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追放者食堂へようこそ! 【書籍第三巻、6/25発売!】  作者: 君川優樹
第4部 追放騎士と世界のオワリ
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18話 子供たち (中編)



 王城へと続く大通り。


 背の高い建造物が並ぶその広い一本道は、爆音と破壊音、それに悲鳴と煙と炎が支配しようとしている。


 重要拠点を同時に襲撃した子供たちによって、王都は戦場さながらの混乱と狂騒に包まれている。

 それはもはや、まさに戦争状態なのかもしれなかった。


 その光景を背の高い建物の屋上から眺めながら、一人画材にスケッチを走らせている片足の子供がいる。

 手元の画布(キャンバス)には精巧緻密な王都の風景が描かれており、彼は細筆を何本かまとめて手に取ると、その毛先に黄色の絵の具を取って、乱暴に何本もの縦線を描き殴った。


「『前衛芸術(アバンギャルド)』!」


 彼がそう叫んだ瞬間、キャンバスに描かれた通りの攻撃が再現される。

 王都に突如として無数の光の矢が降り注ぎ、建物を破砕し、破壊的な轟音と共に地面を貫いた。


「見たか! この野郎どもぉ! これは天罰だ! お前たちへの天罰だ!」


 その阿鼻叫喚の光景を見て、少年は泣きながら笑う。


「お前たちが悪い! みんな死ね! みんな殺されてしまえぇ! 上等な服を着た紳士共! 残飯を漁ることを知らない貴婦人ども! 何不自由なく暮らす鬼畜どもぉ!」


 唾を飛ばして叫びながら、少年は狂ったように筆を繰り、この世界に反映させるための攻撃を画布に描き続ける。泣きながら、笑いながら絵の具を塗りたくり続ける。


「お前たちがパンを一つでも分けてくれたら、僕の妹は死ななかったんだ! 僕たち孤児に、一つでも家を分けてくれたら! 温かい部屋を分けてくれたら! あんなに衰弱しなくてもよかったのに! お前たちが悪い! お前たちが全て悪いぃ!」


 声変わり前の高い音域で叫ばれる怨嗟の言葉は、悲鳴に包まれる王都にむなしく響き渡っている。



 場所は移り、王立裁判所近くの刑務所。


 牢獄が並ぶその施設の通路で、ヴァイオリン弾きの少女が旋律を奏でながら歩いている。

 演奏される穏やかなクラシックは、冷えた石壁と鉄格子に染み渡るように反響していた。


「ふふふーん? この曲、お父さんが好きだったなあ。お金も無いのに、よく演奏会に連れて行ってもらったもんなあ」


 カツカツと鳴り響く足音と一緒に、繊細な音律が奏でられている。


「演奏会場の前には出店があって、よくホットドックを食べたなあ。演奏会が終わった後に、お父さんと一緒に食べたなあ。とっても美味しかったなあ」


 カツンッ、と足音が止められた。


 少女が立ち止まったのは、とある牢獄の前。


 そこには、つい先日に逮捕されて禁固刑が言い渡されていた、ある囚人が怯えた様子で縮こまっている。彼は以前にとあるカフェへと強盗に押し入って、そのマスターを殺して金品を奪った強盗殺人の罪に問われていた。


「さて。私はミニョンって言います。私を覚えてる?」

「ゆ、許してくれ。許して……」

「どうして人の物を盗ろうとするのかしら? 私にはわかんない。お金ならあげるって言ったのに。言ったのにねぇ!」


 張り詰められた弦が弾き鳴らされ、破壊の旋律が奏でられる。


「『星の(メロディ・)旋律(デトワール)』!」


 怒りと悲しみのクラシックが鳴り響く。



 それは王都の各地で、同時多発的に発生していた。


「お前たちなんか死んでしまえ! 死んでしまえぇっ!」


 顔に大きな火傷の痕がある少女が叫び喚きながら、異常な火力の魔法で王立裁判所を焼き払っている。



「お母さんを返せ! 僕たちの人生を返せぇ! 返せっつってんだろうがァ!」


 髪の長い少年が、極大魔法によって植物を急成長させ、太い幹と無数の枝葉が王国騎士団本部の建物を貫き、瓦解させていた。

 取り押さえようとする騎士たちを、その少年は植物を操っていとも簡単になぎ倒し、近寄ることすら許さない。


「お前たちがちゃんと捜査してくれなかったから、お母さんは死んだんだ! 僕は言ったのに! お父さんが殴るんだって言ったのにぃ! 何が警察騎士だァ! お前たちが殺したんだァ!」


