兄を見るフィリップ
通報を受けた騎士団が、足早に歩く。
真鍮の鎧ががちゃがちゃと、規則正しい音をたてて、夜の闇に響いている。
向かう先は、墓地である。
周りの野次馬は、最初こそ騒ぎながら同行していたが、騎士団の無言、その重苦しい空気を指して誰かが「やばそうだ」と言って抜けたところから、誰ともなく口数が減り、次第に人数が減っていったのだった。
残るは、数人である。
その中には、フィリップもいる。
だがフィリップは、緊迫した雰囲気の騎士団とも、その雰囲気にあてられながらもついて行く、怖いもの見たさの野次馬たちとも、意識しているものが違う。
皆が蕀と混沌に意識が向く中、フィリップだけは兄を見ている。
兄は、他の騎士と同じ真鍮の鎧を着ている。
きれいに手入れされている兄の鎧は、几帳面な性格があらわれている、と弟フィリップは思う。
他の騎士の鎧の手入れが行き届いていないのではない。
明確な違いなど、ありはしないのかもしれない。
しかし、フィリップには、違う様に見える。
輝きが違う様に見える。
兄には華がある。
周りに人が寄ってくる。
末端の人間にも優しく、分け隔てないから人が寄ってくるのか、人が寄ってくるから、末端の人間にも優しく、分け隔てないのか。
どちらにせよ、フィリップには眩しく見えている。
しかし、今の兄からは、いつもの華をかんじない。
仕事(戦い)に向かう兄はこんなかんじなのか?
仕事だから、けじめをつけているのか?
そう思うと、話しかけられない。
墓地が見えてきた。




