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追放者食堂へようこそ! 【書籍第三巻、6/25発売!】  作者: 君川優樹
第1部 追放者食堂へようこそ!
17/139

17話 悪党どもをぶっ潰せ! ざまぁ大作戦! (前編)



 デニス一行は、再び馬車に揺られていた。

 前回と違うのは、その規模だった。


 『夜の霧団』に怪しまれないように、街から選抜された精鋭たちが集まって、王都へと移動していた。

 それでも最終的には結構な人数になり、大所帯といっても差し支えのない人数にはなったわけであるが。


 その先頭を走る、毎日昼に必ずカニ炒飯を食べに来ていた馬車屋のおっさんが手綱を握る馬車の中で、デニスはこれからの予定について説明していた。


「俺はまずはケイティに会って、それから料理長に会いに行って、協力を仰いでみる」

「料理長って、大将の育ての親だっていう……」


 ヘンリエッタがそう言うと、デニスはため息交じりに答える。


「そうだ。ブラックス・レストラン料理長、ジーン・ブラックス。レベルは100だ」

「ひゃ、100!? げ、限界レベルじゃないですか! 実在したんですか!?」


 ビビアがそう言った。


「ああ。つっても、別に強いわけじゃない。直接戦闘能力だけならたぶん、ヘンリエッタでも余裕で勝てるぞ。ジーン料理長は……俺とは料理人としての方向性も、スキル構成もまるっきり違うからな。俺が最強の料理人なら、料理長は最高の料理人だ」


 デニスは馬車の窓枠に肘をつくと、外を眺めてため息をついた。


「やれやれ。店も燃えちまったし、実家に帰るとするか」




 王都の一等地に居を構える、ブラックス・レストラン。


 デニスがその扉を開くと、店内には上品な雰囲気が漂っていた。

 俺の店とは大違いだな、とデニスは思う。別にだからどうだという話ではないが。


「いらっしゃいませ」


 女性の給仕の一人が品のある声色でそう言って、来店したデニスの姿を見ると、

 その手に持っていた皿を、床に落として割った。


「で、デニス副料理長……」

「よ、よお……元気? 元気だった?」

「み、みんな! 料理長! 副料理長が! デニス副料理長があ!」


 女性の給仕がそう叫ぶと、奥からドタドタと大量のコック達が出てきて、デニスを一瞬で取り囲む。


「デニス! 戻って来たのか!」

「副料理長! お元気でしたか!?」

「『大隊』を抜けられたと聞いていましたが!」

「田舎でお店をやってるって!?」


「あ、あー待て待て。俺はちょっと、今日は料理長に会いに来たんだよ。それで……」


 デニスが両手を前に挙げながらそう言うと、


 厨房から、副料理長の証である青いコック帽を被った、一人の少女が出て来た。


「ヘズモッチ」


 デニスは彼女の姿を見ると、柔らかい表情を浮かべて、そう言った。


「お前が副料理長になっていたんだな」

「私は、自分が副料理長だと思ったことはありません」


 デニスがヘズモッチと呼んだ青いコック帽の少女はそう言うと、帽子を取って、デニスに向かって微笑みかける。


「良いところが、副料理長“代行”といったところでしょう。おかえりなさい、デニス副料理長。ジーン料理長はこちらです」




 ジーン料理長は、厨房の奥でスープを小皿に取って味見をしていた。


 黒髪の、背の高い女性。年は40歳ほどだが、それを感じさせない不思議な色香を漂わせている。


 料理長はデニスをちらりと目の端で見とめると、唇の端をほんの少しだけ歪めた。


「誰かと思ったら、炒飯馬鹿じゃない」

「よお……その、ただいま……」

「答えは見つかったのかい?」


 ジーン料理長はそう聞いた。


「いや……まだわからん。もしかしたらあんたの言う通り、俺はレベル100にはなれないのかも……色々巡って、色んな経験をしたけど、そう思ったよ」

「ふうん」


 料理長はデニスの方を向くと、小皿に取ったスープを飲み干して、彼のことを見つめた。


「少しは良い顔つきになったじゃないの」

「そうかい? あんたに褒められるのは気持ち悪いな」


 デニスはそう言って、困ったように笑う。

 料理長も、ほんの少しだけ微笑んだ。




「ええと、あたしたちは王都中の魔法使いや魔導研究家、それに高名な賢者の人たちと片っ端にコンタクトを取っていくで!」


 王都の街中で、バチェルが目ぼしいリストを眺めながらそう言った。


「でも、私たちみたいのと会ってくれるかな?」

「会ってくれるかな?」


 ツインテールとポニーテールの二人がそう言うと、バチェルがポンと胸を叩く。


「心配いらへん! なんたってこっちには冒険者食堂の新規常連様方がおるんやからな! みんな総出でかき集めるで!」


 バチェルが自信満々にそう言った道の向こう側では、服飾店の前に立ったビビアが『柔らかい手のひら(パーム)』の魔法を駆使して、外に向かって広がる円錐型の魔法の膜を形成して声を響かせている。


