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模擬試合2

 

  レイナとレオの模擬試合。


  木刀を手に取った二人は間合いを取る。構えというか持ち方はやはり剣道と違っていた。


  二人はしばらく相手の出方を待っていたが、レオが一気に前に出た。その勢いのままレオは木刀を振り下ろす。

  しかしレイナはそれを流れるようにかわし一撃を加える。前への勢いを殺しきれていないレオはそれを辛うじて防ぐ。

 

  試合はレイナが圧倒的優勢に見える。レイナの舞うような剣戟に対しレオは攻撃を防ぐのに精一杯であまり反撃できていない。

  よく見ればレオはかなり焦っている。そのせいで余計な隙が生まれていた。そこへレイナの強烈な一撃が脇に入った。


  レオはその衝撃で悶絶してしまう。この試合は防具を使用していないので生身の身体に木刀を当てられればそれは痛いだろう。おそらくこの試合での勝利条件は木刀を相手の何処かしらの部位に当てるということだろう。


  「恐ろしい……」


  光一の感想は防具のない試合の危険性と、レイナの見た目からは想像できない剣術の華麗さへ向けてだ。


  試合終了後すぐに倒れたレオに一人の女性が駆けつけた。女性はレオの側に座り両手を翳した。すると淡い光が放た。直後レオは何事もなかったかのように起き上がった。


  (おお! 魔法だ!)


  異世界へ来て初めて魔法を目にした光一は心の中で叫んだ。本当はもっと派手な魔法を見たかったのだが、そうでなくても彼は興奮してしまう。


  「アルヴァ? 試合見ててくれた?」


  「はいっ! あ、うん見てたよ……」


  魔法に釘付けになっていた光一はレイラが近づいてきているのに気づかなかった。そのためレイラに突然話しかけられた光一の声は上ずってしまっていた。

  そんな光一の微妙な反応にレイラは少し不満そうな顔をした。おそらく試合を見ていなかったと思われたのだろう。しかしそれ以上特に何も言われなかったので光一も愛想笑いを浮かべその場を切り抜けた。


  その後も次々と試合が終了し、名前が呼ばれていく。しかし。


  「まだ呼ばれない……」


  かなりショックであった光一はつい口に出して不満を述べてしまった。

  そんな光一の様子をレイラは同情を込めた顔で窺っている。レイラは色々と事情を知っているのだろう。

 光一はますます不安になった。


  そして数十分後。


  「最後に……アルヴァ。 一人だけ余ってしまったな」


  「はい……」


  光一が呼ばれたのは最後であった。それに一人だけ他のペアがいない。周りではクスクスと小さな笑い声が聞こえる。


  「えっと……俺はどうすれば?」


  エリオットに助けを求めるように訊ねた。知的な顔のエリオットもどうするか迷っているようだ。と、そこで今まで一言も話していなかった人物が口を開いた。


  「俺が相手をしよう。 他のやつを連続で試合に出すわけにはいかないからな」


  名乗り出てきたのは白髪の強面騎士、グラディスであった。どこからどう見ても強そうな感じがする。身長も高く体格もかなりいい。

  しかし光一はこれを逆に好機だと考えた。


  (俺の剣道の腕でどこまで通用するか試してみたいな……)

 

  光一は「わかりました」と声では平静を保ち応えた。しかし身体の方は抑えることができず光一は武者震いが起こった。


  グラディスの後に続き円の中に入る。他の生徒は全員模擬試合を終えているため、円を囲むように集まる。笑いを堪えてこちらを見ている生徒がちらほら見える。おそらく光一が瞬殺されるのを期待しているのだろう。


  (あいつら……!)


  今に見てろ、と言いたいところだが実際どうなるかはわからない。光一はまだグラディスの剣を扱うところも見てもいないし手合わせもしていない。

  しかしそんな事は言っていられない。光一は木刀を手に取り一礼をした。


  木刀を構える。光一は剣道で全国大会優勝をするほどの実力がある。試合が始まれば自然に雑念は消え、相手だけを意識の中に入れることができる。光一の目が鋭く光る。


  グラディスは光一のその眼を見て驚いているように見えた。学校で最弱だと思われていたのだから仕方がない事だが。

  グラディスは最初、特に構えることなく様子見をしようとしていたらしいが、木刀を持ち直し表情を真剣なものに変えた。


  最初に動いたのはグラディスであった。開いていた距離を一瞬で詰める。そこから目にも留まらぬ速さで木刀が光一の頭を狙う。

  しかし、光一はそれを難なくしのいだ。グラディスは咄嗟に飛び退った。光一を試すための一打であったのだろう。


  「ほう……」


  グラディスは感嘆の声を漏らしていた。周りからもどよめきが走る。

  しかし一番驚いていたのは攻撃を防いだ当の本人、光一であった。


  (相当速い攻撃だったはずだけど……)


  光一は確かに剣道の達人と言っても過言ではない。しかしグラディスの今の動きは光一でも捉えるのは難しかったはず。しかし、何故かその速さに目がついていき身体もそれに合わせて動いた。

 

  (まさか、この身体のおかげか……?)


  今の光一はアルヴァの身体を借りている。アルヴァの身体能力は相当すごいものであるのか、と光一は考えた。

  しかし、名前を呼ばれた順番からしてアルヴァは剣術の成績が一番下であった。最弱のアルヴァがこれほど高い身体能力であるとは思えない。

 

 光一は試合中にも関わらず軽く混乱してしまっていた。

  その所為か再び攻撃を仕掛けるグラディスに気づくことができなかった。


  「あ……」


  光一は頭への強い衝撃で視界が暗くなった。

 

 


 


 

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