3話 追放メイドは笑わない (後編)
「ククク……グリーンの兄貴、今日は食堂で何食いますか……?」
「フフフ……今日は、前から気になっていた『パープル唐辛子もやしステーキ炒め』でも頼んで、店長の実力を見極めるとするかな……フフフ……」
夕方の街を歩くグリーンと舎弟の二人は、追放者食堂に向かいながらそんなことを話していた。
「ククク……流石はグリーンの兄貴……いつも安定から抜け出せない俺には到底出来ない、チャレンジングな選択……!」
「フフフ……あのアトリエちゃんが、前に『一回も注文されてない』って言ってたからな……楽しみだぜ……フフフ……」
「ククク……流石は『泣く子もあやす』グリーンの兄貴、情報収集に余念が無い……!」
「フフフ……男たるもの、常にクールでいるために準備を怠らないものよ……フフフ……」
二人はそのまま赤い夕焼けに染められた追放者食堂の暖簾をくぐると、慣れ親しんだ常連特有の無駄のない歩みでいつもの席に着き、アトリエを待った。
そうしていると人影が横に立ったのを感じて、グリーンが顔を上げる。
「ああ、注文は……」
「お客様、ご注文はどうなさいマスカ?」
「…………」
グリーンは固まった。
それはメイド服姿のオリヴィアが、腰をかがめてグリーンの鼻先まで顔を近づけて、吐息がかかるような間隔までずいっと一瞬で距離を詰めてそう聞いたからだった。
「……フ、フフ……ちょっと距離が近いんじゃないかな……き、きみ……」
「ご不快でしたか?」
「いや、別に不快というわけではないんだけど、その、胸が……その、当たって……フフ……」
身体を密着させる勢いで顔を寄せたオリヴィアの形の良い胸が、グリーンの肩に乗っかっていた。
オリヴィアはそれを目で確認すると、もう一度ゼロ距離でグリーンの目を真っすぐ見据えた。
互いのまつげまで接触しそうなゼロ距離だった。
「ご不快でしたか?」
「いや、断じて不快というわけでは……」
「ご注文はお決まりデスカ?」
「あ、ああ、注文? フフフ……フフフフフ……」
「どうなされマシタカ? すみません、聞こえづらかったでしょうカ」
オリヴィアは、顔を真っ赤にして固まるグリーンの両肩にそっと手をやると、グリーンの耳元に吐息をかけながら、もう一度聞いた。
「ご注文は……」
「ア、アァァ!? アァァァ!」
「あ、兄貴!?」
「おーい、待て待て。うちの食堂にそういうサービスはないぞ」
カウンターで頬杖を突きながらその様子を眺めていたデニスが、密着するオリヴィアとグリーンの二人に対してそう言った。
オリヴィアはデニスの声に反応すると、身体を寄せていたグリーンからパッと身を離し、デニスの方へと戻っていく。
「何か、問題があったでしょうカ?」
オリヴィアが、不思議そうな声色でデニスに聞いた。
「いいか、オリヴィア」
「ハイ」
「お客さんとは、そこまーで距離を詰めなくていいから。それ、注文を聞く間合いじゃないから。関節技とか寝技の間合いだから」
「難しいデスネ……ワタシなりに、お客様にお近づきになろうと思ったのデスガ……」
「心意気は伝わるが、近づきすぎたな。物理的にな」
夕方も賑わってくると、オリヴィアという新しい従業員にお客は興味津々な様子だった。
みんな料理を食べたり注文を待ったりしながら、手の空いたアトリエとオリヴィアに声をかけて、テーブルで談笑したりしている。
「デニスさん……このお店の方向性って、これで良いんですか?」
カウンターで炒飯を食べながらその様子を眺めていたビビアが、デニスにそう聞いた。
「聞くな、ビビア。俺もどうしたもんかと思ってるところなんだ」
「なんかオリヴィアさんが入ったことで、雰囲気が一気にガールズバーに寄ったような……ガールズ食堂?」
「言うな、ビビア。いずれ落ち着く。たぶん」
デニスとビビアがそんなことを話していると、注文を運びに行ったオリヴィアに、酔っぱらった様子の客が話しかける。
「うー、ひっく……綺麗なねえちゃん、下着の色教えてくれよ、うえへへ」
「下着デスカ? お見せしまショウ」
そう言って、オリヴィアはペロリとスカートをたくし上げた。
