目覚め
字数が結構すくないですが、キリが良かったのでお許しを!
暗い闇の中視えた感情の奔流。
怒り、妬み、悲しみ。
怒りは無能になるしかなかった自分へ。妬みは同じであるはずなのに有能なあの人へ。悲しみは誰にも理解されない孤独へ。
ーーこれは、自分の感情ではない。光一はそれだけはわかった。しかし、それはまるで自分の事であるかのように感じられる。一方でそれを同情している自分もいた。
この感情を全く理解することのないまま光一は闇の中を抜けた。
□■□■
視界が明るくなる。
光一は周りを見渡す。まず視界に入ったのはホッとした顔でこちらを見つめるレイラの姿。先程手合わせをしたグラディス。
光一がいるのはベッドの上。おそらく医務室のようなものだろう。
何が起きたか思い返している光一に口を開いたのはグラディスであった。
「すまないな。 少し強めの一撃がきれいに入ってしまった」
「いえ、こちらも試合中に余計な考え事をしてしまったのがいけませんから」
強面のグラディスが本当に申し訳なさそうな顔をしていたので、咄嗟に自分にも非があることを認める。
光一が目覚めたことを確認したグラディスは用事があるようで医務室をあとにした。
それを目で確認したレイラは光一に視線を戻した。
「どこも痛いところはない?」
「う、うん。 大丈夫。 特に痛みは感じないよ」
レイラはかなり光一に接近している。アルヴァとレイラは姉弟なので深い意味はないと思うが、光一にはこの状態は耐えられずそっぽを向いて応えた。
そんな光一を見てレイラが不思議そうな顔をする。
不自然だろうと思ったが光一はそのまま話を続けた。
「俺、どのくらい気を失ってたの?」
「一時間くらいかな。 ……はあ、治癒魔法かけてもらっても全然起きないからびっくりしちゃったよ」
(治癒魔法…… ああ、あの女の人がやってたやつか)
いきなり出てきた治癒魔法という単語に光一は記憶の中でその答えを見つけ納得した。
相当強く木刀で叩きつけられた光一であったが、痛みどころか叩かれた形跡すら残っていない。彼は身をもって魔法の万能さを知った。
「それと、アルヴァ。 その……」
レイラは急に言葉を続けられなくなってしまった。何か言いたげだが、それを躊躇しているという感じだ。
「どうしたの?」
光一はレイラに続きを言うように促した。レイラはその後もしばらく続きを言うかどうか迷っていたようだが、何とか決心したらしく恐る恐る口を開けた。
「アルヴァって、自分の事“僕”って呼んでなかったっけ?」
「え?」
レイラの一言に光一は思わず飛び上がりそうになった。幸い飛び上がりはしなかったが身体がビクッとしてしまう。
「えっと、最近俺って呼ぶことにしたんだ! 何か“俺”の方がしっくりくるなって思って!」
「そう、なんだ……」
光一の苦し紛れの言い訳をレイラは腑に落ちないという顔をしながらも何とか納得した。
一安心した光一であったが続くレイラの言葉に今度は本当に飛び上がってしまった。
「それで、いつの間に剣術を上達させたの?」
「…………」
「まあ、剣術が上達するのはいいことだけど、隠れて練習とかしてるなら私も付き合うからね」
だんまりを決め込んだ光一であったが、何故かレイラはあっさりと引き下がってしまった。光一にとっては好都合だが理由がわからない。
光一は口をぽかんと開けレイラを見つめた。
「ほら、次は基礎魔法の授業だよ。 もうすぐ始まっちゃうから急ご」
「え、うん」
光一はレイラに促され医務室を出た。
もしかしたらレイラは何か知っているのではないか。光一はそんな疑問を持ち、次の授業へと向かった。