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2話 もうすぐレベル30に到達するレベル29のビビア・ストレンジ


 王都立ユヅト魔法学校の中央広場に、騒がしい人だかりが出来ている。

 群衆に取り囲まれ、好奇の目を向けられているのは二人の学生。


 一方は、あの色んな意味で有名人であるビビア・ストレンジ。

 ふんわりとしたボブカットに切り揃えられた艶やかな蒼髪。青色の複雑な形状をした奇妙なジャケット。黒のスキニーズボンを履いた脚はスラリと長く、ジャケットの下に着た白シャツは、胸元が挑発的に開けられている。その中性的な顔かたちはひどく整っていて、100人に聞けば100人が、この青年を“美”青年と呼ぶことに同意してくれるだろう。


 もう一方は、これまた色々な意味で有名な上流貴族の子息であるラストという青年。

 目元まで垂れる黒髪。ビビアとは対照的な赤色のジャケットに、ややゆったりとした黒色のズボン。ジャケットの下には挑戦的にも見える漆黒のシャツを着ており、顔かたちはシャープで男性的。100人に聞けば100人が、この青年を"男前"と形容することに同意してくれるだろう。


 そんな大学部の新入生であるらしい二人が激突する、決闘騒ぎのようだった。


 決闘を見に集まった生徒たちは興奮でざわつきながら、その視線を群衆に囲まれた二人の青年に送っている。ぜんぜん別の方を見やっている者も少なくない。騒動を聞きつけた教員や警備員が、せっかくのお祭り騒ぎを止めに入ってこないかと心配しているのだ。


 そんな群衆の中には、手早く昼食を終えてきたチムニーとアトリエの姿もあった。


「決闘ですって。あのビビアって人、アトリエのお知り合いでしたわよね?」

「そう。常連」

「なんだか色々と、噂が絶えない人ですわよねー」

「ウワサ?」


 密集して立つ見物人たちに肘をぶつけられたりしながら、アトリエがそう聞いた。


「なんでもあのビビアさん、高等部を座学トップで卒業したらしいですわよ」

「ふむ。さすが」

「でも肝心の実技が全然駄目で、座学トップで留年の伝説になりかけたとか」

「ふむ。さすが」

「でも基本魔法の『柔らかい手のひら(パーム)』の操作だけが異常に上手くって、進級が議論されまくった結果やっぱり留年になりそうだったんですけど、謎の力が働いて卒業できたとか」

「謎の力」

「なんでも、王政府のトップの方から直々に干渉があったとか」

「ふむ。さすが。もう一人の方は?」

「あっちのラストっていう人は……たしか、ウィッチ伯の子息じゃなかったかしら? 学校祭のミスターコンテストで優勝してたような気がしますわ」

「なるほど」

「ちなみにビビアさんは、たしかミスコンの方で準優勝したことがありますわ」

「ふむ。さすが」


 チムニーとアトリエがそんなことを話していると、男性のものにしてはやや高い、青年のテノールの声が広場に響き渡った。


「ラスト! お前とは、いつか決着をつけねばなるまいと思っていたのさ!」

「ビビア! お前の誇大妄想にはなぁ! 高等部の頃からずっとイライラさせられたぜ!」


 そんな二人の叫び声に呼応するように、群衆の中の一団から黄色い声が沸き上がる。


「きゃー! ビビアくーん! がんばってー!!」

「きゃー! ラストさまー! かっこいいー!!」


 それぞれのファンクラブめいた女子の一団が、ビビアとラストの両方に声援を送っている。その声援に

気を良くしたらしいビビアは、その中性的に整った顔立ちで蒼髪をサッとかきあげながら、ラストのことを指さした。


「とにもかくにも、この『封印膜(シールドカーテン)』のビビア・ストレンジ! 売られた決闘はお釣り無しできっちり買い取ってやるぞ! 謝るなら今の内だな!」

「誰が謝るか! 今日ここで! きっちり決着をつけてやるぞ!」

「くくく……この『封印膜(シールドカーテン)』のビビア・ストレンジに啖呵切ったこと、後悔させてくれる! もうすぐレベル30に到達するレベル29にして、いつか世界一の魔法使いとして名を轟かしたりすることになる、この僕になあ!」

「自意識過剰すぎてうるせえんだよ! あと自分のこと『封印膜(シールドカーテン)』とか何とか呼んでるけど、それ言ってるのお前だけだからな!? 自分で二つ名作って自分で呼んで、虚しくないのか!?」

「う、うるさい! 呼んでくれる人もいるんだ!」


 クリティカルなツッコミに歯噛みしたビビアは、懐から杖をサッと取り出した。


「決闘の方式は、どちらかが杖を落とすか膝をつくまで……でいいかな?」

「いいだろう……かかって来い、ビビア!」


 杖を構えたビビアとラストが、群衆の中で対峙する。


 正式な決闘ではないため、立会人は存在しない。

 決闘の開始は、先に動いた方が切ることになる。


 周囲へ不意に緊張感が伝播して、ざわめいていた群衆が口を閉じた。


 数瞬の静寂の後、先に動いたのはラストの方だった。


「魔法錬金! 『大槌』!」


 魔法由来の錬金スキルを発動させたラストが、その場に身の丈ほどもある巨大な大槌を地面から形成する。彼はそれを両手に掴むと、ビビアへと突進するように襲い掛かった。


 それを見て、ビビアも素早く杖を振る。


「『柔らかい手のひら(パーム)』! 防壁陣!」


 基本中の基本の魔法である、薄い魔法の膜を発生させる『柔らかい手のひら』の魔法。


 ビビアは4年前より何より得意とするこの基本魔法を、前方から一直線に突進してくるラストの前方に網を投げかけるようにして展開した。ユラリと揺れながら何枚も出現した魔力の膜は、人の手のようなぼんやりとした輪郭をいくつも形成しながら、ラストの進路を包み込むようにして阻もうとする。