スカートをたくし上げた方向に座っていたお客様方の視線が、オリヴィアにくぎ付けになる。
「おおおおい待て待て待て! 何やってるそこ! うちの従業員にセクハラをするなこの酔っ払いがあ! オリヴィアお前も何をやってる!?」
「これはどっちがセクハラになるんだ!? セクハラにセクハラで返してるぞ!? セクハラ両成敗か!?」
デニスとビビアが、それぞれそう叫んだ。
「白」
とだけ、アトリエが呟いた。
そうして食堂にオリヴィアを迎えてから数日が経った、ある日の昼前。
デニスはメモ紙をオリヴィアに渡して、確認を取っていた。
「……ということなんだけど、お使い頼めるか?」
「ハイ。お任せくださいデニス様。このオリヴィア、命令を完璧に遂行してみせまショウ」
「変な親父に頼まれても、パンツ見せなくていいからな」
「努力シマス」
「もしかして、見せたがりなの?」
「そうではないのデスガ」
オリヴィアはやや困ったようなジェスチャーをすると、デニスに説明しようとする。
このオリヴィアは表情が動かない代わりに、ボディランゲージで自分の心境を伝えようとするようだった。
「ワタシは人の助けとなり、人の命令に従うように設計されてイマス。その命令が正しいか否かという判断基準を、基本的にワタシは持ち合わせていません。ですから、人に頼まれると、どうしても……ハイ」
「じゃあ、とにかくパンツは見せるな。これが俺の命令だ」
「わかりました、デニス様」
そう言ってお使いに出かけていくオリヴィアを見送りながら、デニスはカウンターで肘をついてため息を吐き出した。
一生懸命なのは良いことだが、オリヴィア自身が先ほど言っていた通り、彼女には人から言われたことに盲目的に従ってしまうところが、むしろ従おうとするところがあった。
どれだけ人間のようにしか見えなくても、そこは機械ということだろうか。彼女にとっては人間の命令が何よりも優先する事項であり、そこに彼女自身の判断が入る余地はあまりないように、デニスには見える。
あのオリヴィアの人目を引く外見も相まって、その妙な噂が広まりつつあることにも、デニスは気付いていた。
面倒なことにならなければいいが……とデニスは思う。
自分のこういう悪い予感は決まって当たることも、デニスは薄々気付いていた。
オリヴィアは街に繰り出すと、メモ紙を眺めながら街を歩いて、一軒一軒お店を回り始めた。
アトリエにお使いを頼む時とは違い、メモにはデニスの字でどの商品をどの通りのどの店からどうするというのが細かく書かれていたので、オリヴィアはほとんど迷わずに済む。
数件目に、オリヴィアは老夫婦が営む鍛冶屋に到着した。
錬金ならばデニスもかなり使える方ではあるのだが、本格的な鋳造や鍛錬といった細かい部分については長年の実績経験値の差が出るので、デニスは刃物の整備などをこの感じの良い老夫婦に任せているのだった。
「おや、デニス君とこの新しい子かい?」
その片割れのおばあさんが、オリヴィアを見てそう聞いた。
「ハイ。先日からお仕えさせて頂いておりマス」
「べっぴんさんだねえ。ほら、おじいちゃんも見てみなさい。この娘、肌なんて赤ちゃんみたいにツルツルだよ」
「お褒めいただき、光栄デス。ありがとうゴザイマス」
「なに食べてたらこんな、お肌がツルツルになるんだい?」
「ワタシの表皮は人体の皮膚構造と近似する錬金化合物で構成されてイマス。『自動修繕』スキルがかけられていますカラ第三度以上の外傷でなければ二日以内に既定状態に戻りマス」
「難しいことはよくわからないけど、良い子だねえ」
「お褒めいただき、光栄デス。ありがとうゴザイマス」
鍛冶屋から整備された刃物類を受け取って外に出ると、オリヴィアは通りを苦労して歩いている様子の、大きな荷物を抱えたおじいちゃんを見つけた。
それを見た瞬間、オリヴィアの中で軽いエラーが発生する。
荷物を抱えた老人→手伝ってあげなければ→しかし現在任務中. 重要度”高”→荷物を抱えた老人→手伝ってあげなければ→しかし現在任務中. 重要度”高”→荷物を抱えた老人→手伝ってあげなければ…………
行動優先順位に関する循環膠着状態を検知. 命令系統を一時切断. 老人の救護活動を実行.
