踏みつぶされ、一夜にして凄惨な死の街と化すことになる」
「しかし、ロストチャイル様」
「なんだね、ハーム」
「ロストチャイル様が保有されている幻獣を、みな放ってしまいました。これからどういたしますか」
「ははは、ここからが傑作なのだ」
ロストチャイルは可笑しそうに笑った。
「これを機に、王政府は幻獣の闇取引を厳しく取り締まることに決める。その責任者には、王政府のある重役の囁きもあり、王国の金融界を取り仕切る大貴族が選ばれることとなる。ジョゼフの失脚によって権勢を失ったワークスタット家、その跡目を継ぎ、貴族たちの筆頭と目される大貴族。彼に将来の期待を込めてね」
「つまり」
「そう。ロストチャイル家当主、ユパスウェル・ロストチャイルたるこの私だ」
「なるほど。他ならぬ取り締まる側まで支配することによって、マーケットはより大規模になると」
「ははは、何かを得るためには何かを捨てる覚悟が必要だ。成功者とは、今までの全てを捨てても、より莫大な何かを手に入れるもの」
「キャンディ、難しい話わかんなーい」
馬車の荷台の上に乗っかっていたキャンディが、退屈そうにそう言った。
無論、死体の山を築き上げて幻獣たちを全て放った張本人は、この三人だ。
「ははは、そう言うなキャンディ。さあ、我々も攻めに行こう。いくらか強者たちが居るからな。それを我々が直接抑えに行かなくては」
「魔法人形については?」
「奪え。破壊しても構わん」
「住民はー?」
「片っ端から皆殺しにしろ。さあ、歴史的な夜にしよう。根絶やしだ! なかなか体験できることじゃあないぞ。貴重な体験だ! 世界には奪う者と奪われる者、殺す者と殺される者、強者と弱者しか存在しない! 我々は絶対的強者! 支配と虐殺が我々という存在を規定してくれる! 我々は血と悲鳴によって定義される! くははは、くはははは!」
奪う者たちと、守る者たち。
その夜はかくして始まった。
そして、その夜の喧騒を離れた位置から見渡す林の陰
ここにも、
追放者がもう一匹。
「『“…………”』」
次回 第二部最終エピソード
『追放メイドは壊せない(前編)』