 無数の怨嗟が、この世界への声高な憤怒が、王都に響き渡っている。


 そんな地獄絵図を……空中を飛行するオリヴィアが、上空から観察していた。


「コレは、一体……アッ!」


 オリヴィアは喧騒の大通りの中に何かを見つけると、鷹が上空から獲物を狙うようにして、急直下の稲妻のように地上へと降りていく。


 背中に格納された二基の出力口(ジェットエンジン)から排気を調整して地面に降りると、オリヴィアはホバリングしながら、見つけた彼らに対して声をかける。


「デニス様!」

「オリヴィア!」


 オリヴィアが見つけたのは、デニス一行だった。

 先頭にデニスを置きながら、側面にケイティやツインテールとポニーテールを配置した町民たちの一団は、大通りを突っ切るようにして駆けていた。


 狂騒の中で王城へと向かっていたデニス達と、オリヴィアが合流する。


「アトリエ様が王城に居るようデス! ヒースという方と一緒ニ!」

「王城はどうなってる? エステルは、他の連中は?」


 デニスがそう聞くと、オリヴィアが地面スレスレをホバリングしながら答える。


「ソレガ……王城前で子供たちが防衛線を張ってオリ、誰も近寄れない状態デス……!」



 ◆◆◆◆◆◆



 オリヴィアと共に王城前広場に辿り着いたデニス一行は、そこで件の防衛線とやらを目の当たりにすることになった。


 王城の目の前で一列に整列する子供たち。

 彼らは空中におびただしい量の巨大な魔方陣を展開し、一切の侵入者を拒もうとしている。


 広場で大量に発生した怪我人の救護に当たっていたエステルとポワゾンとジュエル、それにヘンリエッタとバチェルは、デニス達の到着に気付いた。


「大将ー!」

「店長!」


 ヘンリエッタとバチェルがそう叫びながら、デニスの下へと駆け寄って来る。

 その後ろからは、負傷者の手当てをポワゾンとジュエルに任せたエステルが、パタパタと駆けて来るのも見えた。


「デニス! よく来てくれた!」

「……エステル、状況は?」


 デニスがそう聞くと、彼女は苦い顔を浮かべて、王城前の魔法の要塞の如き防衛線を振り返った。


「……駄目じゃ。近付こうとすれば、展開している魔方陣のどれかが起動して特大の火力を打ち込んでくる。あの連中、どいつもレベル90級の使い手である。どうにも近寄れん」

「エステル、お前のスキルではどうにかできないのか?」

「余の『虚実重なる王の逸話(エクスカリバー)』では、火力が高すぎて……」


 エステルはそう言って、剣のグリップを握った。


「全員吹き飛ばしてやることは可能であるが……そうしたならば、あの並んでいる子供たちを間違いなく皆殺しにしてしまう。アトリエ嬢が居るという王城も、一緒に吹き飛ばしかねん……最後の手段であるな」

「王城の中には、誰かいないのか?」


 デニスがそう聞くと、エステルは首を振った。


「幻霧祭でみんな出払っていて、戦力になりそうな人員は残っていない。ティアの父上殿が、仕事で残っているかもしれないが……まさか事態は解決できまい」

「すでに、部隊を側面から回り込ませています」


 そう言って近づいてきたのは、いささか甲冑がひしゃげて汚れた様子のジョヴァン団長だった。

 彼は土や砂で汚れた白い長髪を気にする素振りも見せずに、エステルに報告する。


「王城右翼からは、ピアポイント副長率いる警察騎士部隊が。左翼からは、コールドマン副長指揮で防衛騎士部隊が」


 ジョヴァンの報告を聞いて、エステルが頷いた。


「とにかく、正面突破は現実的ではない。側方から回り込む部隊に一旦任せよう。ポワゾンの病毒魔法も、打ち消されてしまって通用しないのだ……並んでいる子供たちの中に、同系統の使い手がいるらしい」

「ンドゥフフフ……側面にも、あの子供たちが配置されていたらどうするネ?」


 エステルにそう言ったのは、デニスと一緒に着いてきたポルボだ。


 ポルボの意見に賛同するように、ツインテールとポニーテールも頷く。


「ぜーったい! 横からの侵入なんて想定内だよ!」

「ぜーったい! 何かあるって! 前しか守ってないわけないもん!」


 彼女らの意見に、バチェルも頷いた。


「もしくは……あの防衛線は単なる時間稼ぎで、それくらいの時間が稼げれば、目的が果たせるということかもしれんな……」

「それか、完全に囮かもね。さも仰々しく守っているように見せかけて、何も守ってないってやつ」


 バチェルの推測に付け足して、ケイティがそう言った。


「王都の混乱も、全部陽動なのかも。わからないけどね」


 ケイティがそう言って、デニスの方を見た。

 あんたはどう思う? という目つきだ。


 デニスは魔方陣の防衛線を一瞥すると、オリヴィアに尋ねる。


「アトリエは、王城の最上階……あの尖った部分にいるんだな?」

「ハイ。ジュエル様が、そう仰っていました。幻霧祭の機械が置かれている場所デス」

「なら、とにかく突破だ。ごちゃごちゃ考えるより、一度突破してみりゃわかる」


 そう言うと、デニスはビビアの肩を掴んだ。


「……ビビア。何か手はないか」

「えっ。作戦ですか? 僕、そういうキャラじゃ……」


 戸惑った様子でそう言ってから、ビビアは「あっ」と声を漏らす。


「もしかしたら……こうすればいけるのかな」

「何か思い浮かんだか?」


 デニスがそう聞くと、ビビアが手を伸ばした。


 彼が指差した先には、ヘンリエッタ。


 彼女は自分が指差されたのに気付いて、「はえ?」という声を上げる。


「わ……私?」

「冒険者パーティーを追放されたヘンリエッタさん、ブラックパーティーを追放されてやったバチェルさん!」


 ビビアは一人一人の顔を見ながら、そう言った。


「追放魔法使いの僕! それに追放メイドオリヴィアさん! 追放姫のエステル真王! 町の皆様方! ケイティさんにジョヴァン団長!」


 その最後に、ビビアはデニスのことを見上げる。


「そして、追放料理人……デニスさん!」 


 ビビアがそう言って、その場にいる全員に語り掛ける。


「単純な作戦ですが……全員で力を合わせれば、あの防衛線を突破できるかもしれません……命の保証は、できかねますが! 特にヘンリエッタさんの命の保証は!」

「えっ!? なんで私だけ特に危険なの!? ビビアくーん!?」



オリヴィア「公式の発売日は明日デスガ! すでに発売している雰囲気もアリマスネ!」

デニス「だがそんなのは関係ねえ! 第四部はクライマックス! このまま突っ切るぞ!」

ビビア「デニスさん!? 関係なく無いですよ!? よろしくお願いします!」

エステル「追放者たちの運命や如何に!」


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