決意
「というワケで、穴倉はキショイ化けもんになったわ。 ゴブリン食ったとか言ってたわ。 あいつもう人間じゃねぇわ。 そんで次は俺らも食うかもって言いやがったわ。 こりゃ次会った時は敵だわ。 間違いねぇわ」
全員無言の中、俺は明かりに使っている火魔法ヘルフレアをまた唱えたわ。
「また火魔法スキル上がったわ。 魔力自動回復(小)のお陰で、火には困らねぇわ。 俺がいてよかったわ。 有栖川さまさまだわ」
俺は自分で自分をほめる。俺以外は、誰も口を開かない。
まぁ、ちょっと変だけどイザって時に意外と頼りになる兄貴分の穴倉がいなくなったのは、俺だってキツいわ。しかも、不穏な言葉を残していくとか、絶対敵になるやつだから余計にキツいわ。
だけどウジウジしてらんねぇわ。やるかやらないかの人生だったら、やるしかねぇのは当たり前だわ。
「穴倉が何か、俺ら食うとか、嫌になるな……」
泥島が口を開く。そりゃ嫌になるわな。お前は穴倉と特別仲良かったし、ちょっと可哀想になるわ。
でも穴倉って昔からあぁいうところあったわ。ひとりで何か見つけて、ひとりで横道逸れてくわ。
「有栖川は、穴倉と次会ったらケンカするんだろ?」
泥島の言葉に、みんなが俺を見る。
「当然だわ。 それに敵は穴倉だけじゃねぇわ。 この世界の人間も絶対ケンカふっかけて来るわ。 だから覚悟決めるしかねぇわ。 ここは日本じゃねぇし、俺らはもう人間じゃねぇわ」
この世界に仲間は自分たちだけ。そして俺らの見た目は……。
「影に、カラフルスライムに、怪しいリンゴもどき、泥だんご。
むしろ妖怪の類いだわお前ら。 美少女の俺とは相容れない存在だわ。 早く化けもんだっていう自覚持つべきだわ。 食いもんだってそんなねぇんだぞ」
俺は高木がなってる木から同じ実をもいで、しゃくしゃくと音を立てて食べる。
「あんた相変わらズ、どんな状況でモ、ぐいぐい突き進むわネ。
高木と同じ実食べるとカ、高木に悪いと思わないノ?」
1日かけて何とか習得した疑似声帯スキルで、喋れる様になった池中が俺を批判してるわ。語尾が聞き取りづらいわ。
「出た出たおい、女子パワーが。 お前バカかカラフルゼリー。 高木はいいけど他の実は仲間じゃねぇんだぞボケ。 やられる前にやらなくてどうすんだアホ。 のんきなこと言ってんじゃねぇくそが」
どんどん間引いて危険を減らしつつ、高木に栄養分集めたらどうなるか、の実験も出来るんだぞ。
「いいか、この実はな、モンスター扱いなんだぞ。 食ったら倒した扱いになって、経験値と噛み付きスキルが上がんだわ。 あと果実採集スキルもな。 周りは敵だらけだし、俺ら一文無しだから食いもん買えねぇんだぞ。 そんな時に、ほっとくと危険かもだけど食ったら美味ぇ魔物がいました、と。 どうすんのお前ら? ど・う・す・る・ん・で・す・か! 弱いまんま餓死する気かバカ。 食うしかねぇだろ。 食って生きて、戦って強くなるしかねぇだろ。 あんのクソ女神は、ある程度強くなったらチュートリアル終了っつってたわ。 俺は次に進んでやるわ。 だから食って強くなるわ」
俺はバンバン畳み掛ける。
「さすがに穴倉みてぇにゴブリン食うのは、い・ま・は!抵抗あるわ。 なるべくなら、人型は食いたくねぇわ。 でもお前、そん時が来たら俺はゴブリンだって食うかもしれんわ。 場合によっちゃ人だって食うかもしれんわ」
もう俺は止まらない。
「鑑定で高木のステータス見てみろよ。 俺ぁまだ、名前と種族名ぐれぇしか分かんねぇけどよ、人食いリンガ(実)って書いてんだわ。 完全に人食いのモンスターじゃねぇかコレ。 絶対やばいだろ。 熊谷は最初からアレだから置いといて、穴倉の次に理性失うの絶対高木だわ。 そうなったら俺は高木だって倒して食うわ」
「ちョ、バカ何言っテ!」
やべぇ、言っちまったわ。これよくないやつだな。高木確実に泣くな。めんどくせぇ……。
俺たちは頭上の高木をおそるおそる見る。
しゃくしゃく。
高木は何かを食っていた。
「ほんと、リンガってリンゴみたいな味! 甘酸っぱくて美味しいです! みなさんも食べましょ! 私は強くなりますよ! サバイバルします! 人だって食べちゃいますよー! うがー! ……ん? どうしました?」
高木が隣の実を食ってるわ。うわ実が実を食ってるの何かシュールだわ…!やっぱ見た目同じ種族は食っちゃいかんわ。それにあっさり人間食う決意するとか、こいつ化物だわ……。
「共食いキッショ……。 しかもキッパリ〝人☆食います〟宣言とかないわー。 ひくわー、高木まじひくわー」
高木の涙腺が決壊したわ。