穴倉の敵意
その喜色をたたえた顔は、穴倉の胸にちりちりとくすぶる感情を生じさせた。
穴倉の視線の先には、今にも飛びかからんばかりの殺気を放つ、怒り顔の忍、ロイド。
面頬は首元まで下げられていて、その怒りに歪んでいる口が露になっている。
その後方に、銀鎧のゴブリンことガイン。
ガインの表情は崩れかけ、泣き顔にも似た、しかし優しい目で、ロイドの背中を見ている。
それは、およそ戦闘を目前にした者の顔ではない。
穴倉はガインに対して、憤慨と落胆の気持ちを持った。
かつて、ガインとの初遭遇時に素早く斬りつけられ、額に十字傷をつけられた穴倉。
あの時のガインは無感情で、穴倉のことなど眼中にない様であった。
そんなガインが、今はロイドに対して、感情の発露を隠しきれずにいる様子なのだ。
穴倉は、ガインにとってちっぽけな存在で、ロイドはガインの気持ちを揺さぶっている。
穴倉にとってガインは、超えたい存在であるのに、自分を歯牙にもかけなかったガインが、ロイドに思い入れを持っているかの様な目をしている。
これは、穴倉に自分の存在の稀薄さ、ガインへの影響力のなさを自覚させた。
ガインの心へ、大きな爪痕を残したい。
それには、ロイドを倒すことが効果的だろう、と穴倉は考えた。
穴倉の敵意が、ロイドへ向けられる。