「街の皆様方ー! えーっと、一人ずつ衣装のサイズを合わせて行ってくださーい! 一列に並んで、一人ずつですよー! ちゃちゃっと終わらせますからねー!」


「……あの魔法って、あんな使い方もあるんやなあ」

「ビビア君って、意外と器用だよね!」

「顔も可愛いしね!」

「ええと、運搬は馬車屋のおっちゃん達に任せて、あれとこれはああで……それに……ヘンリエッタさん! 頼んだで!」




「なるほど、そういうことが……」


 王立裁判所の法官室で、セスタピッチがそう言った。


「ええとこれって、もう立件できたりしないんですか? 放火犯自体は捕まえているので、そこから芋づる式に……」


 ヘンリエッタがそう言うと、セスタピッチは首を横に振った。


「下っ端が何を言ったとしても、その上にシラを切られたらどうしようもないですよ。それにこれは、ジョゼフが『銀翼』に依頼し、それをさらに下請けの『夜の霧団』が実行しているわけですからね。徹底的に追い詰めて、彼らが直接に所属している『夜の霧団』の団長まで捕まえたとしても、王族や大貴族とのコネクションが強い『銀翼』以上は捕まえられないでしょう」

「それで、ええと、作戦があるんですけど……」

「ほほう?」


 セスタピッチは書斎机から一歩引くと、腕を組んでヘンリエッタを見た。


「お聞きしましょうか。加勢いたしますよ」




「んふふ……備品はこっちですヨ! 荷馬車に積むテーブルと椅子の数をちゃんと頭の中で計算しなさいヨ! ほら、サッサと動く! 動きながら考えるのヨ!」


 太った雑貨商が、王都で一番大きな雑貨屋の中で忙しなく準備の指示と一緒に唾を飛ばしていた。

 手伝っている街の人々が、苦々しい顔をしながらその指示通りに動いている。


「変態ポルボの野郎め……イキイキしてやがるぜ」

「変態仕事人のポルボだからな。あいつに雇われた奴隷は、どんな奴でも数か月で店を一軒任せられるような変態敏腕商人になるって噂だぜ」

「死ぬほどこき使われるらしいけどな。人格が変わるらしいぜ」

「死ぬほど仕事を叩き込まれるんだよ。口調もうつるらしいぞ」


 街の人々がそんなことを愚痴りながら作業に勤しんでいる横で、

 アトリエがしゃがみ込んで、雑貨屋に並ぶ一つの奇妙な形をした大型のマジックアイテムを眺めていた。


「ンデュフフ……どうしました? アトリエちゃん」

「面白い形」


 雑貨商が持ち上げてみると、それは演説や劇場で使われる、声を拾って遠くまで届けるための大振りな肩掛け式のマジックアイテムだった。中に風の魔法が組み込まれており、拾った声や音を普通であれば届かない場所まで拡声してくれるのだ。


 ただし壊れているようで、雑貨商がその大型のマジックアイテムを肩に担いで集音部分に声を当ててみても、ウンともスンとも言わない。


「ンデュフフ……このままだと使えませんが、これは掘り出し物ですネ……」


 雑貨商がそう言うと、備品の持ち出しを手伝っていた一人の男が、アトリエの前に立った。


 見てみれば、彼は先日に、食堂から本を一冊借りていった魔法使いだった。

 暗い緑色の髪をした、特徴的な男だ。属性スキルを極めた魔法使いには、極まれにこういった体質の変化が現れる。


「き、君は……あ、あの魔導書の持ち主だったっていう……」


 アトリエはこくりと頷くと、彼に向き直る。


「あ、ありがとう……ほ、本を返すよ。おかげで、妻が助かった。もう駄目かと思ってたけど、その……」

「役に立ったなら」


 アトリエは本を受け取ると、表情を変えないまま続ける。


「なにより」

「わ、私にもなにか、手伝わせてくれ。これでも、魔法使いとしてはいくらか名が知れてるんだ。風のスキルなら、上級スキルでもほとんど何でも運用できる。なあ、何かできることはないか?」

「ンデュルフフ……そういうことなら、手伝ってもらいましょうヨ」


 雑貨商は変態的な笑みを浮かべて、そう言った。


 アトリエはピースサインで返した。




「『銀翼』のケイティっていう奴から動きを聞いたんだ。奴らは……『夜の霧団』ホッパー団長、『銀翼の大隊』ヴィゴー大隊長、ワークスタット家当主ジョゼフ・ワークスタット、それに王立裁判所の法官が集まって、会食を開くらしい。祝勝会のつもりか、一度組んだ者同士でまた何か悪だくみをするつもりかは知らんが、とにかく奴らが一同に会する瞬間がある。そこを狙いたい。ただ、肝心の場所と日時がわからない。どの料理店がセッティングをしているかも不明だ」


 デニスは厨房で、ジーン料理長と話していた。


「わたしに口を聞いて欲しいってかい?」

「料理長、あんたは王都で最高の料理人だ。あんたの30年来のコネクションを通じれば、情報を掴めるはずだぜ」

「食事の場を荒らすのは、料理人として感心しないよ」

「最低だっていうのは承知の上だ」


 ジーン料理長はデニスのことを見つめた。


「……血の繋がらない息子もどきが、数年ぶりに帰ってきたと思ったら。とんでもないことを言い出すもんだね」

「こんなことになるとは、俺だって思ってなかったよ」

「何のためにそこまでするんだい?」


 ジーンはデニスに聞いた。


「あんたは変な所で諦めの良い奴だと思っていたけれど。鍛錬や人助けには熱心だけれど、自分の面倒ごとからはすっぱり身を引いちゃうような。中途半端に一人でやっていけるもんだからね。それで、どうせ色んな所を転々としてきたんだろう? 違うかい?」

「今度は引けないんだ」


 デニスはそう言った。


 デニスとジーンはしばし、無言のままで向き合った。




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