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追放者食堂へようこそ! 【書籍第三巻、6/25発売!】  作者: 君川優樹
第4部 追放騎士と世界のオワリ
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10話 料理長と追放料理人 (中編)


 数秒後に無数の光矢が二階の居住部を突き刺すのを、『反転予知(ラプラス)』の自動反応が予知した。

 全身を貫く激痛と、それに一瞬遅れて見える、壁を貫いて出現する無数の青い矢影。


 不貞腐れてベッドに寝そべっていたデニスは、飛び起きるとその場にありったけの厚底鍋や鉄製のまな板を錬金して、避け切れない光矢の軌道を逸らし、唯一出現した安全地帯に転がり込む。


「ッヅァっ!」


 次の瞬間、つんざくような轟音と共に光の矢が壁を突き破って出現し、部屋のありとあらゆる物体を串刺しにした。一瞬前まで寝ていたベッドは数十本の矢によって突き刺され、どのような生物でも絶命するであろう、一種の芸術的な有様になっている。


「一体どんなスキルだっ、くそっ!?」


 同時に肉切り包丁を錬金していたデニスは、割れた窓から、その周囲の壁をさらに粉砕して身体を突き出し、辺りを見回す。


「どこのどいつだ、この野郎!」


 叫んだ先に、すぐ向かいの屋根に立っている三人が見えた。


 夜空の下に立つ、背丈のバラバラな三人の姿。


 一人は銀髪ショートカットの、うら若い女性。

 純白の礼服と、腰に差されているのは鍔の無い細身の剣。

 あれは確か……フィオレンツァ。


 その両隣に立っている二人の子供は、ジョヴァン団長に見せてもらったどのような資料にも存在しなかった。


 一人は、首に回した紐で保持する画材に、何かをスケッチしている少年。

 左足が無いようで、そこから棒切れの義足が伸びている。


 もう一人は、ウェイトレスのような恰好をした小さな女の子。

 肩にヴァイオリンのような小さな弦楽器を置いて、もう片方の手で演奏用の細弓を握っている。


「フィオレンツァ様! 『前衛芸術(アバンギャルド)』が避けられました!」


 片足の無い少年が、画材に何かをスケッチしながらそう叫んだ。


「想定内です。ミニョン、追撃!」


 フィオレンツァが叫ぶと、隣のウェイトレス姿の少女がヴァイオリンを弾き鳴らす。


「奏でましょう! 届けましょう! 避け切れますでしょうか、お客様!」


 超高速のテンポで奏でられる、攻撃的な音楽(クラシック)


「ヒース様から頂いた、音楽家レベル90スキル! 『威風(ポンプ・サー)堂々(カムスタンス)』!」


 その瞬間、デニスは、


 自分の周囲の全てが、広範囲の音波攻撃で吹き飛ばされる予知を見た。



 ◆◆◆◆◆◆



 二階の居住部が吹き飛ばされるのと同時、一階の食堂では。


 双剣を抜いたケイティと、周囲に無数の刃物を展開したジーン料理長が、突如として来店してきたヒースへ同時に襲い掛かっている。


「『二連続攻撃』! 『必中』! 『確定クリティカル』!」

「『料理長(シェフ・ド・)の絶技(キュイジーヌ)』!」


 邂逅からの有無を言わせぬ、殺傷の波状攻撃。


 なんのスキルで対処する――?


 攻撃の刹那、ケイティはヒースが発動するであろう返しのスキルに全神経を集中させる。

 その結果として、ヒースが選択したのは。


 ()()()()、という選択肢だった。


「————?」


 ケイティの剣刃は拍子抜けするほど簡単に、ヒースの頸部に突き刺さる。


 スキルの連鎖発動により、ヒースの首を深く切り裂いた剣は続けざまに、彼の心臓を突き刺した。

 ジーン料理長がスキルによって具現化して射出した無数の包丁も、何の抵抗も無しに彼の肉を裂き、その奥深くまで侵入して突き刺さっていく。


「なに――――?」


 ジーン料理長は、その瞬間に。

 ヒースの身体の周囲に、赤い影のような……紅の残像のようなものが迸るのを見た。


 攻撃の衝撃で、ズタズタに引き裂かれ突き刺されたヒースの身体は扉を突き破り、食堂から外の大通りへと、夜空の下へと放り出される。


「や、やりましたか!?」


 その一瞬の光景を見ていたビビアが叫んだ。


「いや!」


 ケイティが叫ぶ。


「何か様子がおかしい! これで終わるわけがない!」


 ケイティとジーン料理長が構えを解かないまま、夜の通りへと転がったヒースの身体を注視していると。


 彼はぐらりと上体を起こして、立ち上がり始めた。


「————っ!?」


 その姿を見て、ケイティは自分の目を疑う。


 無数の刃物で突き刺し、首を切断直前まで斬り抉り、心臓を破壊したはずなのに。

 なぜ立てる……?


