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傘の花

作者: 井口
掲載日:2016/12/18

もう、会えないと知っていました。

それでも、言えなかったのです。



たった一言だけなのに。



目の前を通り過ぎる傘たちが、くるくる回る花束に見えて

滲むあなたの姿が、とても儚く見えました。


とても尊く見えました。

ええ、笑って下さい。



名前すら覚えて貰っていない私の戯れ言ですから。



校庭には、集合写真を撮っている人達がいます。

赤い花がとても綺麗です。



1年前、校門前で自転車ごと転倒した私を「大丈夫?」と掬い上げて保健室まで連れていってくれた事は忘れません。

私には王子様に見えたのです。


優しく笑うあなたが私の心を占拠したのです。




最後の日ですら、こんなに遠巻きでしか見つめる事が出来ません。悲しいですが、今はこれで精一杯なのです。



小雨の中、自転車が前を通り過ぎていきました。

息が止まりそうになりながら、私は慌てて、その背中目掛けて言葉を投げました。





「先輩、卒業おめでとうございます!」





振り向くあなたは、あの時と同じ様に優しく笑ってくれました。

それだけで、もう泣いてしまいそうです。どんどん小さくなるあなたの背中が、傘の花にかき消されていきました。


私の言葉は届かないでしょう。

そう思うと、一気に切なさな胸を締め付けます。





もう、会えないと知っていました。

それでも、言えなかったのです。




大切な、大切な私の青春。

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