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追放者食堂へようこそ! 【書籍第三巻、6/25発売!】  作者: 君川優樹
1st Season アフターストーリーズ
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AFTER2 ビビア (中編)



 誰も来ない部屋に、女の子に二人きりで呼び出されたとあっては……

 男の子としては、まさか行かないわけにはいかない。


 ビビアは呼び出された先の実験室へと向かいながら、色々と思考を巡らせている。


 これは……つまり、そういうことなんだろうか?

 やっぱり告白とかされて……それで、その先も……?


 いやいや! やっぱりそこはだな!


 僕も男として、彼女にバシッと言ってあげないといけないよなあ!


 たとえば……


 「ヴィンツェさん。気持ちは嬉しいけど……僕も実は、あれから気持ちの整理がついてなくてね……返事は、その後でもいいかな……」


 なんてね! なんてねー!!


 色々な妄想をはちきれんばかりに膨らませたビビアは、つい先ほどの自分の失態など、頭の片隅の極北の向こう側へと消えてしまったようだった。

 ドキドキの胸を抱えながら実験室の扉に手をかけて、嫌にひんやりとした金属製のノブをひねる。感覚が鋭敏になっているような感じがあった。


 扉を開いてみると、実験室の机の一つに、ヴィンツェが腰かけていた。

 彼女は窓から差し込む夕焼けの赤光を浴びながら、部屋に入って来たビビアの方を振り返る。


「ビビアくん。来てくれたんだ」

「ああ、ヴィンツェさん。そのさ……」


 ビビアが小さな鼻頭を指で掻きながら、気恥ずかしそうにそう言った。

 そんな彼の様子を見て、ヴィンツェが微笑む。


「ちゃんと来てくれて、嬉しいな」

「う、うん。あの、それで、用件って……」

「ありがとう。チョロくて助かったよ」

「はい?」


 ビビアはそんな声を上げた。


 次の瞬間、後ろから伸ばされる手が、ビビアの首元を捕まえる。


「……ぅえっ?」


 背後から襲い掛かられて、ビビアはそのまま床に組み伏せられた。

 視界がドタドタと倒れて、意味がわからないまま地面に転がってしまう。


 細い首を掴まれて、後ろ手に関節を極められ……頬を床に押し付けながら、ビビアは目を白黒とさせる。


「へっ……へっ!?」


 ビビアは身体を捻り、自分のことを組み伏せた男の顔を確認した。

 その顔を見て、彼はさらに混乱してしまう。


「べ、ベルペン先生……?」


 先の授業で「幻霧祭の夜に戦った」と自称して、ビビアの不信感を買っていた男性教諭。

 彼が表情を押し殺した顔で、大人の力を使ってギリギリとその細腕を極めていた。


「ちょっとは手こずるかと思ったら。案外あっけないものね」


 机の上に座っていたヴィンツェは、そう言ってピョコンと床の上に降り立った。

 全くもってわけがわかっていない様子のビビアは、彼女のことを見上げながら、震える声を絞り出す。


「あ、あの? ヴィンツェさん?」

「やっぱり、思春期の男の子ってどいつもこいつもこうなのかな……? ちょっとチョロすぎない?」

「えっ、これは、なんで……」


 半分泣きそうになっているビビアを見下げて、ヴィンツェは微笑んだ。


「あなた。あのデニス・ブラックスに、大層可愛がられてるみたいじゃない」

「デニスさんが……なんだ? どうしたんだ?」

「ビビア君。あなたは餌なの。あのデニスを引き出すための、可哀そうなエサ。この世界に、ヒース様を再臨させるための……生贄ってとこね」

「ヒース、様……?」


 そこまで聞いたところで、ビビアはハッとした。


「まさか君は、『子供たち』の……」

「ご名答。あの夜に、ミニョンもメルマも絵描きもフィオレンツァ様も。みーんな一網打尽にされちゃったけれど。私はその残党ってとこね」


 懐から小杖を取り出しながら、ヴィンツェはそう言った。


「私たちと一緒に来てもらうわよ、ビビア・ストレンジ! あなたを人質にとって、あのデニスをおびき出す!」

「そ、そんなことをして……どうするつもりだ!」

「ヒース様は死んでしまったわ。だけどまだ……その実弟であるデニス・ブラックスがいる! 血の繋がった双子である彼なら……きっと、ヒース様の代わりになってくれるはず!」


 うっとりとした表情を浮かべながら、ヴィンツェは杖の先に魔法を蓄え始める。


「あのデニスなら! きっとヒース様の思想に目覚め、同じことを成し遂げてくれるはずだわ! 私たちを率いる、第二のヒース様になってくれるはず! お前はそのための人質になってもらうっ!」

「そ、そんな! 上手くいくかあ!」

「あはは。そう思えるのは私の魔法を知らないから」


 ヴィンツェは微笑みながら、杖の先から紐状の魔力を引き出した。


 カーテンの隙間から零れる陽光の帯のような、不思議な魔力の紐。

 それに魔力を再充電すると、バシンッ! という音を立てて光量が増し、白く輝く縄のように実体化した。


「物体と非物体を問わず、がんじがらめに縛り付けて意のままに操る拘束魔法! 人の心を拘束することで疑似催眠のような効果を発動する、この私の魔法があれば! あははは! あはははは!」


 高笑いするヴィンツェを見て、ビビアは背筋が凍るのを感じた。


 あのヒースを信望する、『子供たち』の残党……!