「おじいさま、お手伝いいたしマショウ」
オリヴィアが真っすぐ歩み寄ってそう言うと、老人は驚いたような顔をした。
「すまんねえ、優しいお嬢さん」
「イエイエ。お気になさらず」
おじいさんの大きな荷物を片手で持ち、もう片方の手にデニスに頼まれていた荷物の山を抱えたオリヴィアは、おじいさんにそう言った。
「しかし……重くないのかね、それ」
「イエイエ。お気になさらず。限界荷重の2割にも達していまセン」
「すまんねえ……わしも膝が悪くてね……」
「どうか、なされたんデスカ?」
「わしも若い頃はイケイケの冒険者だったんじゃが、膝にクロスボウを受けてしまってな……」
「それは大変デスネ。矢ならまだしも、クロスボウとは」
「しかもヘビークロスボウでな……」
「それは大変デスネ。クロスボウならまだしも、ヘビークロスボウとは」
おじいさんは古傷が痛むように足を引きずると、オリヴィアに言う。
「しかし、わしはどうにも、お嬢さんのことを見たことがあるような気がするよ」
「本当デスカ?」
「ああ、あれは……もう四十年も前のことになるが……あんたは確か……」
おじいさんはそこまで言うと、オリヴィアの顔を見て、馬鹿馬鹿しいことを言った、というような調子で笑った。
「いやいや、すまんね。そんなはずはない。なにせ、もうずっと昔の話じゃから。お嬢さんが産まれる前の話じゃな」
「それほど太古の昔の話なのデスカ?」
「うむ。もうずっと昔の話じゃよ」
オリヴィアはおじいさんの家まで荷物を運んでやると、傾いた太陽の位置から、現在時刻を計測した。
「やってしまいマシタ。デニス様が首を長くしてお待ちでショウ。早く戻らないと」
オリヴィアは既に巡り終わった荷物を抱えながら、食堂を目指した。
しかし、“首を長くして待つ”という言い方があるが、本物の人間というのは待つときに本当に首が長くなるものなのだろうか。オリヴィアはふと考えた。人間にできる限り近づけて作られたはずのオリヴィアにもそういう機能は無かったので、オリヴィアは少し悲しい気持ちになる。
とにかく、早く戻らなくては。
オリヴィアがそう思って、荷物を抱えながら足早に歩いていると、
「やあ、オリヴィアさん」
そう声をかけられて、オリヴィアは振り向いた。
見てみれば、先日食堂に来ていたお客さんの一人だった。
「オヤ、どうされましたカ?」
「ちょっと困ったことがあってさ。手伝ってくれないかな」
「お安い御用デスヨ。お役に立てれば幸いデス」
「それじゃあ、ちょっとこっちに……」
男に手招きされて、オリヴィアは裏路地の方へと入っていった。
連れて行かれた先の人気の無い裏路地には、弱ってしまって動けない様子の子犬が倒れていた。
その周りに、オリヴィアを待ち構えていた様子の男たちが立ったり、座り込んだりしている。
オリヴィアは子犬の傍にしゃがみ込むと、手の平でそっと、犬の湿った毛を撫でた。
「オヤ、これはこれは。弱っているようですネ」
「そうみたいなんだよ」
オリヴィアを連れて来た男が、唇の端をにやつかせながらそう言った。
「この子犬のことで困っていらしたんデスカ? ご安心クダサイ。見たところ、栄養失調のように見えマス。ワタシのお仕えするご主人様に頼んで、何か分けて頂きまショウ。きちんと食べれば、きっとすぐに良くなりマス」
「いや、オリヴィアさんに頼みたいのは、そういうことじゃないんだ」
「オヤ。では何でショウ?」
オリヴィアがきょとんとした様子を見せると、男は噴き出しそうになりながら、言った。
「その小汚い犬を、オリヴィアさんに蹴り殺して欲しいんだよね。できるっしょ?」
