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参る

こいつはブレブロで出会った影ぼうしだ。

無闇に姿を現し、しかも、ござる口調。

こんな影ぼうしが、そうそういるわけがない。

マシアスはそう思う。

しかし、あの影ぼうしは殺したはずだ。

「……何故、生きている?いや、それよりも、進化しているだと?影ぼうしが妖精に?ありえねえ……!」

あずみの尖った耳と美しい容姿を見たマシアスは、得体の知れなさに鳥肌が立ち、生唾を飲んだ。

「気にするなマシアス、もう一回殺してやろうぜ……!」

そう言うフォンテスは、マシアスと視線を合わせる。その目には、多少の困惑の色がある様にマシアスは感じたが、闘気を放ち始めているフォンテスを頼もしく思えたマシアスは、静かになった心持ちであずみとフォンテスを見る。

元々粗野だったフォンテスが、努めて冷静でいようとする姿は、やはりフォンテスらしくはなかった、と、マシアスは思った。

吸血鬼である以上、敵には勇敢に立ち向かい、その退かない心を誇りとすべきだ。

そう考えるマシアスには、今、前のめりの感情を出し始めているフォンテスの姿が嬉しい。

「フォンテス様は、やっぱりそっちの方がいいですね」

マシアスの言に、フォンテスが口の端を持ち上げ、笑う。

「また負けそうな気もするけどなァ!」

本来のフォンテスの口調に、皮肉めいた内容。マシアスの士気が高まる。

吸血鬼マシアスの強さは、あの日とそう変わりはしない。

だが、戦う覚悟は決まった。

主フォンテスと並び立つのは、吸血鬼にとって心が踊るものだ。

あずみを睨んだマシアスは、残りの短剣を抜いた。

あずみの足下には、投擲され、地面に刺さっているマシアスの短剣。あずみが地面から抜き、構える。

初遭遇の場では、弱者であるあずみが誰なのか、マシアスは興味すら湧かなかった。しかし、進化したあずみは姿形からして全く違う。

なかなかに背の高い女の姿で、スカート丈の短いメイド服。

頭にはホワイトブリムで、一見すると強そうではない。

しかし、耳は尖り、体全体から人外の禍々しい気を放っていて、強さは疑い様がないのだ。

凄まじい強さを得たイゴールが仲間にいるが、この元影ぼうしは気にも留めないし、メを手にかけられる距離にいる。

にも関わらず、メの存在など無視して、人質にする様な気配すらなく、マシアスを睨み付けているのだ。

メは大汗をかき、張り詰めた雰囲気で硬直している。

そんなメとは格が違うマシアスが、さらに格が違うとかんじる相手があずみである。

「服部あずみ、参る」

その姿を目で追うことが出来たのは、イゴールとジャン・ジャックだけであった。

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