一撃吹いてやりてえ
亡者どもはエタースに殺到する。
エタースは、シャサの様に、右へ左へジグザグに動きながら退く。
その為、後を追う亡者どもは、動きがばらつく。
だから、一体ずつ対処出来るのだ。
エタースは、神酒の霧を吹く。
一体が、断末魔の悲鳴をあげながら蒸発する様に消え、その後に襲い来た一体が、残る神酒の霧に突っ込み、同様に消えた。
まともな知能がない亡者どもは、神酒を警戒することもなく、ただ真っ直ぐにエタースに殺到して来るのだ。
眠気がエタースを襲い、一瞬、体が大きく揺れた。
それを見た亜実が、手をかざす。
すると、亡者どもの動きが止まった。
「頭に来るぜ、仮面野郎」
「野郎?私は女ですよ。うふふ」
エタースの胃の中身は、半分に減っている。
霧にして吹き出す為、一撃あたりに消費する酒の量は、意外なほど多い。
「あと一瓶か。あいつに一撃吹いてやりてえのによ」
エタースは亜実を見る。
亜実や蕀の二人の先の発言からも、十中八九、魔物が騎士に寄生しているのだろう。
神酒を吹きかけたら、効果はてきめんだろう。
そう思うエタースだが、別に騎士を助けてやろうとか、そういった正義感めいたものがあるわけではない。
ただ、自分たちに敵対して、亡者どもをけしかけて高見の見物をしている亜実を、痛い目に遭わせてやりたいと思うのだ。
現実問題として、神胃はもう何度も使えないが。
苦笑混じりのエタースの赤ら顔は、しかし、目の奥には決意の色がある。