「……ハイ?」
「で、できません……許してくだサイ」
オリヴィアは弱った子犬の前に立ち尽くしながら、怯えたように身をすくませていた。
「おーい。この女、何でも言うこと聞くんじゃねえのかよ」
「でも、マジだって話だぜ」
「なんで言うこと聞くの?」
「頭おかしいんじゃない? ちょっと喋り方もおかしいし」
「ほら、早くやれってー! オリヴィアさんの、ちょっといいとこ見てみたい―!」
そんな風に囃し立てられて、オリヴィアは男たちに聞く。
「な、なぜ、蹴らなければいけないのデスカ? 命令の意図がわかりまセン。この子犬は弱っています。保護してあげるべきデス」
「なんでって? 教えてあげようか?」
「ハイ。教えてクダサイ」
「楽しいからに決まってるじゃーん。ほら、早くやりなよ。何でも言うこと聞くんでしょ?」
「ソノ、それは、ワタシは人のお役に立つタメニ、それが使命であり……」
オリヴィアは混乱しきっていた。
オリヴィアは困っている人の手助けとなり、お仕えすることが何よりの喜びだった。
しかし、これほどの悪意に直接晒されるのは、少なくとも保存している記憶の中では初めてのことだった。オリヴィアには、彼らが何をしたいのか、自分に何をさせたいのか、なぜ楽しいのかわからなかった。
「お、お願いですカラ、そんな酷いことを命令なさらないでクダサイ。保護して差し上げまショウ。それで元気になったら、一緒に遊べばいいではありまセンカ。その方が、きっと、楽しいですよ……」
「こいつ、マジで面白いな! そういうことじゃねえっての!」
「いやあ、良いおもちゃが見つかったもんだぜ。何もねえ街かと思ったらよ」
「いいか、オリヴィアさんよ」
「は、ハイ」
オリヴィアは混乱して、理解できない物事に対して怯える様子で返事をした。
「このこと、誰にも言うんじゃねえぞ? 命令だからな」
「は、ハイ。誰にも言いません。約束シマス。ですから、許してクダサイ。そんな酷いことを、命令なさらないでクダサイ。お願いシマス。この子犬は、保護して差し上げまショウ。蹴りたいなら、ストレスが溜まっておられるのであれば、ワタシを蹴るといいデス。この子犬の代わりに、ワタシが蹴られマス。ですから……」
オリヴィアは地面に膝をついて、そう懇願した。
彼女の必死な様子に、男たちが楽しそうに笑う。
「ハハハ、こいつマジでおかしい奴だよな。これは当分退屈せずに済みそうだぜ」
「いいか、あの定食屋の主人にも、絶対言うんじゃねえぞ!」
「ああ、大丈夫だ。言わなくてもここに居る」
路地の入口から最後の声が聞こえてきて、男たちはそちらを見た。
厚底のサンダルをぺたぺたと言わせながら、一人の男が歩いてやって来ていた。
袖を捲った白い襟付きシャツに、『追放者食堂』という店名入りの紺色前掛けを垂らした短髪の男。
それはデニスだった。
デニスは首をコキリコキリと言わせながら近づくと、男たちに向かって言う。
「……帰りが遅えから探しに来てみたら……うちの従業員をずいぶん可愛がってくれたようじゃねえか」
「て、てめえ、定食屋の……」
男たちの中の一人がそう呟いて、腰かけていた石畳から立ち上がる。
「お前ら、この街の人間じゃねえだろ」
デニスがそう言った。
「だったら何なんだ?」
「『夜の霧団』が解散してから、外から来る妙な奴らが増えて困るぜ……一応はあのホッパーも、この街の悪党共のまとめ役として機能してたってことか……?」
「おいおい定食屋の主人よ。怪我しねえうちに回れ右して帰った方がいいぜ。この娘はあとで返してやるからよ。たっぷり楽しませてもらった後にな」
