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追放者食堂へようこそ! 【書籍第三巻、6/25発売!】  作者: 君川優樹
第1部 追放者食堂へようこそ!
18/139

18話 悪党どもをぶっ潰せ! ざまぁ大作戦! (中編)



 数日後、王都某所。


 王国でも随一の宿泊施設であるこの邸宅ホテルは、王都を訪れる上流階級の者たちが気軽に寝泊まりが出来る場所として、昔から重用されてきた施設だった。


 ここは元々名のある貴族の私有する屋敷であり、今のような使われ方をされるようになったのは、当時のパーティー好きの当主が毎晩のように宴を開いていたことに由来する。

 その当主の一家が突然の流行り病でお家が断絶してから、よく屋敷に招かれていた知人たちが昔の日々を懐かしみ、宿泊のための邸宅として運営されるようになったのだ。


 ここで寝泊まりする貴族たちは、単純に宿泊のためだけにここを利用するわけではない。毎日三食出される料理は屋敷の一室で纏めて振舞われるため、宿泊する貴族たちはその場を利用して情報を共有したり、交友の輪を広げるために宿泊するのだ。


 しかし今日、この屋敷はとある王国の四勢力によって、全室を貸し切られていた。


 昼間だというのに、部屋の窓とカーテンは全て閉め切られている。

 しかし室内は暗いというわけではなく、天井や壁に配置された光を放つ鉱石のおかげで、下手に窓から陽光を取り込むよりも明るいかもしれなかった。秘密の会合にはうってつけ、もしくは、そういった用途に使用されるための部屋、というべきだろうか。


「ふん、あの汚らわしい姪め。この私を出し抜いたつもりだったか」


 ジョゼフはそう言って、テーブル上の料理をフォークで一口食べた。


「ジョゼフ卿、ご心配なく。ご依頼通り、あのアトリエとかいう娘が匿われていたちっぽけな店は、今では跡形もありませんよ」


 そう言ったのは、『銀翼』の大隊長、ヴィゴーだった。

 金と青色の甲冑を身に着けたまま食事の場に座るヴィゴーは、腰にも剣を差したままだった。


「私は、ほんの少しでも馬鹿にされるのが我慢ならんのだ。あの姪っ子と来たら、棚から牡丹餅の癖に私のことを内心であざ笑っていたに違いない。あのゴミ屋敷にあんなものが隠されているとは思わなかったが……あの屋敷も焼け。存在しているだけで不愉快だ」

「畏まりました。明日にでも更地にさせましょう」


 ヴィゴーはそう言うと、同席しているホッパーに目配せした。


「お前も、今回は良くやってくれた。あそこの店主は私と因縁のある男でね。私も最近は『大隊』で舐められたものだったが、この件が広まれば……少しでも頭の回る奴だったら、この私に反抗しようなどとは思わないだろう」

「あのデニスとかいう男には、私もしてやられたものでしたから。しっかりと跡形も無くしておきましたよ」


 ホッパーは食事を摂りながら、そう言った。


「ホッパー。たとえお前が今回の件で捕まるようなことがあっても、我々に従っていれば大丈夫だ。なにせ、ここには王立裁判所の最高法官殿がいらっしゃるんだからな」

「ほっほ……大貴族と裁判所、そして冒険者パーティーの長と有能な実行部隊がいれば、我々の連合も安泰じゃな」

「安泰だと? そんなものじゃあない」


 ジョゼフはテーブルに肘を付くと、ナイフを握りながら続ける。


「私はこのまま、この王国を影から掌握してやるぞ。法と武力と権力の最高峰が揃ったのだ。我々の躍進はここからだ。しかし、あのデニスとかいう男には感謝しないといけないかもしれないな。なにせ、こうして我々を巡り合わせてくれたのだから」


