歓喜の歯噛み
穴倉は、誰が見ても“醜悪な化け物”と言えるだろう。
その化け物が人語を介することは、ロイドにとって気分の悪いことであった。
祖国ネイティスでは、魔物は人間と異なるものだ、という意識が強い。
それは、魔王という存在を輩出し、常に敵対行動を取ってきた国としては当然の価値観と言えた。
そんな価値観で育ったロイドとすれば、穴倉に対して“醜悪”と思うことは、そう特別なことではなかった。
故に醜悪な化け物、と口にしたわけだが、それをガインへの言葉であるかの様に言われたことが不愉快で、ロイドは歯噛みし、小声で呟いた。
「魔物風情と一緒にするな……!」
そこにあるロイドの感情は、幼き日の経験による、ガインへの信頼。
そしてそれを踏みにじる様な発言をした魔物、穴倉への憎悪と敵意。
ガインはと言えば、穴倉に“人語を介する化け物”と皮肉られたことには一瞬やるせなさと悔しさがあったが、同時にロイドの“魔物風情と一緒にするな”という呟きと、穴倉への不快感を隠さぬ苛烈な態度によって胸が震えたし、救われた思いがした。
ゴブリンであるガインは当然、魔物である。
しかしロイドにとっては“魔物ではない”様なのだ。
魔物である自分を、この王子は“魔物でない何か”だと定義づけている様な口ぶりなのだ。
ガインの胸は熱くなる。
ロイドの歯噛みは、揚げ足取りの皮肉に使われた言葉を出した自分の迂闊さと、穴倉への怒りからのものだが、ガインの歯噛みは、やるせなさ、悔しさ、そしてそのすぐ後から押し寄せる、歓喜と感涙を堪える為のものであった。




