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インキュバス100%

召喚確率がインキュバス:100%になっているのですが

作者: 野狐もず

Q.不具合でしょうか?

A.いいえ、仕様です。諦めてください。

 召喚した魔物を使役する〝魔物使い〟というものが一般的な職業の国。駆け出しの魔物使いの少女スピカは、神殿にて期待半分不安半分の心持ちで初めての魔物召喚に臨んでいた。

 強くて格好良い、もしくは美しい魔物を使役するのは、魔物使いの夢だ。ドラゴンなんかはまさに花形中の花形であり、多くの魔物使いが稀少な彼らを召喚することを望む。

 自分の元へ召喚されるのはいったいどんな魔物だろう。運が良ければ、もしかしたらドラゴンが出てきたりするかも……そんな淡い期待にも似た気持ちを胸に、見習い期間にコツコツと溜め込んだ召喚触媒の魔石を用い、より強い魔物を召喚しやすい十連召喚に挑む。魔石を飲み込んだ魔法陣がまばゆい光を放ち、その中に現れた異形の影が像を結んでゆく――。


 光が収まりだすのに合わせて、それは神殿の床へと降り立ち、ばさりと翼を力強く羽ばたかせる。コウモリの前肢と似た構造ながらも遥かに逞しい骨格と、翼全体を包む漆黒の強靭な飛膜……しかしながら、それはドラゴンではない。

 現れたそれはドラゴンよりもずっと軽く、ずっと小柄。人間と変わらぬ四肢を持ち、艶やかながらも品のある所作でその場に跪いた。


「召喚に応じ、馳せ参じました。インキュバス、名をシーニィといいます。あなたが俺のご主人様ですね?」

 ドラゴンに似た翼を背負い、悪魔じみた先端が鏃状の尻尾を揺らし、雪花石膏の肌と筋肉質な肢体を惜し気もなく晒す美青年。それはまさしく魔物図鑑に描かれたインキュバスの姿と相違ない。図鑑の軽薄そうな色男と違い、怜悧で誠実そうな顔立ちだが……身に纏うのはてらてら光る黒いビキニパンツのみという扇情的な出で立ちは変わらない。自分のような年若い女性にとっては天敵と言ってもいい存在に、スピカは警戒心から身を固くした。


「……そんなに固くならなくても大丈夫ですよ。今の俺はあなたの魔物。あなたへ忠誠を誓い、あなたの為に誠心誠意、全身全霊を以て献身するのが使命です。野良の不埒者どものような事はしませんよ」

 妙に察しの良いインキュバスは、ともすれば冷たくさえ見える美貌を蜂蜜のように甘く蕩けさせ、忠実なしもべのような台詞を吐く。しかし、相手は口先で人を惑わす事など朝飯前の色魔。どうだか……という思いが拭いきれないスピカは差し出されたその手を取るのを躊躇う。そしてそのまま、神官の「早く残りの召喚を」という声に促されて召喚作業に戻った。初めての召喚がよりによってインキュバスである事への失望は小さくないが、今は大事な召喚に集中しなければならない――。


 そうして次々と魔石を魔法陣へつぎ込み、自分の呼び声に応じた魔物と縁を結ぶ。仔細は割愛するが、結果は以下の通りとなった。

 一回目。インキュバス。

 二回目。インキュバス。

 三回目。インキュバス。

 四回目。インキュバス。

 五回目。インキュバス。

 六回目。インキュバス。

 七回目。インキュバス。

 八回目。インキュバス。

 九回目。インキュバス。

 十回目。インキュバス。

 ……見事にインキュバスばかり。十連召喚を終えたスピカの前には、目のやり場に困るきわどい姿の美青年たちが勢揃いしている。

 十連召喚が単一種で統一されてしまうのは非常に珍しいことだ。召喚主である魔物使いがその種族と特別相性がよくない限り、決して起こり得ない。つまりスピカは、このスケベの権化たちと相性がよいのである。知りたくなかった事実だ。


(問題は、このインキュバスたちをどうするかだけど……)

 インキュバスなど特殊な用途――いわゆるハニートラップや闇討ち――でしか使えない魔物は、普通の魔物使い、それもまったくの新米である自分の手に余る。スピカとしては、即刻送還するしかない。

 しかし、肝心のインキュバスたちは魔物使いの元で活躍するのが夢であるらしく、大人しく帰ってはくれない。むしろ、揃いも揃ってセールスポイントを推してやる気を見せる始末だ。召喚を取り仕切る神官も、こんなインキュバスたちの様子に「魔物が、それもインキュバスが最初からここまでやる気と忠誠心を見せるのは珍しいことだ。あなたはよほど彼らに気に入られている。送還は無理だろう。うまくやっていきなさい」と言い、スピカをさっさとたたき出してしまった。新米魔物使いが溢れる今のシーズンの神殿は大忙しなのだ。こんなことで後を詰まらせてはいられない。


 泣きたいのは、インキュバス×10と一緒に神殿から叩き出されたスピカだ。こんな魔物を十匹も抱えてどうしろというのかと、雑踏で途方に暮れる。そんな彼女を不憫に思ったらしいインキュバスたちは自慢の肉感的なボディを擦り寄せ励まそうとするが、スピカにとっては公共の場に相応しくない歩く十八禁たちにおしくらまんじゅうされるのは非常に喜ばしくない。歓迎されてないというのに甲斐甲斐しくするあたり、悪い奴らではないのかもしれないが……いかんせん、巡り合わせがとことん良くなかった。

「とりあえず、もう少し露出度を減らそうか」

 インキュバスでどんな仕事がこなせるか。果たして本当にインキュバスとうまくやっていけるのか。送還が叶わない今、考えることは山積みだが、まずはそこからだ。このまま風紀紊乱(びんらん)の罪で衛兵にとっ捕まっては話にならない。

インキュバス×10でどこまでやれるのか。新米魔物使いスピカちゃんの腕が試される――!

(サキュバスにおしくらまんじゅうされる小説は多々あれど、インキュバスにおしくらまんじゅうされる小説はなかなか見ない……という訳で、むしゃくしゃしてやりました。反省はしていない。続きは構想中。平たく言うとフラストレーションに任せた単発ネタです。続いたら連載版を設置します)

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