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3話  王国騎士団警察騎士部隊所属・ヘンリエッタ副長補佐官


 4年前よりも重厚かつ装飾の多くなった騎士甲冑に身を包んだヘンリエッタは、背中のホルダーに納めた大剣の留め具をバチンと閉じた。留め金は背中から連結された左の腰部に接続されており、左手で留め具を操作することで固定を解除し、即座に右手で背中から振り下ろすことができる仕組みになっている。


 大剣を背中に固定しながら歩み寄るヘンリエッタを前にして、芝生の上で尻もちをついたままのビビアは、バツが悪そうに頬をかいた。


「ビビア君。一体何をやってるの?」

「いやその……これは、あれですよ」

「一応、言い分は聞いておきましょう」


 ヘンリエッタの口調は、数年前の食堂で交わされていたような柔らかい声色ではなかった。

 王国騎士団での昇進を積み、立場と確かな経験を得た騎士としての声色だ。


「それはこの……男同士の、譲れない戦いという奴で……」

「はぁ。ちょっと仕事でバチェル氏に会いに来てみれば……」


 呆れた様子のヘンリエッタは、ビビアとラストの首根っこを掴まえると、そのまま引きずり始める。


「みなさん解散ですよー。学業に戻ってくださーい」

「いだだ! 許してヘンリエッタさん! 見逃して!」

「いでで! つ、つええ! どんな腕力してんだこの人!?」

「あとは本官が処理いたしますのでー」


 引きずられるビビアとラストは、物理特化型のヘンリエッタの膂力に成す術がない。二人が連行されていく様子を眺めていた群衆は、これですっかり決闘が有耶無耶になってしまったことを理解した。


 ぞろぞろと散らばっていく人混みの中で、歩き始めたチムニーがアトリエに聞く。


「……あの人も、アトリエのお知り合いでしたわよね?」

「そう。常連」

「副長補佐って……つまり、警察騎士部隊で五本の指に入ってるってことじゃないですの? 警騎部隊の、次期副長候補ってことですわよね?」

「そうなんだ。すごい。ヘンリエッタ」


 そんなことを話しながら校舎に戻っている途中、ヘンリエッタはアトリエのことに気付いたようだった。二人を引きずっていて両手が塞がっているので、彼女はアトリエに微笑みで挨拶を送る。それに気付いたアトリエも、彼女にピースサインで返した。


「出会って4年になりますけど、いまだにあなたの交友関係はわかりませんわ……」

「色々あった。色々」


 そんなことを話していると、時計塔から昼休みの終わりを告げる鐘の音が響いた。


「いけませんわ。早く戻らないと」

「うむ。急ぐ」


 やや速足で校舎に戻ると、アトリエは何かを感じて、窓の外を見た。


「あ」


 窓から覗く青空を眺めながら、アトリエが小さく呟く。

 それに気付いたチムニーは、教室へと戻ろうとする足を止めた。


「どうしましたの?」

「見て」


 アトリエが空を指さしたので、チムニーもそちらを見やる。


 青空の中を、鳥のような黒い何かが飛んでいる。

 それはこちらの方へと飛翔して向かってきているようで、輪郭が少しずつハッキリとし始めていた。


「なんでしょうね? あの機械人形(オートマタ)の、オリヴィアさんが飛んでらしてるのかしら?」

「違うと思う」

「じゃあ何でしょう?」

「なんだろう」


 急がなければならないが、どっちにしろ遅刻することに変わりはない。

 二人はしばし足を止めて、その飛翔物の正体がわかるまで眺めていようと決めた。


 それは鳥のように見え始めた。しかし奇妙なことに、翼は片方しか無いようだった。

 羽ばたく片翼が何とか風を捉えながら、不格好な姿勢で何とか飛んでいるのだ。

 しかしその飛び方は、普通であればありえないようにも見える。


 翼一枚で空を飛ぶことができるのだろうか?

 そういう飛び方をする鳥もいるのだろうか?


「わかった」


 アトリエが不意に、そう呟いた。


「何がわかりましたの?」

「飛んでない」

「なにが?」

「落ちてる」

「だからどういうことですの……ってボゴォッ!?」


 アトリエの突然すぎる頭突きが、チムニーの横っ腹に突き刺さった。


 あまりに不意打ちすぎる全力の頭突きを食らったチムニーは、その華奢な身体をへし折られながら宙に浮かぶ。それは角の突進で相手を吹き飛ばす、カブトムシを思わせる強烈な頭突きだった。


「『頭上運搬』!」


 叫んだアトリエのスキルが発動し、頭突きによって吹き飛ばされようとしたチムニーの身体が、頭上に固定される。『頭上運搬』。4年前のあの夜に獲得した、頭上に置かれた物ならばどんな物でも運ぶことができるスキル。アトリエはそれを利用してチムニーを頭の上に載せると、そのままパタパタと走り出した。


「い、いきなりなんですの!?」


 親友が突然頭突きを食らわせてきて、そのまま自分を頭の上に載せて、全力で走り出すという意味不明すぎる状況。チムニーは悲鳴を上げずにはいられなかった。


「危ない。逃げる」

「だからどういうことですの!?」

「落ちてくる。あれは飛んでるんじゃなくて、落ちてる」


 ゆっさゆさとアトリエの頭の上で揺られながら、チムニーは何とか窓の外を見やる。

 先ほどまで眺めていた片翼の鳥は、もうすでにハッキリとその全貌がわかる距離まで迫っている。


 空中で揉みくちゃになりながら落下する巨大な鳥は、魔法学校の時計塔を破壊しながら上空よりやって来た。その巨体は隕石のように墜落しながら、アトリエとチムニーが居る校舎へと一直線に迫っている。


 それは片翼をもがれた巨大な龍であり、その巨体でもって校舎へと激突しようとしていた。

ヘンリエッタ「ビビア君、明日の更新はどうなっているのかな?」

ビビア「明後日になるかもしれないということですね!」

ヘンリエッタ「連行します。話は本部で聞かせてもらいましょう」

ビビア「ぎゃー! 僕のせいじゃないー!!」

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