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模擬試合

 

  教室はこれも現実世界の教室と違い広く、まるで大学の大人数用の教室のようだ。五百人くらいは入れる大きさだ。

  席も決まっていないらしく、レイラは半分以上埋まっている席から二人が座れる席を探しそこへ光一を引っ張ったまま向かった。

  光一はレイラの手の感触を堪能しながらついていった。


  レイラが選んだ席は一番前の真ん中の席。

  勉強熱心なのだろう。しかし、ここで剣術とやらを行うとは思えない。

  光一はレイラの先ほどの口ぶりからして一限目(異世界の学校でこの数え方でいいのかわからないが)から剣術の模擬試合があると思っていた。


  席に着いて数分、落ち着くことができず辺りをちらちらと見ていると、登校の時感じの悪かったレオを含む三人組が後ろの方にいた。

  三人組は光一の姿に気づき、こちらを見下すように見てくる。光一は無性に腹が立ったがそれを抑えこ前に向き直った。


  「どうしたの、アルヴァ?」


  「いや、なんでもないよ」


  レイラが光一の様子が変わったのを目敏く見つけ心配そうに声をかける。少し首を傾げているのが可愛らしい。光一はレイラに気づかれぬよう平静を装い笑顔で応えた。


  それからまた数分、光一達の前の壇上に一人の男が現れた。おそらくこの学校の先生(教授?)であろう。黒く長い髪の毛に黒縁の眼鏡。容姿も整っていて知的な雰囲気を醸し出している。

  男は軽くあたりを見渡しそれからゆっくりと口を開く。


  「ふむ……今日の欠席はゼロか」


  (ええ! 今軽く周りを見ただけだよな! 何百人いるかわからないのにあの一瞬でよくわかったな!)


  光一は叫んでしまいそうになるのを何とか心の中に留めた。しかし、表情はさすがに取り繕えず口が思いっきり開いてしまっている。

  ここにいる生徒の数は数百人。席が全部埋まっているわけではないので、一瞬で欠席があるかどうか確かめるのは不可能である気がする。周りの人達は驚いている様子はないが。

  人数を数えるのが得意なのか、それとも……


  (まさか、魔法ってやつか……?)


  光一は普通では考えることのない馬鹿げた仮説を立てた。しかし、ここは異世界。こんなあり得ないような仮説が当たっていても不思議ではない。


  (人数を数える魔法ってなんだよ)


  心の中で自分に突っ込む。


  「それでは今日の日程を伝える。 すでに聞いていると者も多いと思うが、今日はこれから剣術の模擬試合を行う。 聞いていない者もいると思うのでここでもう一度説明を行う」

 

  男の説明からして、この時間は昨日欠席した人達のための補足説明という感じだろう。その中には当然昨日休んだアルヴァ(光一)も含まれている。

  光一は模擬試合どころか剣術というのも大体のイメージしかできていないので好都合だった。


  「模擬試合では木刀を用いた対人戦をしてもらう」

 

  男の言葉に光一は目を輝かせた。まだ話の続きがありそうだが、とりあえず今の話からこれは剣道と同じなのではないかと光一は察した。

  男の言葉が続く。


  「この試合は純粋な剣術のみを競うものであるので、魔法は禁止。 E級魔法であっても使用された疑いのある者は即失格とする。最悪退学も免れないと思え 」


  男の脅しのような口調に辺りは静まりかえるが、光一だけは期待を更に膨らませ完全に興奮していた。


  (やっぱり魔法があるのか! 今の話的にE級が一番低レベルの魔法かな……)


  やはり光一は年頃の男子であるのでこういう話は大好きであった。もしかすると自分も使える可能性もある。何せこの身体は異世界の人のものなのだから。


  「それでは、これより演習場に移動してもらう」


  その言葉で生徒達は立ち上がり後ろの席の人から順に教室を出て行った。


  □■□■


  先の教室を出て五分ほど歩き、演習場とやらに移動した。

  そこは先程の教室とはまた違い只々広いだけの空間であった。周りが石造りの壁でできている、とても広い体育館といった感じだろうか。

  演習場には白いチョークのようなもので書かれた円が十二個並んでいた。縦に三、横に四個という具合だ。

  一つの円は半径五メートルほどある。おそらくこの中でペアとなったもの同士が試合を行うのだろうと容易に想像できる。


  そこへ先程の長髪の男ともう一人、白髪の強面の男が現れた。光一を含めた生徒たちは慌てて整列し二人の方を向く。


  「模擬試合を始めるにあたりまずはペアを組んでもらう。 ペアは私が成績上位順に発表するので呼ばれた者は直ちにペアを組み円の中で試合を行ってもらう。 監視役はこちらのグラディス騎士が、評価をつけるのは私、エリオットが行う」


  黒髪の男ーーエリオットーーがそう説明した。グラディスという騎士は何かあった時に止めに入る役であろう。

 成績上位順ということはこれで大体アルヴァがどの程度の実力だったのかがわかる。


  (めっちゃ上位にいたらどうしよう……恥を晒すのはやだな)


  先程まで興奮していた光一だったがいざ始まる前となると怖気付いてしまった。

  もし最初の方に呼ばれ周りに醜態を晒すことになっては異世界生活は終わったようなものだ、と光一は考えていた。


  「一組目。レイラとレオは円の中へ 」


  エリオットの声でそれまで隣にいたレイラと、いじめっ子リーダー格のレオは「はい」と短く応える。


  (レイラってそんなに剣術ってやつが凄いのか! あのレオってやつも意外とやるんだな……)


  レイラの予想外の成績の良さに光一は舌を巻いた。ついでにレオのことも見直した。

  その後も名前が呼ばれていくが、光一は円に入れる最初の十二組には選ばれなかった。


  (多分次あたりに呼ばれるのかな…… あのレイラの双子の弟だから同じくらいの成績かと思ったけど)

 

  とりあえず呼ばれなかった残り何百人は最初の十二組が終わるまで見学ということになっているらしく演習場の隅に寄っていった。

  光一はレイラの試合が行われるところまで移動した。


  (レイラの実力を見せてもらうか……)


  レイラとレオは半径五メートルの円の中央で軽く一礼し置いてあった木刀を手に取った。

  二人の模擬試合が始まる。

次回からレイラとレオの試合。 もしかしたら光一の試合まで行くかもしれません。

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