 幻霧祭の夜にみな拘束されたと聞いていたけれど、まだ残っている者もいたのか……!


「べ、ベルペン先生っ! どうして、なんでこいつに協力するんだ!」


 身をよじりながら、ビビアは自分の背後にそう投げかける。

 この先生も、すでに彼女の魔法の拘束下にあるのか――?


 ビビアを組み伏せるベルペンは、何かに憑りつかれたような眼をしていた。


「彼女から話を聞いたよ……私も、彼女の大いなる野望に参加させてもらう! あのヒースが目指したという『世界の終わり』! このまま学校の一教員として終わるなんて、まっぴらごめんだ! 私も、大きな計画のために戦うのだ!」


 自分を拘束するベルペンの目を見て、ビビアは何かを感じた。


 同じだ……この男は、昔の僕と同じだ!


 自分の才能が、正しく評価されていないという劣等感。

 自分には、もっと大きな何かが出来るはずという妄想。

 そのために手っ取り早い非日常と承認を求める……自己実現欲求。


 そんな激しく渦巻く内面を、彼女の魔法によって捕らえられたのか――?


「くそっ! お前ら、どうするつもりだ! 僕を、デニスさんを! どうするつもり――」


 ビビアがそんな叫び声を上げようとして、ベルペンの手で口が塞がれる。


「んぅー! んんぅーッ!」

「痛くしないから、心配しないでね。ビビアくん」


 ヴィンツェがそんな声をかけながら、ビビアの身体に魔法の縄を巡らせる。

 彼の身体を縛り付けて食い込み始めた光の縄は、そのまま皮膚を通過して、もっと深い部分を縛り付けようとした。


「大丈夫。あなたの心を拘束してあげるわ。言いなりにしてあげる……」

「んんぅーっ! んんー!」


 口を塞ぐ手のひらの奥から、ビビアのくぐもった悲鳴が響く。



 そこで、不意に。



 とつぜん、実験室の扉が開いた。



「ビビア―。お前、こんなとこで何してんだ」


 扉を開きながら、登場した人物。


 その大きな背格好の男を見て、実験室の三人が全員固まった。


「……はえっ?」


 思わず、ヴィンツェまでもがそんな間抜けな声をあげる。


 実験室に入って来たその大柄な男……筋肉質な、コック風の服装をしたその男は……


 スキルを発動しようとしていたヴィンツェと、ビビアを組み伏せているベルペンと、床に這いつくばっているビビアを順番に見てから。


 一瞬間を置いて、口を開いた。


「なんだこりゃあ!」

「で、デニスさん!?」


 ビビアが叫ぶと同時に、ベルペンが組み伏せていた身体から手を放し、ヴィンツェと共に戦闘の構えを取った。


「で、でででデニス、ブラックス!?」


 ヴィンツェが混乱した調子でそう叫ぶと、デニスも同じくらい混乱しながら叫び返す。


「な、なんだこれは!? どういう状況だ! ビビア、お前なんで縛られてるの!? そういうプレイなの!? なんで学校でそういうプレイをしてるの!?」

「いや、違うんです! 違くないんですけど、違うんです!」


 光の縄で全身を複雑に縛られるビビアが、そう叫び返した。


 混乱の渦中にあるヴィンツェも、負けじとデニスに向かって叫ぶ。


「で、デニス! どうしてこんなところに!?」

「ビビアのクラスメイトに聞いたんだよ! 実験室に歩いて行ったって!」

「いや! なんでこんな、魔法学校に!?」

「だ、駄目かよ! 俺、ここの食堂の監修やってんだよ!」

「はっ! そんなこともあったなあ!」


 ビビアは以前に、デニスと一緒にこの学校を訪れた時のことを思い出した。


「ビビア! 何やってんだてめえ! これはどういうことだ!?」

「あのですねえ、デニスさん! これはですね!」

「学校は、その……そういうことをする所じゃないだろ!」

「いや! これは魔法が悪いんですよ! そういう見た目になってしまう魔法の方が悪いんですー!」

「お前、ついに襲われる側になったわけか!? 性的な目的で襲われる感じの魔法使いになったわけか!? どういう方向で成長してるんだお前は!」

「違う! 違わないような気もするけどちがーう!」


 ビビアが微妙に服をはだけさせながら、身動きの取れない様子で叫んだ。


 ベルペンと共に対峙するヴィンツェは、歯ぎしりを立てながら杖を構える。


「ま、まあ! 手間が省けたということね! デニス・ブラックス! ここで、あなたは捕まえさせてもらうわ! ヒース様から譲り受けたレベル90級スキル、喰らいなさい!」

「魔法学校の教員を舐めるなよ、デニス!」

「ああ? なんだこの野郎」


 デニスは面倒くさそうにそちらを見ると、指をポキポキと鳴らす。


「まあ、ちょうどいいや。最近ありがてえことに料理ばっかりだったからな。たまには、身体動かしたっていいだろうよ」



オリヴィア「食堂の監修云々につきマシテは、第二部9話『出張追放料理人!炎の授業参観!(後編)』を参照デス!」

ビビア「すごい! 読者の99.98%は忘れてる設定だ!」

エステル「前後編にまとめるつもりであったが、中編に分かれてしまって申し訳ないな!」


次回『AFTER2 ビビア (後編)』

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