 服を自分の血で血まみれにしながら、ヒースは何でもないように立ち上がると、首をゴキゴキと鳴らす。


「っつぅ……やっぱり、死ぬのはあんまり気分が良いものじゃないな。痛いし。いやマジで痛いなこれ」


 ヒースはそう呟いて顔をしかめると、歩き出して、またケイティとジーン料理長に対して接敵を始める。


 その首には、斬られたはずの傷が存在しなかった。

 いや、血まみれだったはずの、切り裂かれた衣服も。

 まるで何事も無かったかのように、いつの間にか……新品同然の状態に戻っている。


「どういうこと……?」

「わ、わからないわ! もう一度!」


 ジーン料理長とケイティが、混乱しながら再度接敵に備えた。


「『英雄は(バタフライ・)斃れず(エフェクト)』……『殺された過去』を修正し、『死んだこと』を『無かったこと』にした……」


 ヒースは乱れた眼鏡の位置を正しながら呟く。


「あと何回かやれば、もっと上手くできそうだ。さあ、僕をもう一回殺してみろ」



 ◆◆◆◆◆◆



 超振動の音撃によって、屋根もろとも吹き飛ばされた二階。


 デニスは半壊した壁まで突き飛ばされて、肉切り包丁を握りながら膝をついていた。

 その身体には、音波攻撃と飛び散った破片で付けられた、無数の切り傷や擦り傷が浮いている。


「いってえなっ……! くそっ!」


 『反転予知(ラプラス)』で破壊的な攻撃を予知していなかったら、危なかった。

 間違いなく全身をズタズタにされていただろう。

 直前にありったけの金属製の鍋やら何やらを錬金して、何とか振動を逃がすことが出来たが……。


 ヴァイオリンの演奏は未だに鳴り止まず、周囲がビリビリとした音波で震えている。

 しかし、曲は一旦、落ち着いた調子(トーン)のパートに移行したようだった。


 一階はどうなってる? ジーン料理長、ケイティ。アトリエ、ビビアは?

 優先すべきは攻撃を仕掛けてくる三名よりも、階下の方だ。


 身を翻して、そのまま下の道路へと跳躍して降りようとした瞬間。


 正面の屋根の上に居たはずのフィオレンツァの姿が、見えないことに気付く。


「一階へは行かせません」


 頭上から、透き通った女性の声が聞こえた。

 見上げた瞬間、フィオレンツァの高速の斬撃がデニスを襲う。


「っちぃ! 『強制退店の一撃』!」


 応戦して肉切り包丁を振り上げるデニスは、次の瞬間に無数の光矢が自分を襲う予知を見る。振り上げた勢いを横方向に逃がし、デニスは側面へと転がって、痛覚と未来の青い影が知らせる攻撃の予知を避けた。


 一瞬後に、自分が背中を預けていた壁が無数の光の矢によって貫かれる。


「くそっ! 一体どんなスキルだ!」


 予知されていようとお構いなしの、致命攻撃の嵐。

 屋根の上に立つ二人の少年と少女が、それぞれ画材と楽器を手にして叫ぶ。


「『前衛芸術(アバンギャルド)』! お前はすでに僕の画布(キャンバス)の中だ! お前が無残に殺される場面を描いてやるぞ!」

「さあ、『威風(ポンプ・サー)堂々(カムスタンス)』は最高潮(クライマックス)! 『星の旋律(メロディ・デトワール)』!」


 握られた(ブラシ)が高速で繰られ、張られた(ストリング)が再びトップギアで擦られる。

 デニスは彼らの様子を見て、自分の目を疑っていた。


 あんなガキ共が……なぜ、レベル90相当の最高級(ハイエンド)スキルを使っている?


 一瞬だけサーチスキルを走らせるだけでも、彼らのレベルとスキルが歪に構成されていることがわかる。

 そのスキルを用いるためだけに構成された、完全特化型。

 基礎と中間が存在せず、最高到達地点の最高級(ハイエンド)スキルだけで構成された少年少女たち。


 通常は存在しえない、歪な子供たち。


 ……まさか?


「僕たちの邪魔をするな、デニス・ブラックス! 僕は妹に会うぞ! また抱きしめてやらないといけない! 愛してたって伝えないといけないんだ!」

「このヒース様から譲り受けたスキル! 発掘して頂いた才能(ギフト)! 世界の終わり(エンド・クレジット)でお父さんに会うために!」


 歪な少年と少女が叫び、攻撃が再開される。

 それを見て、デニスは呟いた。


「まさか、あの野郎……ヒース野郎!」


 強奪(スナッチ)したスキルを、他人に植え付けることもできるのか!?



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