1話 追放の料理人 (前編)
『銀翼の大隊』
世界最強との誉れ高いパーティーの本部に、そのメンバーほぼ全員が参列していた。
「デニス。てめえは“追放”だ……」
大隊長ヴィゴーは、全員の前でそう言った。
突然呼び出された挙句にそう切り出されたデニスは、やや困惑した。
円卓に座るメンバーを一通り眺めると、その最奥に座るヴィゴーに向き直る。
「出てけっていうことか?」
「その通りだ」
ヴィゴーは金と青色の仰々しい甲冑をがちゃりと言わせて、そう告げた。
デニスはため息をついて、もう一度周囲を見渡した。
大きな円卓には、ナンバー2であるケイティ副長を除く全員が揃っている。
『銀翼の大隊』
たった十人で大隊規模の実力を有するという、他国にまでその名が知られる超一流の冒険者集団。
デニスは、このパーティーの“料理番”だった。
料理番といっても、彼の役割はその字面通りのものではない。
前衛職種ではないものの、錬金から回復や調合スキル、感覚操作にサーチスキルや刃物スキル。
およそ『料理』に直接的に間接的に関わるあらゆるスキルを高次元でまとめあげた、理想の後衛。
それがデニスだった。
もっとも、本職が『料理人』でメインウエポンが『肉切り包丁』という、およそ冒険者には似つかわしくない変わり種であることは確かなのだが。
「理由を聞いても?」
「前回のクエストが失敗したのは、お前の責任だ」
「は? なんだって?」
デニスがそう聞いた。
「お前がビビって『恐怖の声色』を打たなければ、洞窟龍も下の階層に逃げることはなかったんだ。あのまま戦闘を継続していれば、討伐依頼は成功していた」
「おいおいおいおい」
デニスは手を上げてそう言った。
「隊長、あんたが打てって言ったんだぜ? 確かに打ったのは俺だが、指示したのはあんただろ」
「そんなことは言っていない。責任を人に押し付けるな」
「…………」
責任を押し付けるな? 笑わせてくれるぜ。
デニスはそう思った。
前回のクエストは、年に一度だけダンジョンの未踏領域から這い出てくる『洞窟龍』というレアモンスターの討伐及び、その希少な素材を回収することだった。
しかしその戦闘中にイレギュラーが発生し、『銀翼の大隊』は戦闘の続行が困難になった。
そこで隊長がデニスに、『恐怖の声色』を龍に打てと指示したのだ。
臆病な性質の『洞窟龍』に逃げられてクエストは失敗するが、続行していれば死人が発生しかねない状況だった。
珍しく、隊長がまともな判断をしたものだとデニスは感心したものだった。
てっきりデニスは、隊長が依頼主である王族への面子を気にして、無理にでも戦闘を続行するものかと思っていたのだが。
しかし、こういうことだったとは。
「我々は世界最強の『銀翼』なんだぞ? 『銀翼の大隊』に失敗と撤退の二文字は無い。そんな指示をするわけがないだろう。今回の件は、お前の勝手な行動が招いたのだ。もしかしたら、お前は別の競合パーティーのスパイかもしれないな。我々の評判を落とすために、わざと依頼が失敗するように仕向けたのかもしれない」
好き勝手言ってくれるぜ。
デニスは頭の後ろを掻きながら、苦笑するしかなかった。
『銀翼の大隊』は初めて依頼に失敗しましたが、それは一人の腰抜けが勝手な真似をしたからであります。
そして驚くべきことに、この男は『銀翼』を貶めるために加入した、スパイの疑惑まであるのです。
スパイ疑惑のある戦犯の腰抜けはすでに追放済みですので、王族の皆様、大貴族の皆様、どうか最強のパーティーである『銀翼の大隊』を、これからもどうぞ御贔屓に。
とまあ、そういうわけだ。
「なあお前ら、これでいいのか?」
デニスはそう聞いた。
誰も、何も答えなかった。
「フロリアン、お前はどうなんだ?」
「わ、私は大隊長の判断に従います……」
神官魔術師のフロリアンがそう言った。
ヴィゴーの腰巾着め……。
デニスはそう思った。よく助けてやったのに。
「カテリーナ? お前もそう思うのか」
「えっ……あ、あたしは――その――」
「いっつも俺の料理を、旨そうに食ってくれてたろ」
「あ……わ、私も、大隊長の決断に任せるわ」
「お前もか」
どうやら同じ後衛メンバーすら、デニスの味方ではないらしい。
デニスは空しくなってきて、話を切り上げようと思った。
「よし、わかった。どうやら前回の失敗は俺の責任で、そんな腰抜けの戦犯は“追放されるべき”ってことで意見が一致してるみたいだな」
「そうだ。そもそもお前のような『料理人』は、『銀翼の大隊』に相応しくないのだ。みんな、職種は『上級剣士』や『神官魔術師』といった、きちんとしたものだ」
「『料理人』が何かおかしいか?」
デニスは周りを一瞥してそう聞いた。
その『料理人』が加入してから、この『銀翼の大隊』のダンジョン踏破力と後衛の安定性が格段に上昇し、ついには世界最強と評されるようになったのに?
「勝手にしろ。俺はもう知らん」