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思想の軸

言葉だけを聞けば、ガインが正義で、あの魔物が悪だ、とロイドは思う。

いや、実際、正義はガインの方だろう。

魔物・穴倉は、ガインを挑発し、己が欲望を垂れ流しているだけなのだから。

だが穴倉は無垢でもある。

ガインの価値観は、あくまで人間が考え出したモラルに基づいているし、それは人間にとっての都合のいい正義だと、ロイドはかんじた。

というのも、ロイドはかつて国と父王の都合のいい正義によって、その生命を散らすはずであったからだ。

そういったしがらみが嫌で、忍に身を墜したという部分もある。

だが、忍は忍で、殺しを行うこともままある。

だからこそ、殺しを正当化する理由を求めるし、そこは正義にこだわりたい。

だが、殺しは殺しだ。

他者を殺すという行為を断罪する資格が、自分やガインにあるとはロイドには思えない。

穴倉が、目をらんらんと輝かせながら、言う。

「そういえば、ゴブリンの数え方は匹だろう?人と一緒のつもりか?化け物。それに俺は人は殺していない。お前の様な化け物ばかりだ」

それは、先程のガインの言葉への、無慈悲な返答。

人間でありたいと願うガインは、同族(ゴブリン)を、人と近い亜種なのだ、と無意識に思っていて、それが“人”という数え方に無意識に現れていた。

その言葉尻を捉えてわざわざ拾い、嫌味な言葉を投げかける穴倉の知能の高さは、まるで人だ。

そんな魔物が、何も企まないはずはない、とロイドは思った。

穴倉は無垢ではあるが、邪悪で、抜け目がない印象がある。

ロイドは、嫌な胸騒ぎを覚えた。

穴倉の目が笑った様に、ロイドには見えた。

「待つのだ、ガイン!」

ロイドの声は届かず。

ガインは、穴倉の挑発を受ける度に、怒りと憎しみを増幅させて穴倉に斬りつける。

ロイドが、強い口調で嗜める。

「冷静になれ、ガイン!奴の挑発に乗るな!」

穴倉を、いとも簡単に切り刻んでゆく様に見えるガインは、次第に間合い深く踏み込み、一撃一撃、重い斬撃を繰り返す様になる。

穴倉は、触手をほぼ総動員して、防御と高速移動による回避に徹している。

斬るガイン、斬られる穴倉。

しかし、その斬り傷は、際限なく苛烈になるガインの斬撃と釣り合わぬ、軽度のものである。

「新しい発想、成功だ」

穴倉の裂ける様な口は、笑みの形を作る。

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