穴倉の笑み
穴倉は、自分が笑顔になっているとは思わなかった。
それは自分が認められた、との思いからの笑顔であった。
触手で斬りつけると、ガインがそれを受ける。
穴倉がガインを見ると、ガインはしっかりと穴倉を見ている。
穴倉は、引っかかっていたことを、一つ覆せた思いで、気持ちが高揚する。
「ふふふ、ふははは」
笑みが、つい声に出てしまう。
笑い声には、歓喜の感情が含有されている。
ガインは不快感で舌打ちした。
その舌打ちがまた、穴倉を高揚させる。
かつてガインは、穴倉を歯牙にもかけなかった。
だが、今回はそうではなかった。
穴倉を警戒し、自ら戦闘に割り込んで来た。
穴倉は、自分ではそう強くなったとは思っていなかったが、どうやらガインが警戒するくらいにはなったらしいことで、歓喜の感情がとめどなく溢れていた。
斬撃が見える。
初めて遭遇した時よりも、ガインの動きは速い。
以前はなす術なく斬られた穴倉ではあるが、今回は凌げている。
ガインは、得意の風雷牙を繰り出すわけでもなく、穴倉はあくまで、ガインの眼中に入ったに過ぎない。
それでも、穴倉にとっては、ガインは歯が立たなかった強者。
そんなガインが、自分と向き合っていることに快感を覚え、震えた。
「俺はね、ゴブリンを喰うのが好き。お前と会った森でも、沢山喰ったよ」
つい、挑発の為の言葉を吐いてしまった。
同族を喰われたと知れば、ガインはきっともっと敵意を向けてくれるだろう。
そう思うと高揚感を抑えられない。
穴倉は、落ち着きのない自分を自覚し、苦笑した。
ガインが怒号を発する。
「貴様!」
その声は憎しみに満ちていて、穴倉の背筋に、悪寒混じりの快感がはしる。
無意識のうちに、満面の笑みをその口にたたえた穴倉は、醜悪な獣の笑顔でガインに向き合った。




