仮面の騎士
声を出したのはジャービルだった。
若干震えるその声に呼応する様に、混沌の全員の目が、ゆっくりネネクレアに集まる。
六芒星の子なら、あるいは!?
覚醒したのか!?
これが六芒星の力か!?
混沌全員の背筋に、寒気がはしる。
セオドールとダーハムも、ネネクレアが何かしたのか、という気持ちで、ネネクレアに視線を投げかける。
注目されたネネクレアは、セオドールとダーハムと交互に視線を交わして、困惑顔で首を振る。
誰もが得体の知れない状況に、息を荒くした。
範囲攻撃ならば、技にしろ、魔法にしろ、射程内にいる全ての者を眠らせるはずだ。
しかし、現在の状況を見ると、騎士だけを選択して眠らせた様にしか見えない。
射程内の攻撃対象を選別する範囲攻撃など、高度過ぎて聞いたことがない。
『これじゃ、乱戦に意味がねえ』
この場において、戦いの心得がある誰もが同じことを考え、戦慄する中、一人、ただ兄だけを見続けていたフィリップが一人ごちた。
「兄貴、なのか?」
戦人たちが、一斉にフィリップを見る。
そしてフィリップの視線を追い、その先にいる騎士を見る。
するとその騎士は何かを小声で唱え、口を歪め、嗤った。
「誰だ!?てめえは!」
シャサが叫んだ。
「うふふふふ」
嗤う騎士の目を覆う面が現れ、続いて口を覆う面が現れた。
二つの面が結合し、一つの仮面になる。
仮面は生き物の様に蠢き、一瞬その動きを止めた後、大きく拡がった。
そして収縮すると、しっかりと騎士の顔全体に張り付いた。
仮面が張り付いた騎士が少しその顎を上げると、目から黄金の光が漏れた。
その色は黄金であるはずなのに、豪奢な印象というより、不穏なあやしさがあった。
仮面に覆われた騎士の嗤い顔は、もう見えない。
だが、騎士はなおも嗤う。
「さあ、誰でしょう。うふふ」