「薄膜一枚で! この突進が止められ――――ッ」


 構わず突進して突き破ろうとするラストは、その膜との接触の一瞬前。


 何かを思い直して足先で芝生を削りながら急停止し、ゆったりとした速度で自分へとにじり寄る薄膜の一群から距離を置いた。


 その瞬間、風に吹かれるままに揺られていた魔力の薄膜が……突如として、ギュルン! と竜巻に巻き取られるように高速回転する。思い直して立ち止まらなければ、そのまま突っ込んでいたはずの地点。そこを中心として、何枚もの薄膜が一瞬にして強力な力で巻き込まれて、ねじり上がったのだ。それはまるで、獰猛な食虫植物の捕食を思わせた。


「ちっ……捕縛か」


 後ずさったラストは、その光景を見て目を細める。


 あのまま突っ込めば、膜の回転に巻き込まれて縛り上げられ、身動きが取れなくなっていただろう。

 単なる時間稼ぎとして展開されたのではなく、膜自体に何らかの行動規則が与えられていたのだ。


「ほう! 勘が良かったみたいだね!」


 そう言ったビビアは、自分とラストの間にさらに数枚の『柔らかい手のひら(パーム)』を追加した。


 その膜に近寄らないように後ずさるラストは、歯噛みしながら逆に距離を取る。


「こすい真似しやがって……」

「ふふん! 君の系統は、魔法を活用した近接格闘型! 僕の『封印膜(シールド・カーテン)』が最も得意とする相手さ!」

「薄皮の何枚かを貼ったくらいで、調子に乗るなよ……!」


 そう吐き捨てたラストは、尖らせた槌尻を地面に突き刺し、また別の魔法を発動させる。


「『火炎術』! 『禍火』!」


 ボボボッ、小さな火球を数個展開したラストは、それを火の粉を散らすようにしてビビアに向かって飛ばした。


 二人の間に貼られていた『柔らかい手のひら(パーム)』の薄膜に火球が接触すると、それは魔力の不思議な色で燃え上がり、ビビアの展開した薄膜を次々に燃やし始める。


「なっ! 卑怯だぞ! 魔法の火は苦手なんだ!」


 あっけなく焼却されてしまった魔力の薄膜を見て、ビビアが焦ったようにそう叫んだ。


「こんなマッチ程度の火で燃やされる方が悪い!」

「くそーっ! 普通の火には強いのに!」


 後退しながら、ビビアは自分の前方に連続で『柔らかい手のひら(パーム)』を展開し続ける。

 しかしラストはその薄膜を次々と火球で燃やして打ち消しながら、大槌を構えて前進し続けた。


「追い詰めたぞビビアぁ! 降参しろ!」

「くそっ! まだまだこれからだ!」


 後ずさりながら、ビビアは微妙に薄膜の展開方法を変えていく。

 それは出現した物を次々打ち消すラストには気付かれない程度の、微妙な状態の遷移だった。


 二人の距離が少しずつ近づいて行き、互いにその時に向けて必殺の一撃を構え合う展開。


 白熱する決闘の模様に、群衆が釘付けになっている所で……。


「トドメだ、ビビア!」

「かかったな、ラスト!」

「ストーップ! そこの二人! 止まりなさい!」


 突如として甲高い女性の声が叫ばれたが、すでに互いの射程圏内で肉薄した二人には届かない。


 制止の声を無視して、二人は互いの必殺技を発動しようとした。


「死なない程度に死ね!」

「後遺症が残らない程度に吹き飛べ!」

「だから、止まりなさいって言ってるでしょうが!」


 最後にそんな女性の声が響いた、次の瞬間。


 大槌を振り上げて迫ったラストと、自分の周囲に展開していた不可視の薄膜を一斉に迎撃へと向かわせたビビアは……


 互いに横合いからの衝撃派に呑み込まれ、鉄球に弾かれたかのように吹き飛ばされた。


「ぐぁああっ!?」

「ぬわぁあっ!?」


 突然の衝撃で吹き飛んだ二人は、互いに受け身を取りながらそちらの方向を見やる。


 そこには、群衆の中から歩み出る一人の女性騎士が居た。


「学校で何をやっていますか、二人とも! 拘束します!」

「王国騎士団!?」

「どうしてこんなとこに! ……って!?」


 驚いているラストとビビアに歩み寄ったのは、長い金髪を風にたなびかせる女性騎士。


 今しがたスキルでもって二人を吹き飛ばした大剣を鞘に納めながら、彼女は二人に言う。


「私は王国騎士団、警察騎士部隊所属のヘンリエッタ副長補佐官です! 二人とも、私闘の現行犯で拘束しま……って、ビビア君!? 何やってんの!?」



ラスト「明日も18時更新だな! ビビアぁ!」

ビビア「ふん! 果たして本当に18時に更新されるかな!」

ラスト「更新から逃げてんじゃねえぞ!」


エステル「あと、追放者食堂3巻は今月25日発売予定である!」

アトリエ「エステルが表紙」

エステル「余の威光の前にひれ伏すといい!」

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