「いいや、いま返してもらう」
デニスはそう言った。
「言うじゃねえか。この人数に勝てると思ってるのか? 俺たちを誰だと思ってやがる」
「お前たちこそ、この俺を誰だと思ってやがる」
「はっ、しがない定食屋の主人だろ」
それを聞いて、デニスは少し笑った。
「その通り。それじゃあ、死にたい奴からかかってきな」
デニスはそう言うと、路地の壁を削って、二振りの肉切り包丁を錬金した。
威勢よく向かって来た男たちをリズミカルに叩きのめすと、デニスは地面に膝を付いているオリヴィアの方に歩み寄った。
最後に一人、路地の突き当りに残った男が、今の一方的な暴力の光景を見て震えていた。
「な、なんなんだ、お、おい……お前、い、いったい……」
男が震えながらそう聞くのを無視して、デニスはオリヴィアの傍にしゃがみ込んだ。
オリヴィアはデニスを見て、安心したような雰囲気を見せる。
「デニス様。首は伸びていなかったんデスネ」
「あ? 何言ってやがる。しかし、全く……何をやってんだ。さっさと逃げればよかったじゃねえか」
デニスがそう言った。
「あ、アノ、命令されたノデ……」
「命令には何でも従うのか?」
「そのように設計されてイマス」
オリヴィアがそう言うと、デニスはため息をついた。
「悪い奴らの言うことは聞かなくてもいい」
「悪い奴ら?」
「あの辺で伸びてる、どうしようもない連中だ」
デニスがそう言うと、オリヴィアは路地に転がる男たちを見てから、デニスに聞く。
「どうやって、良い人と悪い人を見分ければいいでショウ? ワタシにはわかりマセン。ワタシは人間に奉仕するように設計されてイマス。そこに区別はありまセン」
「それじゃあレッスンだ。あいつらは悪い奴らだ。わかったな?」
「あれは悪い人タチ。他の悪い人たちは、どうやって見分けれバ?」
デニスは一瞬悩むと、オリヴィアに言う。
「お前や、お前の大切な人が悲しむようなことをする奴は、悪い奴だと思えばいいさ」
「悪い人たちに命令されたら、どうすれば?」
「そりゃあまあ、ぶっ飛ばしてやればいい」
「なるほど」
オリヴィアは路地の奥に一人残った男を見ると、デニスに聞く。
「あのお方は、ぶっ飛ばした方が良いということですか?」
「まあ、そういうことだな」
「わかりました。ぶっ飛ばしてみたいと思います」
オリヴィアはそう言うと、メイド服の肩紐を腰のボタンから外した。
すると、オリヴィアの両肩からガシャンッとぜんまい仕掛けのレールのような長物が真上へと伸びた。
そのレール面をスライドして、オリヴィアの背中から砲身のような物体が展開される。
「ん?」
デニスはその様子を見て、目を細めた。
オリヴィアは両肩から伸びた細長くゴツゴツとした一対の砲身を、路地の奥で腰を抜かしている男に向けた。
「……オリヴィア? なんだそれ」
「中距離攻撃用高出力魔力凝集線砲デス。これでぶっ飛ばしてみようと思いマス」
「あれ、待って」
デニスは手を前に出すと、オリヴィアに聞く。
「もしかしてそれ、ぶっ飛ばすというより、消し飛ばす系じゃない?」
デニスにそう聞かれて、オリヴィアは一瞬考えた。
「部分的には消えると思いマス」
「オリヴィア、いやオリヴィアさん。ちょっとストップしようか。思ったより火力が高そうだわ。それ喧嘩とか護身のために使う武装じゃないわ。がっつり抹殺用だわ」
「難しいデスネ……これは使わない方がいいでショウカ?」
「うん。一緒に、ちょっとずつ学んでいこう。とりあえず、その恐ろしいやつは仕舞おう、うん……待て! 振り向くな! 砲身をこっちに向けるんじゃねえ! こええわ! 危ねえわ!」




