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追放者食堂へようこそ! 【書籍第三巻、6/25発売!】  作者: 君川優樹
第2部 追放メイドとイニシエの食卓
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8話 出張追放料理人! 炎の授業参観! (中編)



 昼食の後、デニスとビビアは『戦闘魔法演習』という張り紙がされた講義室の前まで来ていた。


「……たぶんここですよね、バチェルさんの授業」

「あの顔色の悪い奴と、一緒にやるやつだろ?」

「言われた通り、見ない方がいいんじゃないですかね?」

「でもなあ」


 とデニスが言った。


「なーんか心配なんだよなあ。あのバチェルは、いつもの『大丈夫じゃないバチェル』だからなあ。そういうとこあるだろ、あいつ」

「僕たちが見てたって、どうこうできないですよ」

「まあ、念のためだ。ちょっと隠れて見てみようぜ。何ともなさそうだったら、こっそり出ていけばいいんだしよ」

「僕、あんまりそういうの良くないと思うなー。バチェルさんが見てほしくないって言ってるんですしー」

「まあ、それはわかってるよ……ちょっとだけだから。な、ビビア。バチェルには、あとで謝ろうぜ」


 デニスとビビアが講義室の一番後ろの席で隠れるようにして座っていると、授業が始まった。


 食堂で話していた通り、講義室にあのカットナージュという顔色の悪い准教授と、バチェルが入ってくる。


 カットナージュはもろもろの準備を済ませると、生徒たちに言った。


「どうも。今日の戦闘魔法演習は、この戦闘魔法の研究者であるカットナージュが担当します。助手には、バチェル先生に来てもらいました」

「ど、どうもー。よろしくやで」


 バチェルがギクシャクとした笑みを浮かべて、そう言った。


 その後は、カットナージュによる戦闘魔法の講義が進んでいった。


 これがなかなか面白い授業で、ビビアはいつの間にか手帳を取り出して、ペンで色々と書き込んでいた。


 デニスも、本格的に魔法の体系的な講義を聞くのは初めてだったので、興味深く話を聞いていた。デニスが無意識に行っていた……いわば不安定な一輪車を何となくセンスで乗りこなしていたような難しい操作のいくつかが、まったく別の視点から論理的に説明される部分もあり、いつのまにかデニスも講義に聞き入っていた。


 バチェルはカットナージュの補佐として、いろいろと資料を準備したりしながら手伝っており、どうやら心配は杞憂だったかと思われた。


「それでは、いったんここで説明した魔法の一つを試してみましょう。バチェル先生」

「は、はい」


 とバチェルが答えた。


「私が攻撃魔法を打ちますから、防御してみてください」

「あ、あーと……『打消し』系で対抗できますか?」

「はい。今説明したものを軽く、打ってみますから」


 カットナージュとバチェルが黒板の前で距離を離し、杖を構えた。


 そしてカットナージュが、バチェルに向かって杖を振る。


「『狼牙(クロック・サヴァージュ)』!」

「う、『否決(ウヴージェ)』!?」


 カットナージュの魔法に対して対抗魔法を打ったバチェルは、


 その一瞬後に、カットナージュの魔法を打消しきれずに、彼の攻撃魔法を半ばもろに喰らい、そのまま背後の壁まで吹っ飛ばされる。


「んなっ!?」


 デニスが思わず、声を上げた。


 いわば試しで軽く打つんじゃなかったのか?

 あのカットナージュという男、明らかにもろに打ったぞ!?


 壁に身体を打ち付けたバチェルは、そのまま床に落ちて、辛そうに這いつくばった。


 バチェルは冷や汗を流していた。


 カットナージュの魔法の出力が高いことに一瞬前に気付いて、『否決』を打ちながら身体をひねって半身になり、左肩を中心として魔法を受けたので、何とか助かったのだ。あのまま馬鹿正直に打ち消そうとしていたら、大怪我をした可能性がある。

 左肩から肘にかけてズキズキと痛む。半分ほどは打消しで勢いを削いだとはいえ、骨か筋肉にダメージが入ったかもしれない。


 講義室に緊張が走った。


 その様子を満足げに眺めたカットナージュが、聴衆に聞こえるように、バチェルに語り掛ける。


「おやおや。ちょっと強く打ちすぎましたかな? しかし、これくらい対抗して頂かないと困りますよ、バチェル先生……仮にも、このユヅト校の教員なのですから」

「は、はい……すみません」

「まったく。これだからコネで入られる教員は困りますね。別の学校の校長から口利きしてもらったらしいですが……この由緒正しきユヅト校には、本物の魔法使いしか必要ないことをお忘れなく」

「はい……精進します」


 その様子を眺めていた生徒が、ささやき声で話し始める。


「おい、あれ大丈夫かよ?」

「カットナージュ准教授って、新人いびりで有名らしいよ」


「問題にならないの?」

「有力者と繋がりがあるとかなんとか……まあ、上手くやってるらしいよ……」


「バチェル先生って、前もカットナージュ准教授に……」

「かわいそ……」


 カットナージュが教壇に戻って手を一度打ち鳴らすと、生徒たちのささやき声が止む。


「さて。授業に戻りましょうか。ちょっとアクシデントが起こりましたが、これで攻撃魔法に対する対抗魔法の重要性が……」

「なーにがアクシデントだ、この野郎」


 講義室の最奥から、そんなチンピラ紛いの大声が響いて、注目が集まる。


 カットナージュもそちらを見ると、デニスがいつの間にか机の上に両足を置いたチンピラスタイルで、礼服のポケットに手を突っ込んでいた。


「この由緒正しきユヅト校とやらの教員は、魔法の出力すら満足に調節できないポンコツ揃いなのか?」


 デニスが大きな声でそう突っかかると、カットナージュが眉間に皺を寄せた。


「……見かけない顔ですが、体験入学の方ですかね? すみませんが、素人に口を出されても……」

「保護者としては心配になるぜ。高い学費を払って、魔力の無駄遣いを教え込まれるんだからな」

「やれやれ。だから体験入学は嫌なんですよ。こういう頭のおかしくなられている方も入ってこられますからね。先ほどのは、講義の一環としてのパフォーマンスで……」

「抵抗できない相手を騙して、オーバー出力で打った攻撃魔法を防御させるパフォーマンスか? それなら、さっきのバチェル先生は上手くやったよな。なにせ、卑怯者の嘘を瞬時に看破して、咄嗟に最適な防御行動を取ったんだから。……ああと……この授業のタイトルはなんだったっけ?」


 デニスがビビアに聞いた。


「『詐欺師の魔法使いに対する防御魔法』ですよ、デニスさん」

「そうだった。わりい、俺が悪かったな。元々そういうタイトルの授業だった。あんまりアホらしいんで、ついついクレーム付けちまったぜ。それじゃあ授業を進めてくれよ。どうぞ?」


 デニスが言い終わる前には、すでにカットナージュの病的に白い表情が、真っ赤に染まっていた。


「貴様……ユヅト校の准教授を侮辱して、ただで済むと思っているのか?」

「侮辱だと? だとしたら、お前はあのバチェル先生を、大勢の目の前で痛めつけて、侮辱したんだ。そのツケはどう払ってくれる?」


 カットナージュとデニスが、講義室の両極から対峙する。


「……いいでしょう、広場に来なさい。みなさん、あそこのお方が、決闘形式で攻撃魔法の演習相手を引き受けてくれるようです。またとない機会ですので、是非お願いいたしましょう。……まさか、逃げないでしょうね?」

「ああ、望むところだ。保護者参加型の、決闘授業参観としようじゃねえか」




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