第一部 エピローグ 追放者食堂へようこそ!
「ええと、ということでね」
ビビアは話し始めた。
「その後の顛末はというと……怒り狂った魔導関係のみなさんが中心になって、あいつらを追い詰めてくれたんだ。ジョゼフとヴィゴーとホッパー、それに協力していた法官の悪行がみんな明らかになって、現在王政府によって拘束中。スティーブンスは……よくわかんないけど、彼らと一緒に裁判を受けてるらしいよ。『夜の霧団』の構成員も今回の件に関わったのは裁判にかけられて、今はもう事実上の解散状態だね」
ビビアは芝生に座り込みながら、語り掛けるように話している。
「『銀翼の大隊』は、ケイティさんが隊長を引き継ぐことになったみたい。デニスさんは、もしかしたら全部ケイティ副長の計画通りだったのかも、って怖がってたなあ。…………ああ、ワークスタット家も当主が不在になっちゃったから、本当ならアトリエちゃんが跡を継ぐことになるんだけど……本人にはもう、その気がサラサラ無いみたいで。今はセスタピッチさんと魔導関係の人たちが話し合いながら、どうやって管理するか決めてるみたいだよ。燃えちゃった本についても、今どうにかして再生できないかって偉い魔法使いと賢者のみなさんが話し合ってるんだ。本当にそんなことができたら、すごいよね。でも彼らの熱意を見てたら、本当にできるんじゃないかって思えてきたなあ」
ビビアは少しだけ笑うと、続ける。
「その間に、みんなで食堂を建て直したんだ。今日がちょうど再オープンの日で、僕もこれから向かうところ。ちょうどヘンリエッタさんとバチェルさんが出発する日と重なってさ。間に合ってよかったよ」
ビビアはそう言うと、立ち上がって、建て直したお墓に向かって微笑みかけた。
「それじゃあね、シンシア。また来るから」
ビビアが再建された食堂に向かうと、店の前でデニスとヘンリエッタ、それにバチェルとアトリエが立っていた。
デニスは店の新しい看板を見上げると、腕を組んで難しい顔をしている。
「んー……やっぱ、ちょっとキツくねえか? こんな名前の店、俺は入りたくねえぞ」
「なーに言ってるんですか! 大将! これくらいパンチが効いてる方がいいんですよ!」
「そうやで! 『冒険者食堂』なんてありきたりすぎるかんなあ!」
「あー、アトリエ、おめえは……」
デニスがそう聞きかけると、アトリエは先に『陽』の無表情でピースサインを返していた。
「そうだった。元はといえばお前が言い出したんだった」
デニスがため息をつくと、歩いてきたビビアに気付いた。
「おう、ビビア。これどう思う?」
「なんですか? デニスさん」
ビビアは店の新しい看板を見上げると、にやりと笑った。
「いいーじゃないですか。僕は好きですよ」
「あーわかったわかった。つまり俺のセンスがねえってことだな」
「そんなこと言ってないじゃないですか大将ー!」
「なーにいじけてるんやー? 店長ー」
「いじけてねえわ。大体なあ。『脱冒険者、飲食店開業マニュアル!第四版』にも、店の名前ってのは……」
「わかりました! わかりましたから!」
デニスは店の中に入ると、アトリエと一緒にカウンターの中に立った。
「それで? 最後に何食うんだ?」
「私、ブリトラカツ丼で!」
「あ、僕は普通にカニ炒飯もらえますか?」
「あたしは日替わり定食!」
三人がそう言うと、鈴が鳴って、続々とお客さんが入ってきた。
「店長ー!」
「再オープンおめでとー!」
ツインテールとポニーテールの二人が、そう言った。
「ふふふ、グリーンの兄貴。何を食べます?」
「俺たちも、『作戦』の時にはウェイターとして暗躍していたからな……俺たちがいなければ危なかったさ……あ、ガストロチーノーをもらおう」
謎の二人が、そう言った。
「ンドゥルフフフグフグルフ……私も何か頂きましょうかね……」
変態雑貨商のポルボが、そう言った。
「やれやれ、忙しくなってきやがったな」
デニスが苦笑しながらそう言った。
デニスとヘンリエッタ、バチェルとビビアは、カウンターから声を上げる。
アトリエは両手でピースサインを作った。
「追放者食堂へようこそ!」