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複合魔法

 

  しばらくざわついていた教室だが、一組のペアが円の前に出てきた。

 

  ペアの三人はエリオットが頷いたのを確認し円の真ん中に向かって手をかざす。


  突然円の中心に青色の淡い光が三つ出現した。その光は数秒して一つの眩い光に。形の定まらない光は徐々に形を成していき。


  「すごいな……」


  思わず光一が感嘆の声を漏らした。

  先ほどまでの光は大きな氷の塊へと姿を変えていた。

  周りからも賞賛の声が上がる。相当レベルの高い事だったのだろうと光一も理解した。


  「D級からB級魔法に変化…… 中々素晴らしい複合魔法だな」


  エリオットも驚きを示している。


  そこで光一にまた新たな疑問が生まれる。レイナに聞きたいところだがこれ以上簡単なことを聞いてしまうと怒られそうなので、フィオナに聞くことにした。


  「アルヴァさん? 何か気になったことでも?」


  「……基礎魔法とかD級魔法とか、どういう感じで分類されてるのかなって思って」


  この世界では知ってて当然のレベルの話なのだろうがどうしても光一には違いがわからなかった。


  「そうですわね……魔法は攻撃系と補助系の魔法に分かれていて、攻撃系の魔法はE〜SSに分類されているのです。その攻撃系と補助系の魔法を合わせて分類する際に基礎、中級、上級魔法という名で分類されるのですわ」


  「へえ、そうだったんだ。 ありがとう」


  「いいえ、私に分かることなら何でも聞いてくださいね」

 

  先ほどの複合魔法の説明の時もそうだが、フィオナは光一に妙に親切な対応をしてくれている。心なしか光一と話すたびに嬉しそうに顔綻ばせている気がしていた。

  まさか、と思った光一だったがその仮説は一旦棚上げとなった。


  「私たちはどうしようか?」


  レイラが先のペアの複合魔法を見終え、光一とフィオナに向け話しかけた。

  流れからしてどのような複合魔法にしよう、と意味しているのは流石に光一も理解できた。しかし光一には何も提案することはできない。ここは女子の二人に任せよう、と考えたところで。


  「そうですわね…… 私はアルヴァさんにお任せしますわ」


  「ん?」


  「ん、そうだね。 たまにはアルヴァの意見も聞いてあげないとね」


  「え?」


  何故かフィオナとレイラが息ぴったりに光一に決定権を与えた。

 予期しない状況に光一は着いていけない。


  「いや、でも俺あんまりそういうのわからないし……」


  何とか断ろうとするが二人から無言のプレッシャーを感じる。


  「わかったよ……」


  光一が渋々承諾したのを見て二人は満足げに頷いた。

 

 とは言っても光一には魔法の知識が全くない。魔法を発動できるかどうかすらわからない、という状況だ。

  しかしレイラとフィオナにそんな事を言っても、信じてもらえる可能性は低いだろう。

 

  八方塞がりの光一であったが、どんな魔法にするか、は意外と簡単に答えが出た。


  「……じゃあ最初のペアがやってた氷の魔法にしようかな」


  レイラとフィオナが顔を見合わせる。


  「じゃあそれにしよ」


  「そうですわね」


  二人はすぐに納得した。

  あっさりとやることを決めることができ、一安心した光一であったが問題はここからである。

  魔法の使い方がさっぱりわかっていない。レイラに補助陣を描かれたが、それがどのように魔法発動を補助してくれるのかも不明だ。


  「アルヴァ、早く!」


  「え……」


  魔法発動の突破口を探していた光一だが、すでにレイラとフィオナが円の前に向かっていた。レイラの言葉に反対することもできないまま、光一は二人に続いた。


  周りの生徒の目が集まる。レイラ、フィオナには期待の目が、光一には好奇の目が向けられていた。二人は気にしていない様子だが、光一は耐えられず顔を顰める。

  やはりアルヴァは魔法も上手く扱えないのだろう。無意識のうちに光一は右手の補助陣を手で覆った。


  円の前に到着し、エリオットが頭の中で光一達の名前と顔を一致させる。

  その間にレイナが光一の腕を軽く突く。何かと思い光一はレイナに顔を向けた。


  「心配しなくても大丈夫。 アルヴァならできるよ。 手を前に出して使いたい魔法を想像するだけだから」


  光一にしか聞こえないような囁き声でレイナが勇気付ける。緊張していた光一はレイナの最後の言葉が“この世界の人間”にとっては当たり前すぎて普通は言わないだろう、ということに気づかなかった。


  エリオットが光一達に頷く。

  レイナとフィオナが手を前に出すのを確認し、一つ遅れて光一は二人の真似をする。


  身体の中を何かが駆け巡る感じがした。

  心臓を起点とする血の流れではない。何か別の得体の知れない物体が。それは膨大な力となり掌に向かって流れてきた。


  光一はその“力”に先ほど見た氷の形を写そうとする。“力”は光一の頭の中で造った氷の形をした型にはまる。

 

  直後、円の中心に光が三つ。その中の一つが一際強い光を放っている。思わず目を細めてしまうほどだ。

  周りからは先ほど剣術の模擬試合で起こったようなどよめきが。


(俺にも魔法が使えた……?)


  一つの強い光は他の二つを飲み込むように交わろうとする。


  しかし三つの光は交わることなく霧散した。消えたのではなく消されたのだ。エリオットが手を円の中央に向けていた。


  「どういうーー」


  「今日の授業はこれで終了とする。 複合魔法を終えていない生徒は次回授業の始めに行ってもらう」

 

  レイラの問いを遮りエリオットは早口で授業の終了を告げる。生徒達は暫く固まっていたが、普段とは違うエリオットの口調に圧倒されそそくさと教室を後にした。


  事情を把握できていない光一は動揺を隠せずレイラとフィオナの顔色を窺う。二人も何が起こったか理解できていない様子だ。

  そんな三人のところはエリオットが近づいてきた。


  「アルヴァ。 君はここに残ってくれ」


  「え、はい……」


  エリオットの平坦な声が光一に重くのしかかった。

 

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