 ジョゼフがそう言うと、四人は笑った。


 ひとしきり笑ったあと、法官が首をかしげる。


「なんだか、外が騒がしいですな」


 言われてみれば、どうにもこの屋敷に面する通りが騒がしかった。


 秘密の会合故に窓とカーテンを閉め切ってしまっているため、外の様子はわからないが、何やら先ほどから、少しずつ人が集まってきているような雰囲気がある。


「やれやれ。道化師の大道芸人がパフォーマンスでもしているんでしょうかね」

「少し席を外させて頂いて、追い払ってきましょうか?」


 ホッパーがそう提案すると、ヴィゴーは少し考えてから、首を振った。


「いや、わざわざ顔を晒して出て行くこともあるまい。まだ様子を見ておこう。変にトラブルになると困る」

「外の様子だけでも、カーテンの隙間から見ておきましょうか」

「そうだな。そうしてくれ」


 ヴィゴーがそう言って、ホッパーが席を立とうとした瞬間、


 会食場の扉が突然開かれて、一人の給仕が入ってきた。


「おい! 入ってくるなと言ったろう!」


 給仕の姿を見て、ヴィゴーが鋭い口調で怒鳴った。


 給仕は一瞬びくりと怯えると、ぼそぼそと話し始める。

 金髪の小柄な少年のようだが、帽子を目深に被っていて、顔まではよく見えない。


「そ、その、コックが、一品料理を出し忘れていたと……」

「貴様、話を聞いていなかったのか? この会合が終わるまでは、誰もここに入れるなと……」

「ああ、もうよい、ヴィゴー。それを置いたら、さっさと出て行け」


 ジョゼフがそう言って手を振ると、給仕はお盆から四人分の料理をテーブルに置いた。


 見てみると、それは小盛のカニ炒飯だった。


「炒飯? どうしてこんな料理が出てくるんだ」

「そ、その、コックの得意料理でして……そちらのカニ炒飯は、最高級のカニを使った……」

「ああ、わかった。聞いた私が馬鹿だったよ。下がりなさい」


 ジョゼフはやれやれと言った調子でため息をつくと、スプーンでひと掬いして、その炒飯を口にした。


 それを味わった瞬間、ジョゼフは目の色を変えた。


「……!? ま、待て! おい!」


 呼び止められた給仕は、退室するために扉を半ば開きながら、立ち止まる。


「どうか、しましたでしょうか?」

「なんだこれは!」

「何か、問題でも?」

「違う! 美味すぎる!」


 ジョゼフは小皿に盛られた炒飯をガッとスプーンで掻き込むと、満足げに鼻を鳴らした。


「じょ、ジョゼフ卿……その、少しテーブルマナーが……」

「お前も食べてみろ、ヴィゴー。ホッパーも外の様子などいいから、食え。いやあ、産まれてこの方、炒飯なんていうのは下級市民の口にするものだと思っていたが。こんなに美味いとは思わなんだぞ」

「……! これは確かに美味い!」

「法官殿まで……」

「おい、お前! コックに言って、こんな小盛ではなくちゃんと盛って来いと伝えろ! すぐに作って持ってこい! いいな!」


 ジョゼフがそう言うと、給仕は唇の端でにやりと笑った。


「かしこまりました。すぐにお持ちいたしましょう」

「ああ、待て! そのコックも連れてこい! 私をここまで感心させるとは、大した料理人だ! うちの厨房で雇ってやろう! こんな名誉はないぞ!」

「ええ、わかりました。そのように伝えますよ」


 給仕がそう言って出て行くと、ジョゼフは皿に残った米粒までスプーンで掬い始める。


 それを見たヴィゴーは、ジョゼフにはわからないように、顔をしかめた。


 このジョゼフという男……一応は魔法使いたちの頭領とかいう大層な地位にはいるが、やはり下劣な簒奪者に違いはないな。ヴィゴーは内心で、そう思った。


 他の者たちだってそうだ。


 ヴィゴーは目だけで同席者たちを見やると、なるべく表情には出さないようにしながら、考える。


 このホッパーとかいうのも、一時的に手下にしてやっているが、この私の右腕とするには頭が足りない。

 この法官だって、呆けた老いぼれにすぎない。自分の職務に誇りも持たずに、甘い汁を啜ろうとするクズだ。


 こいつらは踏み台にすぎない……ヴィゴーはそう思った。


 今は盛り立ててやるが、時が来れば全員排除して、この私が頂点に立つのだ。


 そうすれば、私は片田舎の下賤な犯罪者集団を一網打尽にし、王座に忍び寄ろうとする卑しい簒奪者から王を救い、さらには王立裁判所の許しがたい腐敗を明らかにした稀代の英雄として祭り上げられるのだ。


 王の寵愛を一身に受ける右腕となり剣となり、王家直属の騎士団を指揮し、正式な爵位を与えられ、誰もが認める大貴族となるのだ。


 いくら『銀翼の大隊』が最強の冒険者パーティーといえども、所詮はならず者の武装集団の中の、いっときの流行りにすぎない。


 私はこんなものでは終わらん。


 何の力も持たない下級市民の身から、たゆまぬ鍛錬のすえにレベル99まで辿り着き、ついにここまで来たのだ。


 最後にすべてを手に入れるのはこの私だ。

 お前たちのような下劣な者たちとは違うのだ。


 すべてが計画通りに進めば、あのケイティだって、デニスのことなど忘れて私に……


 ヴィゴーはそんなことを考えながら、炒飯を一口だけ口にした。


 この味は、覚えがある。


 これは……




 扉が開かれて、一人の男が登場した。



 ヴィゴーは思わず、振り返った。

 一瞬先に違和感に気付いたのは、ヴィゴーだけだった。


 ヴィゴーだけが、同レベル帯の強者の雰囲気を感じ取ったのだ。



 男は頭に、二つの穴が空いた紙袋を被っていた。


 袖の無い白いシャツを着て、肩から手首の先まで、よく発達した筋肉に覆われた腕をしていた。


 その片手の手のひらの上に大盛の炒飯を盛った皿を載せていて、背筋をピンと伸ばして、発達した胸筋を主張させていた。


 控えめに言って、意味不明だった。


 その姿を見て、まともな反応が出来た者はいなかった。

 乱入者を一瞬前に予期したヴィゴーでさえ、呆気に取られていた。


 全員口をポカンと開いて、その異様な姿の男が、ゆっくりと歩いてテーブルに近づくのをただただ見守っていた。


 それこそが、この異常事態に対する普通の反応かもしれなかった。


 異様な雰囲気の男は、ぐるりともったいぶるようにして、大回りに歩いてくると、

 呆気に取られる四人の座るテーブルに炒飯を置いて、両手を机上についた。


「その炒飯を作ったのは……」


 男は頭の紙袋を剥ぎ取ると、まっすぐジョゼフを見据えて言った。


「この『レジェンダリー炒飯』の私ですが……? ジョゼフさんよぉ……」




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